第12話 破壊と大乱闘
串焼きの屋台は破壊され、木片が飛び散る……祭りの屋台通りは、逃げ惑う人々の足音、悲鳴とざわつきで大騒ぎになっていた。
ドゴンに持ち上げられていたエルザは、伊達に無駄話をしていたわけではない。その隙に、足の裏を手を近づけて、つま先に収納してある隠しナイフを展開した。エルザのブーツには、つま先から2センチほどある小さな刃が内臓されているのである。
「ティム! リック! ニール……お前らこっちへ来い! 俺が押さえている間に、この女を背中から斬っちまえ!」
ドゴンがそう言ってニヤけた時、エルザは、身体のバネを思いっきり使って足を高くあげて、爪先に展開したナイフをドゴンの首筋に突き刺した。ナイフは頸動脈を切り裂き、血が噴出した。
「ぐあああ、何だあ?!」
ドゴンは顔を背けたが、それでもナイフの届く範囲だから、何度も何度も両足で、ドゴンの首を突き刺していく。たちまち、ドゴンの顔はたちまち朱に染まった。
「ドゴンの兄貴!」
一緒にいたニールは叫んだ。
完璧に捕獲した……そう思っていた。だが、なぜだかドゴン親分の方が血まみれになっている。ニールは剣を抜いて走っていた。
「早く女を殺すんだ!」
ニールがそう叫ぶと、ティムとリックもすぐさま反応した。
「一体、兄貴に何が!」
二人は驚いて剣を抜くと走った。
ドゴンはエルザの攻撃から逃れようと顔を背けていたが、拘束を解かない限り、エルザのナイフは届いてしまう。たまらず、ドゴンは腕を振り下ろしてエルザを着地させた。。
足の自由を手に入れたエルザは、自分を中心に回転運動を起こして、ドゴンを振り回していった。
「ぬおおおお!」
回転するドゴンの体が、屋台の柱へブチ当たっていく。バキバキっと音を立てて柱が折れ、屋根が崩れ落ちていくが、エルザはお構いなしに回転させていく。これはある意味、手下からの攻撃を防ぐ役割も果たしていた。
「くうう、がああ、痛てえ!」
「顔の模様が増えたわね! もうちょっと増やしてあげるわ! ほうら、えええい、こんちくしょう!」
「そ、そうはいかんぞ!」
ドゴンが足で地面にブレーキをかけて回転を止めると、エルザを押さえつけようと左手を伸ばしてきた。だがエルザは足をコンパクトに曲げて、ドゴンの左肘の内側や脇の下などをザクザクと突き刺した。ドゴンの筋が切れたのか、腕がダラリと下がる。エルザはそのまま肩も蹴り入れ、肩の筋をも切断した。
「ぐうう! なんて奴だ」
ドゴンは呻いた。首筋からは血が噴き出ている。だがドゴンにも意地があった。腕を封じられたドゴンは、エルザへと蹴りを放った。少し目を回していたので力が乗ってなかったが、それでも大男ドゴンの蹴りだ。威力はかなり強い。エルザは腹に蹴りいれられ、口から胃液を吐いた。そして、今度は逆に、ドゴンが右腕でエルザを拘束したまま振り回し、隣の屋台へと叩きつけた。
「ぐわぁっ!」
木片が飛び散って、屋台の柱が折れ飛んだ。
腕が拘束されていて防御出来ないので、顔から柱へ打ち付けられ、エルザは鼻血を噴出する。だがその回転はすぐに終わって、ドゴンの動きが緩慢になってきた。それもそのはず、ドゴンは首から血を吹きながら戦っているのだ。それは、ドゴンの体に想像以上の負担を強いることになっていた。
「ううう……くっ、身体が動かんッ……」
ドゴンの動きが止まった……。その様子を見たティムとリック、ニールの3人は、再びエルザを刺し殺そうと走り出した。
「死ねやこのアマ!」
3人の男がエルザに向かって剣を振り下ろしてくる。だが、エルザは彼らの突き出す剣に向かって、ドゴンの体を盾替わりに振り回した。
「こいつ、親分が動けないのを良いことに、盾にしやがって!」
ニールは苦虫をかみつぶしたような顔をしながら、別方向から斬り入れようとした。だが、そドゴンの体で見えなかった死角から、エルザのつま先が見えたかと思ったら、ニールの右手の甲を斬り裂いていたのだった。
「あっ!」
思わずニールは剣を落としてしまったが、それを拾おうとしゃがんだ時にももう遅い、もうその目の前にはエルザのつま先があった。
「ぎゃっ!」
ニールは首筋から血を吹きながら仰向けに倒れる。
「ニール! ちくしょう!なんて足グセの悪い女なんだっ!」
次々と仲間が倒され、ティムは泣きそうになっていた。
しばらくして、拘束機にガタつきが見え始めた。おそらくこの商品は、ここまで激しい使用を想定していなかったのだろう。
身体を揺さぶううちに、右手だけするりと脱出したエルザは、ようやく笑顔を見せた。
「抜けたわ!」
だが、ドゴンと一体化したる拘束機が身体に巻き付いていることには変わりはない。エルザはニールが落とした剣を片手で拾い上げると、その刃を振り上げ、ドゴンの右腕をバサーッと斬り落とした。
ブシュ―ッと血の霧が飛んで、正面にいたリックが血塗れになった。リックはその、壮絶な光景に我を忘れていると、血しぶきのカーテンを破ってエルザの剣が胸を貫いた。
「ああっ……!」
赤く染まったリックは、眠るように地面へ倒れる。それを見たティムは顔面蒼白になっていた。
「エルザ! お前の相手はもううんざりだ。ここまでやって、お前を殺せなかったのは癪にさわるが、もういい。ほれ、あそこを見ろ。タミル族の女はもらったぞ。お前はそこで、ドゴンの兄貴と仲良くダンスでもしてろ!」
そういうと、ティムは一目散に駆け出した。
「あ! 待てっ!」
エルザは、リックが指さした方向へ目を向けた。すると、足の悪い一人の男がエイミーを肩に担いで、ヒョコヒョコ逃げていくのが見えた。
エルザもすぐさま駆け出そうとしたが、どう考えてもドゴンの腕は邪魔だ。
エルザは、手に持った剣を投げ捨て、倒れているニールの腰から鞘を抜くと、拘束機の触手というか爪を内側からコジて押し広げた。そして腹をひっこめながらグイグイと……ようやく左腕を抜いて、そのまま全身も抜け出すことに成功する。エルザは大きく息を吸った。そして、ドゴンの血だらけになった顔を見た。
「なんでこんな拘束機なんか作ったの? 本当に大砲だったら私、死んでたのに」
エルザは鼻血で濡れた上唇を親指で拭うと、靴のナイフを収納して、エイミーが連れ去られた方向へ走っていった。




