邪神の思惑
遂に第二章の最終章です。様々な過去の因縁や思惑が明らかになり、そこに新大陸のゼロからの開拓という要素も加わります。要素がてんこ盛りでちょっと駆け足な部分もありますが、大目に見てくれると助かります。
本編に入る前に第2章のこれまでのあらすじを。魔王の息子を倒した勇者一行は新たな力を手に入れるため絆の一族の試練を受け、強化ユナイト、限界突破、完全ユナイトと順当に強化をしていく。また天使族の大陸を訪れ3つの試練を突破し成り行きで族長の娘ナージェを仲間に加える。情報を手に入れるため伝説のドラゴンを探し求める旅をすることになった彼らは道中影の親玉の分身と戦い、かろうじて封印に成功する。その国ナーチで大事件を解決し英雄となったが、すぐに次の国に出発。その次の国でバンラと鬼平という新しい仲間を手に入れ、神々と遺跡で戦い遂に伝説のドラゴンの居場所を知ったと同時にそのドラゴンの分体に倒されるが、魔王城での武器の強化で分体を倒したことで仲間にする。影の親玉の居場所を知り、向かったダンジョンでアルラウネを失うが、魔族として転生しアルネラとなった。親玉の力は非常に強大なため一行は修行を行い、思わぬ援軍の力も借りて遂に親玉を撃破した。だがその親玉は負けると悟った瞬間からとある場所の世界を破壊する装され置、終焉破壊兵器の起動を試みており、その力を封印する封印の壺を海底ダンジョンの冒険の末に入手し、彼らは今終焉破壊兵器のいる封印された大陸にやってきていたのだった。
そして、現在。今まさに集落を出て森に冒険に出かけようとしていた一行は転移してきたマタカにストップをかけられた。「ちょっと待ってくれ。冒険に出る前に少しお願いしたいことがある」「何でしょう?」「ワイバーンを売ってくれないか?色々拠点を作る上でこの魔物が出る大森林を陸上移動するのはかなり危険だ。だから空を飛べる足が欲しい」「なるほど、そういうことなら」「……ちょっと待った」ブレスレットから声が聞こえた。「必要なのは一体だけ、ではないんだろ?」「エキドナか。その通りだ」「だったらそっちに加えて3体ぐらいなら出せる。前にも説明したがかなり賢い改良型だ。それなりの値段なら考えてあげよう」「このプロジェクトは冒険者ギルドにとって非常に重要だ。言い値で買おう」そしてマタカはトーイからワイバーンを買い取ったのだった。「どうして父さんが僕から買い取ったの?父さん、ギルドから例の件で追放されたんじゃなかったっけ?」「あぁ、確かに俺はもう冒険者ギルド所属でも商業ギルド所属でもない。だが、冒険者ギルドに提案を持っていったときに代わりにやってくれないかと頼まれたのさ。もちろん商業ギルドも了承済みでな」「まぁ、知り合いというか部下でしたからね」カーンとレイネがそれぞれ冒険者ギルドと商業ギルドのマスターなのだが、彼らはかつてはマタカに近いポジションで働いていたのである。「それは一大プロジェクトである大陸の開拓を成功させるために人材、金、物資を全力で準備しているからだ。今先行派遣された何名かが今大陸にいる冒険者達の持っている素材の換金だったりをしたりで大忙しだしな」「ところでいつ出発すればいいですか?」「あぁ、すまなかったな。ダンジョンの探索なんだろ?気をつけて行ってこい」「了解」こうして彼らは出発して陸上からのダンジョンの探索に入った。もっとも、一歩一歩チマチマ歩くのではない。「こうすれば魔物も襲えないと思うから、一石二鳥だね」ユナとトーイがユナイトをして、ピレンクがエンペラーを虎に変身させてその上に乗り、残りのメンバーは二人のどちらかの影に入って移動するというものだ。当然ながら凄まじいスピードで移動するため森の中の魔物達も攻撃が全く当たらない。方向転換もスイスイ可能であり普通なら木とぶつかる可能性もあるのだが当たらずにグングン進んでいた。そんな中アルネラはピレンクの背中に乗ってラーの分体と一緒に進むべき方向を探していた。「もうすぐ結界がある地点に着きます」「了解。速度を落とすから認識阻害を頼む」「わかりました」アルネラが認識阻害をかけてその地点に到着する。確かに前方は森が続いているように見えるが、前に進むことができない。「とりあえず、結界を壊さないと先に進めない」「何者だ」「!?」予想外の声が聞こえたことで動揺する4人。まだ影から出ていないメンバーは事の成り行きを見守って、いつでも影から飛び出せるようにしている。
「我らの集落の結界を破壊するとは物騒な奴らだな。と思ったら魔物ではないな、お前達」「魔物が喋っている!?」翻訳技術で言葉が分かるトーイとユナが声の主に驚いた。「失礼な者達だ。この周辺に住む魔物は言葉でコミュニケーションが取れる。……お前達先日侵入した侵入者だな、特徴が一致している」すると魔物達が一斉に周りに姿を現して警戒体勢に入った。「待って、集落ってさっき言ってたけど、魔物が建物を作れるの?」「我々にはそんなことはできない。だがかつて住んでいた人間の集落を乗っ取って魔法で維持しながら暮らしている。食事はあまり取らずとも魔力が涌き出る泉がある故、他の魔物を食べたりせずとも生活が可能だ」「とりあえず我々の集落に案内しよう。よくわからないがお前達の目的と見たからな」話している間に蜘蛛の魔物に糸を絡みつけられていた4人は捕らえられたまま集落に入ることになった。「どうする?助ける?」「正直ユナ達はいつでも逃げられるはずです。だからまだ待ってからでも遅くはないはずです」ポーサは影の中で冷静に分析した。影の中に逃げるだけで追跡不可能になるが、能力を見せれば次は相手に確実に警戒される。だから壊す必要がなく入れるのであれば捕まってでも入ることを選択したのだ。大陸を手探りで冒険している現状とにかくなんでもいいから情報が欲しい。怪しまれることは極力避けるべきだ。そう考えたため牢屋のような建物に入れられても彼らは大人しくしていた。装備が没収されなかったので実際彼らなら影を使わずとも簡単に脱出ができる。「おそらく彼らは話ができる奴を連れてくるはずだ。焦らず情報を引き出そう」そして読み通り魔物達は強そうな魔物を連れてきた。「人間とは久しぶりだな。お前達もここの情報を知りたいようだが、まずはお前達人間の社会を教えてもらいたい」「人間の社会ってどういうことを教えて欲しいんですか?」ユナはざっくりとした質問にこう返した。「そのままの意味だ。我々もそれなりに集団行動をしているつもりだが、人間がかつて行っていたそれとは程遠い。そこで今の人間達が行っている活動や社会を教えて欲しい」ユナは人間達が様々な職業を持ってお金を稼いで商品と引き換えに食糧を得たりしているということや、自分達は冒険者で様々なダンジョンに冒険に出かけその素材を換金して生活しているということをその魔物に伝えた。「人間はそのような複雑な活動をしているのだな……我々には厳しそうだ。話は聞いた以上、お前達の知りたいことを話してやろう。お前達が進もうとした方角にダンジョンがある。そこに行くなら我々はお前達には手出しはしない」「ありがとうございます。とりあえず解放してくれませんか?」「ふざけるな。さすがに馬鹿にするのもいい加減にしろ」周りの魔物達はびっくりしている。魔物達は大人しく入ったことで彼らが脱出できないと思い込んでいたのだ。「私は心が読めるのだ。お前達が考えていることも全て分かる。そもそも装備を没収していないのも欠陥ではあるがな、脱出してみるがいい」彼らの周りは鉄格子に囲われていたが、斬剣であっさりと斬ってしまい、余裕で脱出してみせた。「誰だ!?装備を没収しなかった奴は?」「責めても無駄だぞ。