第11話 春祭り
朝早く……宿屋で目覚めたエルザとエイミーは、軽く朝食をとってから、エルザの友人がいるという道場へ向かうことにした。
エイミーの民族衣装は目立つので、今日はリールの町娘が着る服を着てもらった。2人は春祭りの雰囲気を楽しみながら、屋台をブラブラと見て歩くつもりだ。
「私の郷は森の中なので、こんなにお店がいっぱいなのは初めてです」
「それは良かったわ。お祭りは楽しいわよね。私、いつも余計なものまで買ってしまって、母さんに小言を言われるの。リールのお祭りは、ゴントのお祭りよりずっと大きくて面白そうだわ。ねえ、エイミー。お祭りの醍醐味は買い食いなの。たくさん出ている屋台の中から好きなものを選んで買って食べるのよ」
「そうなんですね、楽しそうです! でも、どの店のものを買えばいいのか、全然わからないのです。エルザさんは、何かおすすめありますか?」
「そうねぇ、私もゴントで食べたことのあるものしか知らないけど……そうだわ、串焼なんかどうかしら?」
「串焼きですか?」
エルザはキョロキョロとあたりを見回して串焼きの屋台を発見した。
「あれってね、ゴントの料理でね、熊の肉を串に刺して焼いて食べるのよ。脂が乗っててとっても美味しいのよ」
「熊なんですか? 黒くてでっかいあの熊ですよね?」
「そうよ、あの熊よ。エイミーもきっと気にいると思うわ。あ、そうだわ、エミリー。あなた、熊がなんで熊って言うのか知ってる?」
「いえ、知りませんけど、何でなんですか?」
「それがね、熊の鳴き声が"クマクマクマ"って鳴くからなのよ」
「さすがにそれは嘘でしょ? エルザさん、騙されませんよ」
エミリーは腹から笑った。
「えーっ、本当よ? 本当なのよエミリー」
「いえいえ騙されませんから、私は」
そんな話をしながら屋台の前まで行くと、エルザは店主に2本注文した。
「ちょっとまっておくれ」
屋台の男は、軽く焼いた肉をタレにドボンと漬けると、もう一度網の上に乗せて、火で炙った。すると、タレの焼ける香ばしい匂いが漂って来て、口の中にツバが溜まってくるのがわかる。
「わあー。美味しそうですね!」
エイミーが顔を輝かせた。
「でしょ?」
エルザは顔をニンマリさせた。
しばらくすると、屋台のおじさんは、焼けた肉をもう一度タレにくぐらせて、2本の串を差し出して来た。
「はいよ、お待ち! 2本で600エスタンね」
「はい、ちょっと待ってね……」
エルザは串を受け取ると、それをエイミーに渡した。
「エイミー、ちょっと持っててくれる?」
「はい、わかりました」
そう言いながら、エルザは財布を取り出して、銅貨を何枚か取り出し、男の手の平に置いた。
その時。
屋台の男が両手でエルザの手首を強く掴んだのだ。そして男は叫んだ。
「ドゴンの親分! 今だっ!」
男がそう叫んだ直後、目の前のテーブルクロスが巻き上がって、大砲のような銀色の筒が飛び出してきた。
「エイミー逃げて!」
エルザは男の手を振りほどこうと身を捩ったが、その時にはもうドゴンの右腕と連結された金属製の触手が、ギュルギュルとエルザの身体を雁字搦めにしていた。そこへ傷だらけの笑い顔が浮かび上がってくる。
「昨日ぶりだな、エルザぁ」
「あんた! 捕まったんじゃなかったの!」
ドゴンは右腕に捕らたエルザを、グググ……っと頭上高く持ち上げた。エルザは足をバタバタさせたが、身体は完全に宙へ浮いていた。
「お前に会うために脱獄してきたんだよ!」
ドゴンがニヤリと笑うと、エルザはペッと、横に唾を吐いた。
「冗談は顔だけにして!」
するとドゴンはフハハハと笑って、
「まあ、そう言わず、もう少し付き合ってくれよ。……地獄の1丁目までな」
ドゴンはそう言うと、獰猛な笑みを浮かべるのだった。




