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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

可愛い女

作者: 水無 水輝

「して、あんたはあたしの話が聞きたい訳だね? いいだろう。少しばかり、長くなるがね。


昔、この村には大層可愛い女がおったそうじゃ。それはもう、古今東西何処を見ても、誰も敵わん程の可愛い女じゃった。じゃから、村の男も、また女も、そやつのことを見る度に可愛い可愛い言うておった。


女が結婚出来る歳になって、それはもう大変じゃった。村の男皆がその女を狙うんだからねぇ。結局女は村1番の金持ちを選んだよ。女が選んだことじゃからねぇ、他の男は引き下がる他なかったんじゃ。


それからはしばらく平和じゃった。1年ほどな。その女が子を孕んだのじゃ。そりゃあ村は大騒ぎよ。可愛いあの子が子を産むだなんて、ねぇ。


でもそんな時じゃった。その女の旦那がぽっくり逝っちまったんじゃ。女は大層泣いて泣いて、もう腹の中の子供と一緒に逝くなんて言うもんじゃから、村の皆は必死に止めたんじゃ。結局女はその時の1番の金持ちの男に引き取られて、そこで子を産んだんじゃ。女の子じゃった。


それから少し後の事じゃ、別の痩せた女がおった。その痩せた女は泣いておった。なんでも旦那を盗られたそうじゃ。行く宛てが無いと泣いておった。


その旦那は、先の金持ちの男じゃ。痩せた女は可愛い女に旦那を盗られちまったんじゃ。


痩せた女はそのまま死んだそうな。一方で可愛い女は新しい旦那との子を孕んだ。そしてまた、旦那は死んだんじゃ。


それを5回も繰り返した。死んだ金持ち達は皆、可愛い女とその子の為に、財産を渡しておった。じゃから奴は生活に困ることはなかったじゃろうな。


じゃが、旦那を盗られた嫁はどうなる。本来財産を受取るべきだった嫁たちは皆、野垂れ死んだよ。そんなことになっていても、男たちは可愛い女に夢中じゃった。あいつが死んだら次は俺が、いや俺がと話しておった。


そのころもう初めの娘は大きくなっておった。これはまた可愛い女じゃった。無論、他の子もそうじゃ。皆可愛い女の血を継いで、可愛い娘じゃった。可愛い女はそれはまぁ幸せじゃったろうな。奴の周りだけはなぁ。


可愛い女は50を過ぎても(なお)、可愛いままじゃった。それはもう可愛いままじゃった。10代の若者に求婚されることもあったそうじゃからな。


そんなある日の夜中、可愛い女の元へ1人の老婆が訪れた。そりゃあ立派な家じゃったから、汚らわしい格好の老婆とはまるで縁がなさそうに見えた。可愛い女はこう言うた。


「こんな夜更けに何用で御座いますか。」


老婆はしわしわの顔を歪ませて表情を変えた。それは笑顔を作っていたんじゃ。それでこう言うた。


「あんた、可愛い女じゃねぇ。」


可愛い女は悲鳴を上げた。それで気づいた子供達がドタバタ足音を鳴らしながら門口までやって来ると、こりゃまた悲鳴を上げた。ほんで老婆はしわしわの笑顔でまた言うた。


「あんた、可愛い女じゃねぇ。」


そん次の日、旦那が起きて門口に来ると、そこは真っ赤になっておった。可愛い可愛い女達は皆死んじまってたのさ。


あの老婆は何じゃったじゃろうなぁ。村じゃその姿を見た奴も居らんかった。じゃが、男たちはこう噂したんじゃ。旦那を盗られた女房の霊だってね。


じゃけん、この村には可愛い女は居らんなってしまったんじゃ。皆その霊に殺されちまったからねぇ。」


老婆は話しきった後、ゆっくりとお茶を啜った。


「ところで」


老婆はポツリと言った。そしてこちらを向いて、そのしわしわの顔を歪ませてこう言った。



「あんた、可愛い女じゃねぇ。」

可愛いには元来、不憫とかいう意味もあったそうですね。

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