例え装備を没収しようがこいつらはあっさり脱出できる手段を持っているようだしな」「じゃあ……こいつらはわざと捕まったと?」「その通りだ。警戒されるのを恐れていたようだ。おそらくだが我々の今の戦力だと本気で対立すれば瞬殺されるだろうにも関わらずだ」「なるべく魔物と敵対せずに、というのが今の上陸した人間の方針なので」「そうか。なら仲良くなれるかもしれないな。我々の言葉が分かる人間がいることが前提ではあるがな」「そろそろ出ていっていいですか?」「好きにしてくれ」一行は魔物の集落から出た。集落は木の建物で出来ていたのでそれを維持するとなると魔法でも相当大変なことは想像ができる。そんな彼らの努力を見た一行は、一旦戻って彼らの存在を伝えた。「面白いな。話してみたいから案内してくれないか?」マタカはそう言ったので集落にもう一度やって来た。「なぜ戻ってきた?」「俺が来てみたいからだ」「何者だ?」「この子達の父親だ。ここの開発の責任者でもある」「なるほどな、我々のことを倒しに来たのか」「ならここに話し合いに来るはずがないだろ。ここは拠点としてかなり有用そうだから、お前達が良ければここを使わせて欲しい」「見返り次第では考えないわけでもない。そうだな、冒険をしてここまで来たのならば、我々以外の色々な魔物を倒してここまで来たはずだ。だから我々にそういう素材を提供してくれるなら、この場所を貸してやってもいい」「それならお前達なら山ほど持っているだろ?」「うん、キブばあちゃんでも引き取れない位山ほどあるんだよね。冒険者ギルドに出すのはご法度らしいし」量が多い上に異常なほどに良質な素材を採取できてしまうので、あっという間に素材の取引市場が崩れてしまうためギルドに出せないようになっている。結果的にマジックバッグには腕輪で小さくした素材が引き取り手もなく大量に詰め込まれているのだ。「なんだ、こんな小さな素材で我々を満足させられると思っている……え!?」ユナがマジックバッグから素材を取り出し、元の大きさに戻した。元が広い空間とは言え、一瞬で大きくなってスペースを占拠した。「なんじゃこりゃ!?」「この子達が今まで冒険してきた分だ。色々冒険して彼らは強くなったんだ」「これだけあれば泉が枯れることもなくなるし、あとで色々と使えるな。そちらの条件を飲もう」話していた魔物は異空間を開くと素材をしまいながらそう言った。「魔物でも異空間収納が使えるのか?」「馬鹿にするな。人間が使える魔法の大半は魔物も使えるんだ。複雑な魔法は無理だが」マタカが気になって質問するとこう返答した。こうして一つの拠点としてこの集落は使用されることになる。すでに朽ちた建物を建て直し、空いている空間に新しく家を建設することで人間も住めるようになり、開拓の大きな足掛かりになるのだが、それはまた別のお話。
人間と魔物がその辺りの集落限定とはいえ争わずに済むため、次のダンジョンの発見はわりと簡単だった。ラーの分体によって方角を改めて確認して、結界はナージェの銃でこじ開けた。ここが例の装置がある場所かはわからないが、方向を示した以上進んでみるしかない。しかし先ほどの魔物達とのやり取りもありたどり着いただけで疲れてしまったのでセーブストーンを使って入り口でセーブをして道場に転移した。翌日、セーブ地点に戻ってきた彼らは攻略を開始した。ダンジョンにいたのは森にいたような魔物ではなく、なぜか身体が金属の魔物、メタル系の魔物が多かった。メタルラット、メタルモンキー、メタルタイガー、メタルゴーレム。「なんでこんな森にあるダンジョンなのに金属系の魔物達がうようよいるんだ!?」「ダンジョンに細かい理屈は通用しないんだよ」とはいえ、倒すのは彼らには難しくない。高威力の炎魔法で倒せる上に剣で倒すこともできる。鬼平は頑張って倒そうとしたが、モーニングスターで倒せたのは小さなメタルラットだけだった。メタルモンキーは隙あらばこちらの持ち物を盗もうとしていたが、金属の身体のせいで俊敏性が失われていて接近する前に魔法で倒された。そんな調子で10階層までたどり着いた。そこには「なにこれ……これがボスなの?」と目を疑うような光景が広がっていた。だだっ広い部屋の中央にあるのは巨大な長方形のサーバーのような物だった。「魔物もいないし、どうすればよくわからないね」入った瞬間に戻る方向の扉が閉ざされた上に転移で脱出不可のため何かをしなければいけないというのは分かる。だが中央の謎の物体は今の状況では何も攻撃もしないし、魔物も召喚したりしない。「とりあえずこれを壊すしか道はなさそうだね」ユナイトをしたトーイとユナは斬剣を使って真っ二つにしにかかった。しかし、「途中で止まった!?」半分位までは順調に斬れていたが、途中で引っ掛かり動かなくなった。さらに剣が敵と融合したのか一切抜けなくなった。「システム起動……排除開始」その電子音が流れると魔物達がどこからともなく召喚された。「どうやら攻撃に対して反撃を行うタイプのボスみたいだね」ハペルが冷静に分析した。トーイ達は無理やり引き抜こうとしたが、力ずくでやった結果根元から折れてしまった。「どうしよう……こんなに剣が効かない相手となると」「色々試してみるしかない」まず試したのは自然の女神ガイアの魔力を集めたガイアの水晶。自然界にない物を排除することができたりするアイテムだ。使ってみると「ダメージというか隅から消滅を始めているけど、このままじゃ持たないな」ダメージを受けたことで更に魔物が出てきたため、一旦魔物を全て倒してから作戦を練り直すことに。この時点で水晶の魔力の半分を消費しており、このままではまず消滅させることは不可能だ。「そうだ、あれを使うのはどうかな?」「なるほど、懸けてみるのも悪くないですね」すべての魔力をあのアイテムに注ぎ込んでナージェが弓を放つ。「悪くない。徐々に消えてきている」彼女が放ったのはヴィシュヌの矢。「維持」と「修復」という彼の力が込められた矢であり、効果を「維持」し続けることも当然可能である。物体は彼女の言う通り徐々に消え始めているため、次々と魔物を召喚し、フロア全体が魔物だらけになった。魔物を魔法や遠距離攻撃で何とかしようとしたその時だった。「!?」彼らの足元、フロア全体が光り出した。そして、魔物も全て巻き込んで即死トラップを発動した。「みんな!」その中で生き残ったのは即死攻撃を持つハペルと、超再生を持つアルネラだった。このフロアに入った時に転移が封じられているため回避不可能の攻撃を食らったことになる。しかし物体もこんな攻撃をして代償がないはずもなく、物体の表面の色が銀色から黒色に変わった。その色の変化に合わせるが如く、矢の効果によって物体は一瞬で消滅した。「防衛システムが突破されました。これ以上の配置は不可能です。…………あなた達を新しい管理者として認定し、魔力のプロテクトキーを差し上げます」よくわからないメッセージが流れた後、ハペルの手には赤い鍵がいつの間にかあった。「これがプロテクトキー?」「はい。その鍵によってダンジョンの開閉ができます。解放された状態では外の魔物が入って来たりして非常に危険です」「とりあえず閉めるんだけど、まず転移できる状態にしてくれないかな?大切な友人達を助けないといけないから」「わかりました。転移可能状態にした上でダンジョンを閉鎖します。防衛システムが復活するまで閉鎖状態を維持します」転移ができるようになったことを確認し、一行はフェアルのいるヒエノ島に転移した。「なるほどねぇ、そんな罠は聞いたことないわ」復活の魔法を使いながら、そう語るフェアル。転移した時に彼女達は驚いたのだが、家の大きさが明らかに拡張されている。「だいぶ家が広くなったみたいですね」「そりゃ島から長く繋がるように道を伸ばしたからね、ある程度スペースを確保できるように島自体も大きくしたのよ」ちなみに結界が繋がって道を通ってヒエノ島に魔物が侵入しないのか気になるところではあるのだが、魔物達は結界があった付近には接近しようとしないので事なきを得ているようだ。「何もできないのでお願いするしかないのが辛いんですが……」「いいのよ。一緒に冒険してみんながみんなで守って危険なダンジョンを平和のために攻略しているのでしょう?なら言うことはないわ」フェアルにそう言われそれ以上の言葉が出なくなったハペルはとあることを思い出して転移するのだった。
