第19話 欲望の代償
「ピチピチしたズボンなんか履きやがって……脱がすの面倒くせえ……!」
ライナーは乱暴にエルザのズボンを脱がせようとするが、ブーツが邪魔で脱がせるのに難儀していた。しばらく苦労しながら、ズボンとパンツを左足だけ脱がせてしまうと、右足を脱がせることは諦めてしまった。
「この薬はよっぽどキツイんだな。乳房を噛んでも何の反応もねえ」
ライナーはヘラヘラ笑いながら、エルザの頬をひっ叩いた。だがエルザはピクリともしない。
エルザは眠ってるフリをしていた。雑な愛撫には嫌悪感しか湧かないが、今はそんなことを言ってる場合じゃない。この、薬で薄ぼんやりとした頭を、なんとか働かせないといけない。
男は興奮して乳房を貪っている。逃げ出すには、色ボケしている今がチャンスだ。今、逃げ出さないと、体を弄ばれて、最後に殺されるだけだ。
幸いなことに、右足側は、面倒なのか膝までずり下ろされた状態で放置されたままだった。エルザは左足の指先で、右ブーツ靴裏にある刃を引き出して、つま先にそっと展開した。それは亀のようにノロい動作だった。……体が思うように動かない。根気のいる、時間のかかる作業だった。
ライナーは、 人形のように反応の乏しいエルザに、少々不満を持っていた。
「気持ち良くヨガるか、泣き叫ぶかしてくれたら、興奮するってもんなのだが、こう無反応じゃなあ」
ライナーエルザから離れて上がると、自分のズボンと下着を脱ぎ始めた。
「面白くねえ。もうさっさと終わらせるか」
そして脱いだパンツを投げ捨てると、エルザの両脚を左右の手で押し広げて、その間へ身体を入れようとした。
その時のことだ。
エルザの右足がパッと動いたかと思うと、ハイキックのような形で、ライナーのこめかみを蹴ったのである。
「あっ!」
ライナーのこめかみから血が噴出した。
「おおお……?」
ライナーは思わずこめかみを手で覆ったが、エルザは構わず2度、3度と切りつけていく。ライナーの頭や手の甲は血で真っ赤に染まり、彼は倒れるようにエルザから離れた。
「こいつ、なんでっ……」
ライナーには、一瞬、何が起こったのか訳がわからなかった。目の前で布がバサリと動いたかと思うと、自分の頭が血を吹いたからである。その視界を遮った布とは、おそらくエルザのズボンだったのだろう。
エルザは裸のまま、立ち上がって半身に構えた。
「おおお……」
ライナーは自分の顔を撫でながら涙を流した。2度、3度切りつけられるうちに、頬と左手の甲やら、いろんなところから血が噴出している。ライナーの頭の中は怒りで一杯になった。
「てめえーっ! よくもやってくれたな!」
ライナーは血塗れの顔をあげて、般若のように睨みつけた。
その瞬間、エルザの回し蹴りが飛んで、ライナーの股間へ刃を走らせた。
「うわああああっ!」
ライナーは絶叫した。勃起したそれは、半ばから斬り飛ばされて床へボトリと落ち、残された片割れは泣き叫ぶかのように血を吐き流していた。
ライナーの心の中では、絶望が、次に悲しみが、そして怒りが巻き起こっていた。そんな感情が三つ巴になって、ライナーは赤鬼のような形相でエルザを睨み……そして絶叫した。
「エルザーぁ!」
ライナーは猛烈にエルザへ接近し、顔と腹にパンチをねじ込んでいった。後ろ手に拘束されているエルザは、ろくに防御できるわけでもなく、その攻撃をモロに受けてしまう。
ライナーの、怒りが込められた痛烈な拳が、何度も、何度もエルザの身体へ叩き込まれた。
エルザは足捌きで躱し、太腿を上げてガードしながら、ライナーへ刃の蹴りを加えていった。ライナーは、下半身から血をまき散らし、顔からは血と涙、鼻水やよだれが、汚らしく混ざりながら周囲にまき散らしている。
「なめやがって。なめやがって!」
ライナーは殴り続ける。
いいパンチが何度もエルザのボディへ叩き込まれる。エルザはあまりの痛さに、もうだめかもしれないと思った。
だが、出血の多いライナーは、徐々に青白い顔になっていって、殴る勢いも弱まってきていた。エルザは動きが鈍ったその瞬間、ライナーに体当たりして、そのまま奥の柱へと突進した。
「あんたバカなの? 被害者はこっちでしょうが!」
エルザは、怒っていた。額に青筋を浮かべて、渾身の力でライナーの腹へ膝蹴りとばしていった。ガシャン!という音とともに、ライナーは小さなテーブルやその上に乗っていた花瓶を倒しながら床にぶっ倒れる。
辺り一面には割れた花瓶の破片と、ライナーがまき散らした血しぶきでいっぱいだった。エルザは倒れて呻くライナーの首筋に、つま先のナイフでトドメを刺した。




