第14話 のぞき窓
エルザが鉄球と奮闘している様子を……のんびりと眺めている男たちがいた。
下り坂の突き当りにある曲がり角……つまり、先ほどエルザが曲がった角なのだが、そこの壁をよく見ると、細いガラス窓が埋め込まれている。よく見ると、その窓に、4つの白い目玉が動いているのが見えた。
「はははは、なかなか面白い催しだったな、バクス」
ガルベスがくぐもった声で笑うと、バクスもつられて苦笑した。
「あそこで鉄球を押さえに行くとは思わなかったのう……」
「普通なら鉄球から逃げて床下へ転落ってのが筋書きなんだが、予想外のことをしてくれる。まあ、普通なら鉄球を押さえに行っても死ぬんだがな」
バクスは腕を組ながら、コクリと頷いていた。
「罠というものはな、足を踏み入れた終わりなんだ。多少、運が良かったところで、死ぬのが遅いか早いかの違いしかない」
「そのとおりだバクス。今回は思いもよらない方法で耐えたようだが、次の罠は、そうはいかない」
「えらい自信だな……万一、あの女が次の廊下を抜けるようなら、今度はワシがトドメを刺すよ」
そういってニヤつくバクスを見て、ガルベスはヒヒヒと笑った。
「上で酒を飲んでるライナーは、出来れば女を殺さず生け捕りにしろって言ってたが、そいつは無理だ。ここで死んでもらった方がいい。俺たちのために死の舞を踊ってからな……じゃあ、次の部屋へ移動しようぜ」
ガルベスが立ち上がると、バクスも肩をすくめて立ち上がった。
「ホント、お前ら盗賊ってのは悪趣味だな」
2人はそう言いながら部屋を出て行った。
◆
その頃、エルザは突き当りを左に曲がって、次の廊下に立っていたのだが……その20mほどの廊下は罠だらけ。エルザの上着は破れ、愛用の鞄は落とし穴へと吸い込まれ、エルザは涙を流しながら、あの鉄球が転がる坂道まで引き返していた。
「触れるもの、歩く場所がことごとく罠なんて! 本当にエイミーたちはここを通ったのぉ!?」
この罠を突破するには、それ相応の道具が必要だ。しかし、愛用の鞄は先ほど落としてしまったし、手元にある武器は剣だけだ。
「もう、一体どうすればいいんだろ」
エルザはため息をついた。
◆
その頃、ガルベスとバクスは、罠のある廊下に面して作られた、覗き窓の部屋へ移動していた。
ガルベスが隠し蓋を取ると、覗き窓から廊下の様子が一望できた。
「あれ、おかしいな……」
なかなかエルザが来ないので首を傾げていると、バクスが声をかけてくる。
「どうした? 女がいないのか?」
「ああ……今頃罠と苦闘しているかとおもったんだが」
「通り過ぎたんじゃねえのか?」
「そんなわけあるかよ」
覗き穴は二つあるので、二人は仲良く肩を並べて覗いてみる。……しかし、人の気配が全くない。
「もう死んだんじゃねえか? ほら、あそこの落とし穴が発動してるだろ」
「あいつがか? そんなわきゃねえ」
バクスは割りと真面目に言ったのだが、ガルベスは首を振って否定した。
「えらくあの女を買っているんだな」
「あいつは強いからな。……待つといっても、そう長い時間じゃない。数分のことだ」
その時バクスは嫌な予感がして後ろに飛んだ。
すると、ビュン!という風切り音がして、バクスの元いた所に剣が走った。
「ガルベス! 危ない!」
とっさにバクスは叫んだが、ガルベスは除き穴の顔を当てたまま首を斬られて死んでいた。
「ガルベスっ……」
バクスは眉間に皺を寄せながら、血を流しながら動かないガルベスを見た。ガルベスの死体は、ズルズルと壁をずり下がって床へと崩れ落ちて行く。
バクスは部屋の中ほどに立っている赤い髪の女を睨みつけた。
「ようこそエルザ君。ここまで楽しませてくれるとは、なるほど、ガルベスが言うだけのことはある」
バクスはニヤリと笑った。