「久しぶりじゃな。その様子だと何か大きな出来事に巻き込まれたようじゃが」ハペルはガイアに会いに魔王城に転移してきていた。「そうですね、その前にこれを」「魔力が空っぽじゃの。我が充填している間に話してみい」「そうですね……」ハペルは新大陸の発見、そしてそこで見つけたダンジョンでの冒険の様子を伝えた。「なるほど。それは辛かったな」「それで倒した時にこんな物を貰ったんですが……」「ふーむ、鍵という位じゃから、どこかを開けるためのヒントになっている、と考えるのが自然じゃな」「そうですよね。私達が探している装置にたどり着けばいいのですが」「心配しなくても神の分体が示した道な以上、必ず役に立つはずじゃ。神が間違えるというのはよっぽどのことでないとあり得んしな」「ありがとうございます。回復したらまた冒険を再開します」「うむ、たまにはここに寄るとよいぞ」「はい」ハペルは魔王城を後にすると再びヒエノ島に戻った。「さすがに10人も復活させると疲れるわね……」「どうぞ」と言いながらアルネラはフェアルに魔法をかける。「凄い!一瞬で元気になった!どうやったの?」「超再生を応用した魔法をかけたんですよ」「なるほどね。そう言えばシルヴァは元気かな?妊娠発覚して以来あまり会ってないけど」「じゃあ会いに行ってみます」ノレドが復活直後の状態にも関わらずそう返事をした。「普通もっと復活した後は他の皆のように寝てるはずなんだけど……あ、アルネラちゃんの仕業ね」「そうです」「私も会いに行きたくなったわ。連れていってくれる?」「ええ、もちろんです」彼らは回復を待つ間に転移でシルヴァのいるコーストタウンに移動した。ちなみに妊娠はしているが彼女は体が丈夫なので今も夜は普通にオーナーとして居酒屋に立っている。勿論妊婦なので彼女自身はお酒は飲まないが。話を本筋に戻すとノレドの実家に来ていた。「ただいま」「お帰り、ってフェアル久しぶりだね」「ちょっと会いたくなってね」「大歓迎さ。中に入って」中に入ると所々の壁に穴が空いたりしている。「子供達のしわざ?」「そうだよ。元気が良すぎるのも困り者だよ。ちょくちょく修理はしているんだけど、いたちごっこでね」「わかるわ。あの子達は壁とかは破壊しなかったけど散々に汚して帰ってくるのが日常だったから」「それで母さん、冒険の話をしたいんだけど」「わかった、聞くよ」ノレドとハペルは今までの冒険の話をシルヴァにした。「へぇ、あの欠片がそんな大層な役割を持っていたんだね。それで今は新大陸での冒険か。こんな身体でも行けるなら行きたいんだが、さすがに話を聞く限りだと一人だと厳しそうだね」森は魔物の巣窟でダンジョンはそれより強い魔物が外の魔物の侵入を防ぐ役割をしている。そこに一人や少人数で冒険に挑むのはかなり無謀である。「で、その罠からの復活はちゃんとできたのかい?」「ええ。もう少ししたら冒険にまた出られるようになるわ」この後ひとしきり会話を交わした後島に転移で戻ったのであった。
「あれ?ここは一体どこだろう?」バンラはあのダンジョンで罠に引っ掛かった後、不思議な空間に来ていた。そこは一面に花畑が広がる不思議な場所だった。とそこに一人の女性が近づいてきた。「おや?このメンバーであなた方は初めて見ますね。ここはエリュシオンです。つまりあなた方は死にました」「え……嘘でしょ……」バンラは現実が信じられなかった。とは言え、引っ掛かる言葉がある。他のメンバーは初めてじゃない、ということだ。「ちょっと待ってください、死ぬことって複数経験なんて不可能じゃないですか!?」間違いなくこの魔法の世界においても死んだ人間は生き返らないのは常識だ。ただ一部の例外を除いて、ではあるが。「彼らは勇者なんです。復活できる方法をちゃんと持っているんですよ。ほら、もうお迎えが来ました。次会うことはそうそうないでしょうけどね」「え!?」いつの間にか目が覚めると見知らぬ家の中にいた。「ここはどこなんだろう」さっきとほとんど同じ会話をしたバンラに同じく目を覚ましたシエムが答える。「ここはトーイくんの実家です。彼の母であるフェアルさんがまた私達を復活させてくれたようです」「そういうことだったのか」鬼平が納得するとけたたましい音が鳴り響く。「なんだ……ってげっ!」「何をやっていたんだお前達は!報告はどうしたんだ!」怒っていたのはシーソータジアの南無斗王。エンコア遺跡の調査を依頼していたのにすっかり彼らは冒険していて報告を忘れていたのだ。「すみません、すぐ行きます!」「分かったから早く来い」「すまん、そういうわけだから国に戻る。ワープストーン引き続き借りるぞ」「いいよ。すぐに行って」そう言われたのですぐに転移して王城に向かった。「生体反応が消えたから心配しておったのだ。お前ほどの豪の者が死ぬとは思っていなかったが、反応が戻ったから安心したぞ。だが、無断で護衛の任務を放棄したのは良くないぞ」「はい、すみませんでした」用心棒の彼は王様から貰った魔道具を肌身離さず身に付けていた。生体反応があるかどうかがわかるだけでなく先ほどのように連絡を取ることもできる。「バンラさんも無事で良かったが、勝手に離れるのは困りますゆえ」「はい、大変失礼致しました」「さぁ、この間何をしていたのかを詳細に話して貰おうか。嘘偽りなく話せ」怒りの形相で二人を睨み付ける南無斗王。二人は今までの経緯をほぼ欠けることなく説明した。「面白いではないか。その大陸とやらはどこにあるのだ?」「この国からでなら、南にまっすぐ下った先に……」「お前達が話しているのはあの呪われた陸地なのか!?」王は驚いて質問をする。「一致するかはわかりませんが、その大陸の周りには強力な結界が貼ってあり、魔物は近づけないようです」「結界……おそらく私の言っている物と同じで間違いないな。結界のある島は結界の付近には普通の魚が沢山取れるようになっているがその分接近するためには待避している魔物達のエリアに足を踏み入れる必要がある。特に呪われた陸地の魔物は漁師達では太刀打ちできないほどの強さで何人も亡くなっているから接近を基本的に禁止している」「つまり海の魔物達を突破して上陸できるようにすればいいのですね?」鬼平がこう返した。「そうだ。だが結界があるのはどうするつもりだ?」「ちゃんと対策は考えてあります」「なら、お前の意見を採用しよう。軍を派遣する、準備をするように伝えておけ」「かしこまりました」この後、大陸に向けた航海が始まるのだが、それは少し後のお話。
さて、お話は復活した一行に戻る。メンバーは10人に戻った。ダンジョンのセーブ地点まで戻ると、強制的にダンジョンの入り口まで戻された。どうやら「防衛システム」が復活したらしく転移ができないようになっていたようだ。キーを差し込む穴があるため例のキーは使えそうだが、今は特に用がないので先に進む。
