笑えるタイミングないなった
「楽しいときは笑いなさい」
ふと思い出したこれは、亡くなったお父さんがよく口にしていた言葉です。なにか含蓄深い言葉なのか、と疑いたくなりますが、お父さんはそんなことを言う人ではなかったのです。不思議だったのはその言葉をかけるタイミングです。
弟(すでに亡くなっています)も不思議がってよく首を傾げていました。
今、私はこんなどうでもいいことに悩む時間はないのですが、どうしても気になって目の前のことに立ち向かえそうにありません。気分のリフレッシュです。なので、多少の時間を使ってでも自分なりに考えてみようと思います。
弟は、私と違ってあまり笑わない子だ、感情が表に出づらい子なんだ、とよく父と母に言われていました。確かに記憶の隅を探ってみても弟の笑っている顔が出てきません。赤ちゃんの時のニパッとしたで、あまり笑わない子と言う点は頷けます。ですが、私としては、弟は「楽しい」、「疲れた」など短い言葉でしたが、私たちに自分がどう思っているかをその時々で教えてくれていました。それが弟なりの感情表現だったのでしょう。そんな弟にもお父さんは例の言葉を掛けていました。私が大笑いしてる横で。弟も意味は理解していなかったと思います。
私は家族と比べると笑いやすい性分だったらしく、なんでもないようなことでよく大笑いしていました(今となっては笑う機会もありませんが)。お父さんはそんな私の横顔を覗き込んできて、よく微笑みかけてくれました。そんな微笑みから出てきた言葉が例の言葉です。当時の私は意味がわからず、ただ聞き流していただけでした。今思えば、その言葉の意味を訪ねていればよかった、と少し後悔しています。
でも、お父さんが亡くなってから5年ほど経ち、私ももう18歳、そんな後悔も後の祭りなのです。それに私も大人と呼ばれる年齢です。言葉の意味ぐらい自分で悩み、思いつくぐらいのことをしなければいけません。
私が思うに、お父さんは、いつか笑えなくなるから今のうちに笑っとけ、なんて意味で言ってたと思う、わけじゃないのはわかってる。ただ、今のネガティヴな、思考が一つに囚われた私にはこんな答えしか出そうにない。事実、事実?、お父さんが殺されてから笑えてない。もしかすると、側から見れば、笑っていると思われた時もあったかもしれない。子供の頃破茶滅茶に笑ってたのが嘘みたいな今をお父さんは見越していたのかな。
リフレッシュできなかったな。でも、準備はできた。今、目の前にいる敵を殺さなきゃ。こんなことを考えてたら無性に、ムカついてきた、怒気が沸いてきた、憤慨してきたけどちょうど良いよね。ぶつける対象がやっと手の届く範囲にあるんだし。
「よう、久しぶりだな」
少し高い丘の上に「話がしたいから、夜10時に来て」と呼び出しておいたローダさん。昔家に住み込みでお手伝いをしたり遊んでくれてたローダさん。お父さんを殺したローダさん。5年間探すのに苦労したよ、ローダさん。ベッドで横になっていたお父さんに魔法を掛けてるの、みてたからね。
「なんでお父さんを殺したの?」
「急だな、もっと世間話でも……する世間話もないか。理由は単純さ。だが、お前にそれを言うのは可哀想だ。あと、殺したって言われるのは心外だな。個人的には介錯したつもりでここにいるんだぜ」
よくもまあ、そんな世迷い言が出てくる。私が可哀想? 本当のことを言いたくないだけだろ。私は知ってる。お父さんが風邪で寝込んでいたところを襲ったんだ。あの時のローダさんとっても怖かった。恨みがあるようには見えなかったのに。そこらへんの真実も殺す前に吐かしてやる。
「あー……そうだなー……言いたいことはわかるぜ。それについては、俺はアルバートさんの頼みを聞いた、としか言えねえな」
考えを読まれた? あれも魔法? 落ち着け私。
「その言い方だと、お父さんを殺したのはお父さんが望んだからってことに聞こえるけど?」
「あぁ、そうだ」
……違う、絶対嘘だ。お父さんがそんなこと望むはずがない。でもローダさんが嘘を言っているように見えない。もしそうだとしたら私の五年間はいったい?今日のために備えできた時間は? 魔法に対抗する策は? すべてが無意味になってしまう……
しばらく黙りこくっていた私に声を掛けてきた。
「しょうがねぇから簡単に説明してやるよ。アルバートさんは奥さんが亡くなってから、体調が優れてなかったんだ。それが徐々に悪化してきたもんで、俺に頼みに来たんだ。楽にしてくれってね。だからゆっくり効く毒の魔法と痛みを感じなくなる魔法をかけたんだ。」
ローダさんは頭をぽりぽり掻きながら簡潔に説明してきた。少し申し訳なさそうに顔を左下に傾け、視線をそらしていた。「嘘だ」なんて言いたいけれど、ローダさんが嘘をついているようには見えなかった。悪意を持って殺した人の顔をしていなかった。そもそもお父さんがそんな状態だなんて知らなかった。確かに亡くなる数日前に何日も寝込んでいた。お母さんが亡くなってからって、あの時の2年も前から体調が悪かったの? 全然気づけなかった。でも、私が風邪と見間違うぐらいの症状でお父さんはそんな選択をとったの?
「嘘だ……」
「エーシャには悪いと思ってるよ。アルバートさんのあれは風邪なんかじゃなかったんだ。それにアルバートさんはだいぶ無理してたんだ。アルバートさんからはエーシャにバレないよう自然に振る舞ってくれって頼まれてたからな。気づかないのも無理はない」
頭が真っ白。何も考えられない。ただ体が緊張して息が詰まる感覚だけが鮮明。ローダさんの言ってることは本当だ。確信した。そして、私の5年間も無駄となったことが確定した。
書くのむずいよーー
楽しいからいっか
タイトルはカニバリズムの語呂合わせです




