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隣に引っ越してきた宇宙人

作者: 雉白書屋

 ある日、アパートの隣の部屋に二人の宇宙人が引っ越してきた。

『宇宙人』といっても、頭がおかしい人間という意味じゃない。本物だ。連中は黄緑色の肌に真っ赤な目をした、どう見ても地球外生命体そのものだったのだ。

 ファーストコンタクトは、普通のインターホンの音から始まった。何も考えずにドアを開けたおれが目の前の光景に度肝を抜かれたことは言うまでもない。驚きすぎて、自分が何を言ったのか覚えていないが、たぶん相槌を打つことくらいしかできなかっただろう。

 一分か二分ほどの挨拶を終えた連中は、あっさりと隣の部屋に入っていった。残されたおれは呆然と床に座り込んだ。どっと湧き上がる疑問を脳が処理しきれなかったのだ。

 あの二人は何者だ? 特殊メイクか? そうに決まっている。では悪戯か。こちらの反応を撮影し、SNSに投稿する気か。だが隣の部屋に入ったのは間違いない。では引っ越してきたのは本当なのか。え、嫌だな。それともただ単に変わり者なのだろうか。あの二人の関係は恋人か、それとも夫婦なのか? でも、両方男だった気がする。男同士だけど夫婦か? じゃあ、本物の宇宙人なのか? 

 考えがまとまらず、おれはテレビをつけ、ボーッと眺めた。隣の部屋から奇妙な音が聞こえてきたが、音量を上げて聞こえないふりをした。もう何も考えたくなかったのだ。

 それから数日、朝の出勤時などに何度か顔を合わせるうちに、連中が本物の宇宙人であることがわかった。特殊メイクでもコスプレでもない。あの奇妙な外見のまま、普通に生活しているのだ。言葉が通じるのは、喉につけた小さな機械のおかげらしい。あれが翻訳装置というやつなのだろう。

 それより不可解だったのは、周囲の人間たちが連中に何の疑問を抱いていないことだった。大家や近所の住人、スーパーの店員、通行人など、連中を普通に受け入れているのだ。

 それもどうやら連中の仕業らしい。いつの間にか、アパートの屋根に怪しいアンテナがいくつか立っていた。おそらく『洗脳電波』を飛ばしているのだろう。しかし、なぜかおれはその影響を受けなかった。それもまた謎だが、何事も例外があるものだ。

 おれは連中に悟られないよう、必死に普通を装いながら生活を続けた。


「やあ、お隣さん。奇遇ですね、今帰りですか?」


「あ、ああ……」


「いやあ、それにしてもこの星のインターネッツの回線速度は遅すぎますね。我々の星では、思考を共有するだけで全知全能のデータベースにアクセスできるというのに」


「そ、そう、ははは……」


 おれの努力も知らず、連中は宇宙人であることを隠そうともせず、のんきに暮らしていて、それがだんだん腹立たしくなった。

 廊下では小型のデバイスを持ちながら宇宙の番組か何かを見て大笑いしているし、夜の九時過ぎに「プァーイ、ブルブルブルブル、マイニーハァン! ピピウタウシ、ハハハハ!」などと謎の言語でライブ配信を始める。

 最初は任務の進捗を報告しているのかと思い、聞き耳を立てていたが、かなり砕けた感じなので、どうやら連中はただの宇宙の動画配信者らしい。

 他にも壁越しに「ミョンミョンミョンミョンミョン」という不快な音が常に聞こえてくるし、窓からは奇妙な光が放たれている。ゴミの分別はめちゃめちゃで、スプレー缶を燃えるゴミに出して収集員に注意されると、光線銃で撃つ始末。目が複数ある胴体の長いネズミのようなペットを飼い、駐車場で変な機械を組み立て、騒いでいた近所の小学生を異次元の穴に放り込んだりするなど、連中はまったく地球の文化と溶け込もうとしないのだ。


 ある日、ついにおれの堪忍袋の緒が切れた。気づけば隣のドアを叩き、大声で怒鳴っていた。


「お前ら! いい加減にしろ! いったい何をしに地球に来たんだよ! もう出て行けよ! 迷惑なんだよ!」


 ドアを開けた連中は顔を見合わせ、戸惑った様子を見せた。それを見て、おれは自分がとんでもない馬鹿をやらかしたことに気づいた。洗脳されたふりをしていればよかったのに、これでは「殺してください」と言っているようなものではないか。

 頭に上っていた血がすーっと下りた途端、寒気を感じ、おれは震えた。殺される……そう思ったのだが、どうしたのか。連中は意外にも穏やかに微笑み、何かの機械をいじり始めた。


「お、おい、何してるんだ? ああ、そいつでこのミョンミョンミョンって変な音を止めてくれるのか?」


「いえ、この機械は関係ないです。あれはただのヒーリングミュージックですよ」


「あれが!?」


「はい、それで、よし、調整完了。ええと、私たちが地球に来た目的を知りたいんですよね? 実はあなた方を救うために来たのです」


「えっ、そうだったのか」


「ええ、そうです。あなたたち人間が気づかないうちに、この星は危機に瀕しているのです。私たちはあなた方の文化を学びながら、この星を救うための準備を進めていたのです。私たちは平和を愛する種族ですから」


「ああ、ありがとう……」


 おれは安堵した。彼らは敵ではなく、地球を救うために来た善意の使者だったんだ。おれは涙を流し、彼らに心から感謝した。宇宙人が隣に越してきて本当によかった。宇宙人最高。友愛の心最高。宇宙人ありがとう大好きありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとう。

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