第13話 罠の館
エルザがエイミーを連れ去られた方向へ走ると、片足をひきずるように歩く男が、エイミーを肩にかついだまま、建物の階段を降りて行くのが見えた。
「しめた、追いつけるわ!」
エルザは走った。そして、建物の前に立つと階段の中ほどにバンダナが落ちているのを発見した。それはエルザがエイミーにあげたバンダナである。
「きっとエイミーが教えてくれてるんだわ……」
エルザはバンダナを手に取ると、そのまま階段を駆け下りていった。
エルザが地下1階のフロアに降り立つと、そこにはただ、扉がひとつあるだけで、他には何もなかった。
「何なのこの建物……部屋がひとつしかないじゃない」
エルザは念入りに周囲を見回したが、あとは壁があるばかりで階段も通路も何もなかった。
「とにかく、この部屋に入るしかないのね?い」
罠のような気もしたが、ここでウダウダしていても仕方がない。エルザは扉を開けた。
扉の中は通路だった。幅2mくらい細い通路が、小刻みに折れ曲がってクネクネと続いていた。エルザは罠や待ち伏せを警戒していたが、そういうものは全くなく、ただ気持ちをすり減らしただけだった。
グルグルと廊下を曲がっていると、段々と方向感覚がおかしくなってしまった。そんな頃、通路はT字路に突き当たった。このフロアに入って初めての分岐である。エルザが分岐点に立ってみると、左から右へ向かう下り坂だった。
「ここにきてなんで坂なの? 罠かしら?」
下り坂の奥を良く見ると、突き当たりを左折するように廊下が伸びていた。反対側の登り方向は行き止まりだ。
ルート的には右に行くしかないのだが、実は行き止まりに見える左が正解なのかもしれない。……とりあえず、まずは坂道の突き当りの左側に何があるのか、確認してみることにした。
しばらく坂を下った時、後ろで石か何か引きずるような音がするので、エルザが振り返ってみると、なんと退路が壁で塞がれてしまったのだ。
そして驚く間もないまま、坂の一番上の突き当りの壁がゴゴゴゴ……開き出して、中から真っ黒な鉄球が姿を現したのである。
とっさにエルザは走った。
そして、扉が完全に開く前に、エルザは鉄球に抱きついて鉄球を、体全体で押さえ込んだ。
「ぐうううおおお……!」
底板が持ち上がって、に鉄球が転がり出そうとする。
その殺人的な重さが、今にも転がり出さんとエルザに圧力を加えていく。いくら怪力のエルザといっても、これでは30秒とももたないだろう。
腹に力が入り、息もできなかった。
「ぬうおおお……んんんんん!……んっ……!」
この通路の幅は2m。鉄球を避けようにも躱すスぺースがない。エルザは顔を真っ赤にしながら、周囲を観察した。すると、鉄球を乗せた床板を上へと引いている太いロープの存在に気が付いた。
「ぐううっ……あのロープを……切れば……うううう……!」
エルザは踏ん張りながら片手で剣を抜いて腕を伸ばした。
頭に血が上り、額には血管が浮き出ていて、鼻血が口まで垂れてきている。エルザは鼻血をペロリとなめると、必死で剣を伸ばした。
「むおおおおお……!」
届きそうで、届かない。無理をするとバランスが崩れて鉄球が転がる……。そんな難しい力加減で、エルザは踏ん張った。
「んむおおおおお……!」
時折息継ぎをしながら、剣先で太いロープを少しずつ切断していく。
そして、45秒くらい頑張った時、ついに1本目の、ロープの切断に成功する。片側のロープが切れると、前へ押し出ようとする圧力がガタッと弱まった。
「ふーっ、ふーっ、ふーっ……」
細かく何度も息を吐きながら、もう1本の紐を探す。
「はぁはぁ……もう少し……もうひとふんばり……頑張れ私……」
そう言って、今にも折れそうになる心を励まし、もう片方の、ロープの切断にかかる。さっきと比べて、こちらを切断するのは、さほど時間はかからなかった。
「終わった……」
エルザが鉄球から解放された時には、疲労困憊で汗びっしょりだった。
鉄球が飛び出すこの壁には、少しだけ隙間があって、そこから奥へ入れそうである。エルザはその狭いスペースに身体を捻じ込んで入ると、鉄球を足で蹴って転がした。
ゴォーッ! と音を立てて鉄球が転がると、廊下の後半あたりで床が抜けて、そのまま奈落の底へと落ちていった。そして数秒後……ゴオンという地響きとともに建物がグラグラと揺れた。
「なによ、これ……」
エルザは顔面蒼白になっていた。
「これは死ぬわね……」
エルザは崩れ落ちた床から落ちないよう、慎重に進んで、突き当りを左へと曲がっていった。