森に戻って再び走り始めると上空で何か光るものが付近に落ちていくのが見えたので近くに行ってみることにした。「なんだろう?」光る物の正体は光る紙だった。「なんでこれが落ちて来たんだろう?」「えっと……「お久しぶりですね、皆さん。順調に冒険できているでしょうか。アフロディーテです。といってもあなた方の状況は逐一確認しているのでわかっています。後2つのダンジョンに同様のプロテクトキーがあります。それが例の装置を破壊するための鍵になっています」か。見せてもらった赤い鍵以外にもあと2つあるんだね」「とりあえず進むしかないな」しかし、光る物に引き付けられたのは一行だけではない。いつの間にか森の魔物達に囲まれてしまっている。あの集落に住む魔物ではないらしく敵意を剥き出しにして何体か襲いかかってきた。トーイは剣を使わずに篭手で殴って気絶させている。ピレンクは影で拘束しこう声を上げた。「これ以上襲ってこようが同じ事だ。こうなりたくなければ大人しく通して貰おう。住みかは荒らしたりするつもりはない」「すごい悪役っぽい台詞だね……」影にいる仲間も出ていたトーイ達も全員そう言う風に感じた。しかし魔物達は言葉は理解できなかったものの、彼が放つ雰囲気がこれ以上戦っても勝ち目は薄いと感じるには十分だった。魔物達は彼らが行く道を開けてくれた。「どうだ?俺の台詞で魔物達が避けていくぞ」「なんか違う気がしますけどね……」隣のアルネラが苦言を呈した。魔物の邪魔がなくなりラーの分体を使って方角を割り出しスムーズに2つめのダンジョンまでたどり着いた。ナージェが結界を破壊してとりあえず入り口でセーブストーンを起動して記録する。「なんか森も暑いんだけど、この中からすごい熱気が出てきている気がする」「間違いではないです。中は超高温になっているようです。人間では1分入ったら死んでしまうでしょう」アルネラはそう解説した。「まぁ、経験がないわけでもない」そう、火山のダンジョンを攻略した彼らはアイスリヴァイアサンに変身して温度を下げて突破した経験がある。しかしいざ変身して中に突入すると物凄い熱気が彼らを襲った。さすがにすぐに脱出し事なきを得る。「前回の火山とは比べ物にならないね……」「とりあえず一旦治療のために撤退しましょう!」メイリは普段はあげないような大きな声でそう言った。「僕は大丈夫だけどみんなは大丈夫じゃなさそうだし、そうしよう」ハペルはそう言いつつ、転移していった。「こりゃまたひどい火傷だな」「無茶しすぎです」道場でラーウィとジョウドが彼らを見ながらそう言った。一瞬とは言え物凄い高温の場所に入ったのだ。電子レンジで水分を加熱するような大火傷をしていた。「僕のせいだ……」「気にするな。間違いはある。だがそんな高温のダンジョンを攻略しなきゃいけないとなると何か別の手段を考える必要がありそうじゃな」「ハペルさん、アイスドラゴンの集落に何か手がかりがあるかもしれません」「確かに彼らなら冷やすことなら得意そうだね」というわけで超再生で火傷をすぐに治したアルネラと共に向かうことにした。「あれ!?あいつなんでここに?」「あいつか?ありゃ奴隷だよ。なんかよく分からんが魔法とかが色々使えるみたいで大変便利だよ」そこにいたのはかつて戦ったアバドンの姿だった。アイスドラゴン達は魔法を使いこの島を自分達が住みやすい寒い環境に変えている。アバドンはハペルを見つけると「お前達か……お前達のせいで私は」「おい!仕事をサボるんじゃない!」首に付けられた首輪の強制力で言葉が中断され、彼は作業を再開する。「ところで今何をやっているんですか?」「ああ、魔道具に冷気を充填しているところだ。ここの海自体は暖かくて我々が住むには不向きだ。だが我々が集落として見つけた安住の地故に魔道具を使って気温を下げている。少しの間冷やすなら魔法で十分だが気温を持続的に下げるとなると定期的な魔力と冷気の注入が必要になるんだ」「なるほど……私達超高温のダンジョンを攻略する必要があるんです。そのためにあなた方に知恵を貸して欲しくてここにやってきました」「そうか、ならあの魔道具の小型版を持っていくといい。スペースも取らないだろうし魔力を注入しておけばかなりの温度を下げることができるだろう」「ありがとうございます!」こうして冷却の魔道具を受け取ったハペル達は道場に帰還した。前回とは違い、あっさり復活したので翌日に再挑戦することになった。翌日になり、あらかじめ大量の魔力を渡された魔道具に注ぎ込んで準備はバッチリの状態でダンジョン前に戻ってきた。「通常状態だとナダカ氷山の中にいるみたいな寒さだね」「だが、入り口前だといい感じの温度になっているようだな」だが、大気をいるだけでかなり冷却できるアイスリヴァイアサン単独でも無理だったのだ。というわけでシエムのアイスブローチやメイリのアイスバリア、ポーサが冷却水を繰り出す魔法と組み合わせて何とかフロアの温度と一行の周りの温度を下げる努力をした結果……「ちょっとやり過ぎたかな!?」「まさかこのフロアで寒いと感じると思わなかった……」やり過ぎだったようで少しずつ解除して適温に調整することにした。しかし、突然の冷気にダンジョンの魔物達が周りに一斉に集まってきた。超高温ダンジョンなので当然だが炎系の魔物ばかりである。
ファイアバード、ファイアディア、ファイアーホース、そしてファイアライオンである。わらわらいるディアやホースに比べて、身体が大きく一体しかいない。炎のたてがみを纏っており雄々しい姿をしていた。さて、いつも通り処理して……とはならなかった。ハペルが変身したアイスリヴァイアサンは冷気を維持することで精一杯であり、攻撃はできない。アイスバリアを完全に破壊されると灼熱の外気が容赦なく流れ込んでくるため守りながら戦わなければならない。結界は内から攻撃する位なら術者であるメイリがすぐに修復可能なので問題はないのだが、問題はどうやって攻撃するか、である。ゲームなら炎系魔物の弱点は水や氷魔法でほぼ決まっているようなものだが、ここではそうもいかない。超高温の環境下ではすぐに水が蒸発し、攻撃が届かない。攻撃し続けても超高温はすぐに維持されてしまうため水攻撃が通じないままなのだ。ポーサが内から外に向かって水攻撃を連打したが、ある程度までしか届かないため遠ざける位にしかなっていない。「ここはあの時と同じ作戦で行こう」高温ダンジョンでも雷魔法で攻撃して雑魚達を一掃することができた。しかし、ファイアライオンは雷をたてがみで無効化できるらしく効いていない。「あとはあいつだけか……そうだ」ノレドが何か思い付いたようだ。「イフリートドラゴンの能力を貸してくれないか?」「雑魚もいなくなったし、いいけどどうするの?」ハペルは一旦人間に戻りノレドに力を貸した。シャミは主に3つの能力を持っているが実は貸し借りすることができる。結界の外に出る直前にノレドはイフリートドラゴンに変身する。そして敵とガッツリ肉弾戦を行うことになった。魔物の熱が飛んでくるのでハペル達は中の気温を調整しつつ見守ることにした。しかし、体格の差が勝負を分けることになった。地上でお互い何度か攻撃を出した後敵は倒すためにジャンプして首を噛み付こうとした。当然ノレドは読んでいて腕で飛んでいる敵を弾き飛ばした。そしてとどめを差すためにノレドは首に噛み付き、そのまま食事に移行した。彼の能力として魔力を持った敵を食べた際に能力を入手したりすることができるというものがあるためだ。ちなみに普段彼らが食べているような食事には魔力はほとんど入っていないので食べるだけでパワーアップすることはない。魔力はすぐに倒した相手に向かっていくため生きている状態でないと魔力を直接得ることは基本的にはできないためだ。