第15話 最後の抵抗
剣士には、長年の培った練習の賜物というか、独特の鋭い勘が備わっている。
それがバクスを危機から救っていた。腕っぷしは強いがただの盗賊であるガルベスにはそれがなかったのかもしれない。
ちょっとの間、バクスの視線がガルベスへ向いていたので、エルザは斬りかかろうと思って飛び出しそうになったが、よく見るとバクスは、剣の柄に手をかけながら、鞘はエルザに見せていない。
剣士という生き物は、見えないところで何をしてるかわかったもんじゃない。身体で鞘を隠して、裏では静かに刀身抜いて斬りかかれるということもあるのだ。
エルザは攻撃を見送った。
「あなたたちって本当にクズね」
「ありがとう。俺たちにとって、クズは誉め言葉さ。お前も疲れ知らずで元気じゃないか。あの鉄球を押さえつけたのは傑作だったな! いやあ、ホント、見事だった」
バクスがそう言うと、エルザは露骨に嫌そうな顔をした。
「どこかで覗いてたのね? 趣味が悪いわね」
「ワシもそう思うよ……ところでお前はどこからこの部屋へ入ってこれたんだ? ちゃんと廊下を通ってこなきゃ駄目だろうが」
「あんたも一度通ってみたらいいわよ。馬鹿みたいな罠で歓迎してくれるわ」
「ほほう、するってえと、お前、もしかしてあの鉄球の裏から、管理者専用道を通って来たのか」
こんなたわいもない会話をしながら、二人の剣士はジリジリと間合いの探り合いをしていた。
斬るか……防ぐか……カウンターか……エルザとバクスの、腹の探り合いは続く。
バクスはジリジリと間合いを取りながら、少しづつ、奥の通路へと下がっていく。
その時、エルザの頭の上にバシャバシャ!っと血が降って来た。
エルザが見上げると、死んだはずのガルベスが立ち上がって、エルザに覆いかぶさって来たのである。
「きゃあああ!」
ガルベスはエルザの首に両手を巻き付けたまま、血まみれの顔で口を大きく開いて、エルザの頭に噛みついてきたのである。血のりをべっとりと付けられ、涎を垂らしながら噛みつくガルベスに、エルザは悲鳴をあげた。
「きゃあああ! もう! いやあ!」
ガルベスが頭に噛みついてきたが、彼の口の中に入ったのは髪の毛だけであった。
だが、その瞬間をバクスが見逃すはずがない。バクスはすぐさまエルザの前へ飛んで、白い剣身をエルザへと走らせていた。
エルザは、手に持っている剣を大上段に構えるついでにガルベスの額を突き刺し、そのままバクスへと振り下ろした。
「ええええぃ!」
バクスは剣を受けたが、思いのほか重い剣だったので、そのまま横に受け流してしまう。
「なんて、馬鹿力だっ!」
バクスは、思わず通路の前まで飛び下がった。
「エルザ。ここは狭いからこの先の広場で勝負しよう。……その、首に巻き付いているものを引き剥がしてから来い……先に行って待っているぞ」
バクスはそう言うと。通路の向こうへと消えた。




