第17話 完璧な仕事
エルザを吹き矢で仕留めたのは、エルザに足を折られたデニスだった。
「やった……やったぞ! ホホホーイ! 俺はあの赤い髪の鬼を討ち取ったぞ!」
デニスは上機嫌だった。だがそんなデニスを横目で見ながら、折角の勝負をぶち壊されたバクスは、煮え切らない思いで剣を鞘へ納める。仕事としては正解だが、勝負としては失敗だ。
「おいデニス。こっちゃ来い」
「へいへい、なんでやんしょ」
「誰が吹き矢なんか使えって言ったんだ? コラ」
バクスが不機嫌なのを見て、デニスは震えあがった。
「だ、旦那、俺は旦那のサポートをしたんですぜ?」
「それが気に入らねえって言ってんだよ。全く……剣士と剣士の戦いを何だと思ってるんだ。だが盗賊のお前に言っても仕方がねえやな。もういい。……この女をライナーの所まで運べ」
それを聞いたバクスは嫌な顔をした。
「あのう、俺は足が折れているんですが?」
すると、バクスは今にも斬りかかりそうな顔をして凄んだ。
「なめてんじゃねえ! とっとと運びやがれ、ぶった斬るぞ!」
「ひいい、すみません!」
デニスはあわてて、エルザに近づいた。
「あの……寝たふりとかしてませんやね……?」
「お前えが吹き矢で撃った薬だろがい……もし死んだふりだったら、後でワシが仇を取っておいてやる」
「そ、そんなあ……」
デニスは泣く泣くエルザに近づいて、肩に担いだ。
それを見たバクスは、エルザの剣と鞘を拾って納刀し、デニスに背を向けて歩き始めた。
歩きながら、バクスは考えていた。
「無様に転んだとはいえ、あの剣をかわすとは……。まるでおれの剣を知っていたかのような体さばきだった。吹き矢なんぞで終わりとはなんとも残念なことだ」
この技は、初動を誤解させて懐に入り込む必殺の技。運足に工夫があることと、両手で持っていると見せかけて片手で剣を伸ばし、瞬時に手首の回転で剣を回し、刃を相手の懐へ入れてかき回すのである。イメージとしては、バトン・トワリングみたいなものなのだろうか。
この回転が半身で躱すには足らないくらいの円なので、つい後ろに下がってしまうのだが、思った以上に伸びてくるので斬られてしまうのである。
それだけに、あの技を躱したエルザとの対戦を邪魔されたことは、バクスにとって非常の心残りなのだった。
エルザをライナーに引き渡すと、ライナーは手を叩いて喜んでいだ。
「最高だ! 完璧な仕事ぶりだバクス。死んだのは黒い蝙蝠の連中ばかりで、銀狼にダメージはない。それに、女まで生かして捕らえるとは!」
ライナーの騒ぎっぷりに、バクスは多少うんざりしながら肩をすくめた。
「今は薬で眠ってて、まる1日は起きん薬だが、個人差ってものあるからな。用心はしておけよ」
それを聞いたライナーはニヤリと笑った。
「へえ、そうかい。それはちょっと残念だな。ちょっとは泣いたり、暴れたりしてくれた方が興奮するってもんだが」
といいながらエルザの尻を撫でていた。
バクスはそれを聞いて、わかってないなあと思ったが、言うのはやめた。
「さっさと殺してしまった方が良かったもしれないが、もう、どっちでも構わん。それじゃあ、ワシらはこれで失礼させてもらうよ」
そう言ってバクスは部屋から出て行った。