で、ノレドはこれを食べたことで高温状態を素の状態で歩けるようになったため、彼が先導し槍を使って倒していくことになった。ちなみに変身状態では槍などの武器は装備不可である。持ち物から消えてしまうだけなので実際にはユナやピレンクに渡せば装備できるのだが、その発想は彼には浮かばなかった。そこでノレドにポーサがユナイトをして更に能力を上げて魔物相手に無双をしていく。「凄い、一瞬で魔物が消えていく」ここからは恐ろしいスピードで突破し、おそらくダンジョンの超高温を産み出す元にたどり着いた。そこは燃える火が壁際一杯に設置され、前回同様中央には巨大なサーバーのような物体が置かれている。「侵入者を確認。排除を開始する」またもや電子音で流れたメッセージと共に、火の中から全身火でできた火の巨人が現れた。ファイアギガントである。「ここは私も参加したい。残りのみんなはここを維持して」完全ユナイトをして、先ほどまでユナイトをしていたポーサが離脱してアイスリヴァイアサンに変身して残りの3人を守る形になった。ただナージェは銃がほぼ使えないためお荷物となっていた。理由は銃弾が急激な温度変化によって軌道がずれてしまうためだ。そして向かい合う完全体とボス。敵の身体は炎でできているため普通の剣で斬っても倒せないが、元々今使っている斬剣はクラーケン由来の水の剣からできており、熱対策ができている剣である。そして、実体のないような物であったとしても斬ることができる。ボス相手に斬剣で完全体が斬りつけるとすぐに再生してしまう。しかしこの剣は再生の阻害も得意分野であるため、剣の毒が回る前に敵は短期決戦に持ち込もうとした。ファイアギガントは火に戻り陽炎を作り出して部屋に隠れた。陽炎の仕組みは空気の温度か密度の異なる状態を作り出すことで光の屈折率が変わってしまうことで見えかたが変わってしまうことである。実はこのフロアでは超高温は上部のみで地面が冷却されているため大きく温度の異なる場所があるため陽炎を簡単に作れるのだ。しかしこのような状況は彼らにとっては何回も経験している上に、影を操ることができる彼らには時間稼ぎにもならなかった。炎の身体であっても影は当然できるので、それを追うことで見えなくなった敵に破壊の槍を当てて倒した。そしてピレンクが捕獲し、あとは中央の装置を破壊するだけ、に思われた。しかし、「降参します……この鍵をあげますので破壊は止めてください」電子音でそう聞こえた後完全体の手にはオレンジのプロテクトキーが握られていた。「と、とりあえず帰ろう」入り口に戻ってから道場に戻り灼熱のダンジョンから帰還した。ボス戦に入ってからは魔道具に込めた魔力や冷気が尽きたので残りのメンバーでその都度補充していたのだ。そのため完全ユナイトしたメンバーも残りのメンバーもボロボロだった。気絶こそしなかったが少し回復に時間がかかった。
一方、マタカ達は日々開拓の準備を進めていた。とりあえず拠点付近の魔物と対立することなく進められるため協力を得ながら森の木を伐採して見通しの良い道を作ったり、建築の材料として活用したりしていた。冒険者達の拠点も仮住まいから少しずつ普通の家をクダイ達率いる大工達の協力を得て変えていった。そんな中、森から巨大な物が蠢いて新大陸で大きな揺れが発生し集落は仮住まいや建築中の建物が壊滅的な被害を受けた。死者が出てしまったためフェアルが駆けつけて復活魔法を使ったり、マタカによる救出作業が行われていた。その揺れの原因となったのは彼らが出会ったとある敵の仕業であった。
回復した後ダンジョンからいつものように駆け出していった一行。その道中、石柱で囲まれた謎の空間を発見したので寄ってみることにした。そしてその空間の中央に行ってみると突然、地面が大きく揺れ出した。「なんだ!?」「この凄まじい揺れは一体?」地面から大きな砂埃を上げ現れたのは超が付くほどの巨大ガーディアン。ガーディアンのサイズが大体5メートル前後だとすれば、この個体は優に50メートルを超えておりマタカ達の集落からでもも余裕で確認できるほどの大きさだった。後にエンシェントガーディアンと名付けられたその個体は地上の一行に向けて排除行動を開始した。大きな地震で地面が崩れ、木が倒れた森を彼らは何とか避けていたのだがそれが巨大ガーディアンの仕業とわかると反撃の構えに入る。敵は石柱を生み出して下から突き上げる攻撃をしたり地面を揺らして地上の敵に対して攻撃をする。先ほどの大きな地震で倒れた木やひび割れた地面のせいでなかなか敵に接近することができない。しかも敵の攻撃によって地上の状態は刻一刻と悪くなり、逃げ場がだんだんと少なくなっている。「さっさと倒さないとこの森が……父さん達が危ない!」実は一回めの地震ですでに壊滅的な被害を出していたのだが、敵の攻撃で地面がさらに揺れてとても救助したり回復したりできるはずもないためマタカ達は一旦ヒエノ島に転移で避難していた。「あの巨大な敵にどう立ち向かうのか……見させてもらうぞ」マタカは子供達二人に持たせたペンダントを通じて仕事をしながら時折戦況を見守っていた。一行は攻撃を受けてさすがに足場がなくなったので影から現れたノレドに乗って空中戦に移行した。魔法攻撃や銃撃をしてもその巨体には全く効いている雰囲気はない。「接近戦しかないね」何とかしてダメージを入れようと飛んで接近するが、その巨体が腕を振るうと避けたとしても付近には凄まじい風が吹き荒れる。どうやらただ腕を振り下ろすのではなく魔法も同時に発動しているようだ。地上も空中戦も接近対策がされているガーディアン相手に一行はかなりの大苦戦を強いられていた。「どうすれば接近できるかな!?」「とりあえず足元を崩すぞ」ピレンクは作戦を全員と共有する。「なるほど。確かにそれなら接近は可能だね」作戦を開始する。そんなことはお構い無しに敵を何とか排除しようとするガーディアン。するとガーディアンの足元の土が巨大な足の大きさの半分消失した。当然そんな状態ではバランスを保つことは不可能なので狙い通り倒れた。仕掛けは簡単で影を使って地面の土を「収納」したのだ。元々影にアイテムを入れておくことができるのでこれくらいは応用できる。倒れたことで再び大きな揺れが大陸を襲ったが、彼らは飛んでいたので効かなかった。ガーディアンが体勢を建て直そうと立ち上がろうとしているところに上から攻撃する。地上から風魔法で迎撃しようとしたところでナージェの得意技、魔法キャンセルが発動。風魔法は発動こそしたものの、キャンセルされて上から落ちてくる彼らを止めることができず破壊の槍と斬剣で倒された。魔力の煙になることはなかったのでそのまま放置せざるをえなかった。影で収納できるサイズではなかったためだ。戦いのあとに残されたのは周囲一帯の木がまるごと薙ぎ倒され、石柱やらひび割れで地面がめちゃくちゃになった場所に原因である停止したガーディアンである。よく見ると倒木で死んでいる魔物が何体もいた。「やっと倒せたね……」と一息ついていると飛行している彼らに向かって魔物達がやってきた。「とりあえず説明をしてくれないか、何が起こったのかを」そこにいたのは最初に訪れた魔物の集落の魔物達だった。「その下に倒れている巨大なガーディアンが突然襲いかかってきたんです」「なるほど、その巨体なら我々の受けた被害を説明するには十分だな。すまないが手伝ってくれると助かる」「分かりました」ワープストーンで転移したがそこに広がっていたのは見渡す限りの瓦礫の山だった。ワープストーン自体も粉々に破壊されており見る影もない状態である。「これはひどいね……」戦いの影響の恐ろしさを見た彼らは瓦礫の中から魔物達を救出する作業を始める。魔法と収納を使って次々と瓦礫をどかすが、やはり被害が大きく助からない命もあった。とそんな中で前に会った魔物を取りまとめるボスが現れた。「話は聞いた。この地には破壊の化身と呼ばれる存在がいたのだが、我々魔物でさえどこにいるか分からない状態だった。まさか石柱に囲まれた空間に入っただけで目覚めるとは……」「なぜあなた達は気付けなかったんですか?」「ここはかつて人間が全くいなくなった大陸だが、人間達が遺した物は沢山ある。その内の一つが結界だ。魔物である我々では一切突破できないものが沢山あるせいでここにある物の全容を把握することができない」魔物達でも利用できる結界もあるのは事実のようだが、人間にしか通れない結界もありそれが今回のガーディアンの事件に繋がったようだ。「この大陸は奴が色々破壊したせいで森のほとんどは失われてしまった。人間が片付けてしまえば開拓とやらも進むのだろうな」「そうですね、ですが片付けは大変でしょう。それより父さん達がいた場所がどうなっているかが心配です」「ならすぐに行けばいい。拘束して悪かったな」瓦礫の片付けが一段落ついたところで一行は気になっていたマタカ達の拠点に急いで転移で向かった。こちらも瓦礫の山が積み上がっていた。「父さん、出て……」魔道具で連絡を取ることにするとマタカは出た。「その様子だと心配で拠点まで来てくれたんだな」「当たり前でしょ!こんな跡形もなく消えてたら心配するよ!」「とは言えお前達が例の奴を目覚めさせてしまったのが原因でもある。責任を取れ、なんて言わないがせっかくそこに来たんだ。後で少しでも作業が進めやすいように瓦礫を片付けてくれると助かる」「まぁ、この惨状はさすがにまずいから言われなくてもやるつもりだったけど……とにかく父さんが無事でよかったよ」「他の奴も無事だぞ。フェアルが気絶する位大変だったけどな」「母さんが!?どういうこと?」「今お前達が見ている光景から大体は想像がつくだろうが、それなりに死者が出た。つまり復活魔法の使いすぎで気絶したんだ」「大丈夫なの?」「普通に問題ない。お前達も戦闘をした後だ。しっかりそれが終わったら休んだほうがいい」「わかった」なら仕事を振らないで、とユナは内心思っていたのだが、この瓦礫の山の状態は見過ごせないのですでに作業をしていたメンバーと一緒に作業に参加する。実際マタカのいう通り彼らはだいぶ疲れており、アルネラが回復の魔法を何度もかけて作業をしていくが、魔物の集落の復旧作業と戦闘のダメージは大きく、終わった時にはアルネラを除く全員が疲れきって寝てしまったためアルネラが寝ているメンバーのワープストーンで道場に転移させた。「こりゃまた一体何があったんじゃ……」「説明は後です」ワープストーン前に寝ている奴らがやってきたので、アルネラやジョウドを含む門下生で運び込んだ。「またとんでもない敵と戦ったのか……わしが送り出した奴らはどうなったんじゃ?」「全員無事、というわけにはいかなかった。もっともこの事故が原因じゃないんだが」マタカが転移してやってきた。トーイとユナのペンダントから様子を伺ってここにやってきたようだ。「そうか。冒険者は死ぬことも多い職業じゃ。仕方あるまい」「とりあえず明日から復旧作業をするつもりだ。あいつらはまた冒険を再開するだろうが、この手の敵がいた場合また我々は容赦なく巻き込まれるだろう。だからある場所に行って知恵を借りてくるつもりだ」「大変だろうが、頑張ってこい」「ああ」「お話は終わりましたか?」「終わったぞ」「魔法をしっかりかけたので明日にはまた冒険に出れるでしょう。ですが大陸があの様子だとどうなるか未知数です」「そうだろうな。しかしやらなければ世界がどうなるかわからん。普段参加はできないがいざとなったら頼るといい」「わしもだ。孫達を助けるためには何でもやるぞ」「ありがとうございます。私はあまり活躍はできないかもしれませんが、彼らと共にあり彼らを手助けしていきます」「それでいい。あいつらをサポートするのも立派な仕事だ」「そうじゃな」「では明日もあるので失礼します」ここで会話は終わり、マタカはとある場所に転移したのだが、それは本筋と関わらない別のお話。
翌日。ダンジョンの前に移動すると目の前の光景は一変していた。足元が危険過ぎるので飛行してダンジョンを捜索することになった。地面がひび割れて危険とかそういう問題ではない。生き残った魔物達が陸上でも空中でも縄張り争いをしているためだ。ここの一帯の森が壊滅状態になったことで魔力が回収できなくなり比較的無事な地域の魔物達との間で争いになっている。空中ならある程度は躱せると踏んで空を飛ぶことにしたのだ。しかし、彼らが強敵であるということはドラゴンであるノレドやポーサに乗っていることからも一目瞭然であり、争いを放棄してこちらに向かって襲いかかってきた。「ダメだ!僕達を食べることしか考えていない!戦うしかない」魔物の言葉を聞き取れるハペルがそう言ったため戦闘態勢に入る。空中の大きな壁となってこちらを伺っている。中には魔法を飛ばしたり酸の液を飛ばして攻撃してくる敵もいる。同じ魔物に当たろうが元々魔物同士は仲間もくそもないので気にせず攻撃してくる。「戦闘はめんどくさそうだ。こいつで上空に登って突破する」というわけで作戦を実行した。確かに作戦は成功して魔物達の包囲網を抜けることには成功したのだが……「いくらなんでも無茶が過ぎるよ!」「落ちそうで怖かった」作戦とは先日捕獲したファイアギガントを使って上空に向かった上で陽炎を使って隠れて逃げる作戦だったのだが、斜め上には魔物達のせいで行けない関係上、真上に飛ぶしかなかった。そのため背中に乗っている一行はしがみついていたが落ちそうになっていた。現在はハペルの浮遊魔法を使ってその補助をしながら昇っている。魔物の追跡からある程度逃れたのを確認し、身体を水平に戻してファイアギガントを召喚。陽炎で身を隠したので魔物達がいる部分を確認してから素通りした。共通の敵がいなくなった魔物達は再び命をかけた縄張り争いを再開することになった。陽炎で身を隠したまま、結界らしき部分に衝突したので下に降りて確認するとダンジョンの入り口だった。どうやらここが3つめのプロテクトキーがあるダンジョンらしい。周りに魔物がいないことを確認して一行はダンジョンに足を踏み入れた。
南無斗王が海へ軍隊を向かわせたのはあの事件の少し前のことだった。軍隊の兵士達は陸の魔物や人間を想定した訓練をしていたが、海の魔物に対しての訓練をほとんど行っていなかった。漁師達が対処できる弱い魔物ならともかく、封印された大陸の周りにいる強力な魔物達には棒立ちも同然だった。そんな中バンラと鬼平は魔物や武器を使って立ち回っていた。オクトニンジャは海中に潜り透明化できることをいいことに暴れ回る。海面に現れた魔物を飛行するスフィンクスや鬼平が持つチャクラムで仕留めた。そんな中、何とか魔物を対処しようとしていた一隻の船が大型の鮫の魔物によって乗員ごと沈められた。「助けなきゃ!」「さすがに今助けようとすればこっちまで巻き込まれる。全部は倒せないから今のうちに結界のほうまで抜ける!」鬼平がそう指示を出すと船は全速力で進み何とか結界の近くまでたどり着いた。ちなみに王は当たり前ではあるが危険な作戦故に不在なので、王の用心棒でかつ魔物と戦った経験が多い鬼平が全体の指揮を取っている。結界をチャクラムで破壊し、残った乗組員が上陸に成功したときだった。「な、なんだ!?」「地震だ。木の近くにいると倒れる可能性がある、海沿いに退避しろ」「あ、船が!」地震によって発生した波によって船は沖合いに流されてしまった。「積み荷は降ろしてあるんだろう?」「はい、それは言われた通り降ろしてあります」「なら立て直せる。それより次の地震があるかもしれない。早く安全な場所を確保しよう」鬼平達は時々起きる地震を警戒しながら地震の恐怖で襲ってくる魔物を撃退しつつ、安全な場所を探した。彼らが上陸したのは一つめのダンジョンがあった場所の真上にあたる場所だった。森を探索するとダンジョンの結界を発見したので破壊して中に入ってみた。その中はガーディアンが起こした地震の影響を受けておらず、ダンジョンからは魔物が出る気配もない。持ってきたワープストーンを配置し、ここを新大陸の拠点とすることにした。そして生き残った兵士達は一旦ここを転移して国に戻り王に報告した。「大地震で船を失い、一隻は魔物に食べられたか。まぁいい。我々が求めた新天地に到着できたことは大きい。よくやった」この後彼らは再び転移して探索を再開し、冒険者達と対立することになるがそれは後のお話である。
そのダンジョンの中は完全に真っ暗だった。そんな真っ暗なダンジョンなので当然光魔法を使用する。しかし中にいた魔物が突然の光に反応し襲いかかってきた。「使うしかないとは言え、誘き寄せるために使っているわけじゃないんだが……」しかしダンジョンの魔物は侵入者を排除するために基本的にはいるわけで、こうなるのは必然なのである。剣や魔法で応戦し、あらかた魔物を倒したところで魔物達は勝てないと判断し襲うのを辞めたようだ。さて、次の階層に行こうとしているのだが暗闇のせいもあってなかなか次に進むことができずにいた。「どうなっているんだ?ここで終わりなのか?」「いいえ、どこかに繋がる道があるはずです。こういうときはあれを使いましょう」ラーの分体を取り出す。太陽の化身ということもあり、小さくても自力で発光することができる。そんなラーが指し示す方向はフロアの隅だった。「こんなところに、って!?」突然トーイが足を踏み外す。そこはかなり深い水溜まりのようで仲間達が救助する。「大丈夫か?」「うん、これかなり深いから、この水の中を通っていくルートが正解なんじゃないかな?」「そういうことか」「じゃあ、皆さん私の鱗を着けてください」彼女を除く全員がメイリの鱗を着ける。ちなみに陸上では不便極まりない、というより呼吸に余を余計な動作が加わるので完全にいらない物である。潜水を開始すると彼らの予想通り、水深はかなり深いようだ。「何か光が見える」視界を確保するために光魔法を使っているが、別の光が見えている。「敵か。動き始めたからわかったぞ」その敵はサンダーアンコウ。顔についている触角が光っていてそれを使って誘き寄せる。複数現れたアンコウ達が一行に電気攻撃を浴びせようとする。ハペルとシエムがそれぞれ無効にしたのだが、ここで予想外の出来事が起きた。「!?」「壁に引き寄せられている!?」そう、磁力によって引き寄せられてしまったのだ。電気を無効化する時には当然ではあるが身体が帯電状態になる。その時に磁力が発生するので、壁から発生していた磁力で引き寄せられたのだ。その間にアンコウ達はチャンスとばかりに接近してきた。しかし、接近戦は彼らに大きく分がある。アンコウ達が電気魔法を打つ前にトーイが一閃。魔法を打つ前に倒したので放とうとした電気が剣から流れて大ダメージを負った。「大丈夫か?」「とりあえず回復させましたけど、さすがにこれ以上は無理でしょう」アルネラが回復魔法をかけたものの、電気魔法をほぼ一身に受けたため道場に転移させた。そんな時だった。シエムとハペルが電気を放出して壁から離れたとき、残りの7人に暗闇から迫っている物がいた。その巨大な影は暗闇に紛れ、回復し終わって一旦安堵した7人を丸のみにしようとしていた。「危ない!」光魔法でシエムがその存在に気付くと、力いっぱいに叫んだ。その声に気付き、下から巨大な物の口が迫って吸い込まれそうになっていることがわかると、ナージェが光魔法を自身の羽根に集めて発動した。その巨大な生き物もさすがに多量の光に怯み、彼らは難を逃れた。その光で正体がわかったのだが、それは巨大なウツボの魔物だった。「危なかった……丸のみにされそうだったね」「あんなのがいるとなればここはさっさと抜けたほうが良さそうだな」しかしウツボは諦めていなかった。そのため高速で移動するためアイスリヴァイアサンに変身し、魔物達はメイリやポーサのバリアなどを使ってスルーする方針で行くことにした。方角はラーの分体で把握しつつ、順調に進んでいく。しかし、方角は合っているはずなのに行き止まりに差し掛かった。すごいスピードで丸のみにせんと襲いかかるウツボと戦うか、壁を破壊するしかない。破壊の槍を使って穴を開けることはできたが、通れるほどの大きさにはならなかった。そのため、倒すか撃退するしか生き残る道はなかった。「あっ、これを使えば」ハペルはそういうとポイズンゼリーを召喚。セイムミラーに光魔法を当てて影の能力を使って一旦身を隠し、あえて巨大ウツボに食べさせることにしたのだ。もくろみ通りゼリーを飲み込んだウツボは麻痺をし、動きが止まった。この犠牲を無駄にせず、波を操るウェーブシャークを使って穴に流れを一点集中させた上で突進をし壁を破壊した。脅威の生命力で毒を治したウツボだが、麻痺をしている間に獲物は遠くに逃げてしまった。逃げ切った彼らは陸地に上がることができたので、トーイの様子を見るのも兼ねてセーブをして道場に帰ることにした。トーイの様子はアルネラの魔法のおかげもあり、元気そのもののようだ。ちなみに逃げることに決めた理由はあの巨大なウツボは磁力を発している特殊な魔物であり、剣や槍で攻撃しようとしても弾かれてしまうからである。「心配したけど、大丈夫そうで何よりだよ」「ごめん、みんな。でもああしないと倒せないと思って」「とりあえず明日から再び探索を再開しよう」「そうだね」というわけでしっかり休んでから翌日。トーイの調子が大丈夫なのを確認し、前回のセーブ地点に戻った。陸地に上がっても内部が暗闇なことに変わりはなく、光魔法を使って道を照らしながら進む。進んでいくと再び水中を探索することになった。「またあの敵と戦う必要があるのかな……」ユナの心配は当たりだった。暗闇に紛れ再び奴は現れた。さすがに2度めということもあり警戒していたため、敵の巨大な影にすぐに気がついた。だが、今度は完全に行く手を塞いでしまっているため、倒すしかない。口から風魔法で攻撃してきたり、磁力を使って磁力がある壁の岩を剥がしてぶつけようとしてきた。厄介なのが岩を排除するのに剣や槍を使おうとすると上手く使えないので魔法で攻撃するしかないのだが、水中なので炎や水、氷は上手く機能せず、電気は岩を逆に引き寄せてしまう。光を使い影に収納することで対応しているが、容量には限界がある。シエムはここでビグオクタを召喚した。タコはウツボの大好物である。無我夢中で食べにいった。しかし、前回のポイズンゼリー同様、何も勝算なしに召喚したわけではない。「効きましたね、作戦通りです」ウツボの巨大な首を食べられたはずのビグオクタが絞めていた。そう、透明化できることを利用し、透明なまま召喚して分身を実体化しておとりにしたのだ。動きが止まった状態になった巨大ウツボを完全に倒すため、6人で完全ユナイトをして完全体に変身した。彼らが倒すために選んだ手段は吸収魔法だった。ヤマタノオロチ由来のこの能力だが、あまり使わなかったのは相手も吸収持ちの場合単純な力勝負になり、負けた場合は問答無用でやられるというリスクが高すぎる能力だったからである。シャミが調子に乗った結果一時的に戦線を離脱する羽目になったため使って来なかったが、物理も魔法もほとんど効かないとなると使う他なかった。
そしてビグオクタが足止めしている敵に吸収魔法を仕掛けた。抵抗として壁を破壊して攻撃をするが、首を絞められてさらに吸収もされている状態では完全体の彼らにはダメージが通らない。後にマグネウツボと名付けられた敵は魔力に変換し逃げる最終手段に出たが、見逃さずスーパーボックスに収納した。その際に凄まじい吸引力で元々攻撃によって脆くなっていた壁がさらに崩れ、真っ直ぐに行けるルートができた。完全体を解除しアイスリヴァイアサンになって一気に突っ切り、陸地に到着した。そのフロアには例の巨大なサーバーのような物体が中央に鎮座していた。「これがあるってことは……一番奥に着いたってことでいいんだよね?」「よく来たな。2つのダンジョンを制し鍵を手に入れた者達よ」「!?」機械音声であるにも関わらず、気さくな感じで話しかけてきたので少し驚いた。「ここまでたどり着いただけでも渡しても良いのだが、その実力を私に見せてもらいたい」機械音声の後、現れたのは巨大な腕だった。このフロアはそこまで暗くないのだが、突然地面から4本の腕が生えてきたので一行は驚いた。しかし、特に攻撃をしてくる様子も動いてくる様子もない。「これはどうすればいいんだ?」「この中央の物体を破壊すればいいんじゃないか?」「まぁ、それしかないよね」とりあえず遠距離攻撃を一通り試してみたが、全く通らない。対魔法結界のようなものが張ってあるらしく物体に傷一つついていないのだ。結界破りの銃もなぜか効いていない。トーイとユナがユナイトをして結界を壊すためジャンプして剣で斬りかかるが……「うわっ、何これ!?」剣は結界に攻撃する前に不思議な力が働いて二人は巨大な腕に吸い寄せられて手に掴まれた。「これはあの敵と同じ磁力か」「そういうことみたいだね、どうやら金属は全部あの腕に吸い寄せられるようだ」「だから結界が壊せなかったのか」ナージェは納得した。腕に吸い寄せられて銃弾の軌道が変わったせいで当たらなかったのだ。「そんなことより助けないと」「どうやって?」「こうすればいいと思います」ポーサが変身しながら飛んで拘束されている腕に接近する。他の腕が彼を捕らえようとするが、動きが遅いため捕まることはない。そしてポーサはシーライオンを召喚する。元々マンティコアで残忍な性格をしているため、巨大な腕を破壊するのはその欲望を満たすのには十分過ぎた。そして拘束していた腕が攻撃でボロボロになり拘束が緩んだ瞬間にユナ達は脱出に成功。ユナ達が帰って来たので完全ユナイトを実行。今度は吸収魔法で結界を構成する魔力を吸収し無力化する作戦に出た。4本の腕は相変わらず邪魔するが、ポーサやシーライオン、さらにナージェ達が腕の注意を引き付けることで妨害をさせないようにした。ただ、数人では巨大な腕相手では妨害し切るのは不可能なので、ミラーキングを召喚して分身を沢山作り出すことで確実な物とした。その時間稼ぎのおかげで結界の魔力を吸収することができた一行は次に本体の破壊を狙うことに。接近して吸収魔法で攻撃すると思った物体は巨大な腕の一本を転移させて拘束しようとしたが……「何!?」彼らが放ったのは超高温の炎魔法だった。破壊の神シヴァはかつて、「炎の無効化は温度が低い場合のみ有効」と言った。それをなんとなく記憶していた彼らは、シヴァの破壊の槍の炎、イフリートドラゴンの炎、オレンジのプロテクトキーによる温度の増幅を合わせることで普通の炎魔法では不可能な超高温を実現したのだ。ちなみに赤いプロテクトキーにも追加効果があるのだが、それは後程登場する。物体は超高温を受けたことで中央から溶け、召喚した4本の腕は消えていた。そしていつの間にか青いプロテクトキーを持っていることに気がついたため、目的を達成したことを確認し転移した。「ついに集めたか、その鍵を」マタカは彼らの話を聞いていたためキーの話も知っていた。「で、超高温ダンジョンのキーはより高温にする機能を持っていたんだな?」「そうだよ」「なら、残りの2つも何かしら機能を持っていると考えて良さそうだな」「そう思うのが自然ですね」ポーサは同意する考えを述べる。「いよいよ例の装置に近づけるのか。ところでそのダンジョンで捕まえた巨大なウツボに興味が湧いたので譲ってくれないか?磁力を扱える魔物となれば研究によっては様々な価値を生み出せるぞ」「とりあえずミガク王国の魔物研究機関に預けるつもりなので譲ることはできません」「そうか、なら仕方ないな」「磁力を扱えるのはこの人もだよ?」トーイはそう言って重装騎士を召喚する。「でもお前にとっての切り札だろ?ならもらえないさ。それにその物騒な見た目とそれに見合った実力を持っているようだしな」「我が主は私がお守りする故離れることはない」「ああ、しっかりとみんなを守ってくれ」そしてしっかりと休んだ彼らは彼らの新大陸の最後の冒険に臨もうとしていた。
翌日。ダンジョンの前に転移した彼らはラーの分体を使い最終目的地を探していた。そんな彼らが目にしたのは巨大な山、もとい岩山であった。「いかにも何かいるといった感じの山だね、何があるんだろう」そして結界に到着すると3つの鍵穴があることが分かった。ナージェがためしに銃を使って突破できないか確認したが、この結界は破ることはできなかった。「ということはやっぱりこの鍵を刺すんだね」鍵を3つ差し込むと結界は消滅し、先に進めるようになった。しかしその先で思わぬ敵と遭遇する。「またガーディアン!?」「いや、これは違うような……」現れたのはキュクロプス。雷を操る一つ目の巨人である。ちなみに英語名はサイクロプスであるが怪物や魔物呼びなどを使う時はこっちが多く、神などとして扱う場合はキュクロプスが主流である。さてそんな彼は結界の中に長い間死ぬこともなく封じ込められて来たためようやく出ることが出来たのだが、目の前に現れた存在がそれを解いたことは分からずに襲ってきた。しかしいくら得意な雷魔法を放っても一行には無効にすることが出来るメンバーが二人もいるので一切通じない。「言葉から分かるのは長いことここに閉じ込められていたようだね……食べ物も食べずによくその巨体を保てているなとは思うけど」キュクロプスの言葉を聞いたハペルがこう言う感想を述べた。とりあえず話を聞きそうにないタイプだから攻撃を仕掛けようとしていたときだった。「ちょっと待った!!」ブレスレットから大きな声が響いた。「エキドナさん!?どうしたんですか?」「まぁ、とりあえず事情は後で説明するから無力化するなりしてその巨人をここまで転移させてくれないかい?勿論無傷で連れて来てね」「えー!?無理ですよ!?」「とりあえず大事な人なんだ、頼むよ」こうして無傷で転移させるというただ倒すよりも数十倍大変な戦いが始まった。そもそも転移対象にするには基本的には所持者に対して敵意をなくした状態にしなければいけない。そうしなければ範囲内の魔物までまとめて転移してしまい転移してきた無関係な街などを巻き込みかねないからだ。ただ訳も分からずこちらを攻撃している敵の物理攻撃は遅くて当たらず、魔法攻撃も無効なので十二分にチャンスはあった。「!?」キュクロプスはいつの間にか出られなくなった上に周りの状況がわからない状態にされていた。ミラーキングの能力はただ分身を作り出すだけでなく、鏡を生み出して取り囲むことも可能なのだ。そしてその間にユナはマジックバッグにピレンクの中の荷物を入れ換えると、ユナとピレンクはユナイトし、キュクロプスを影の中に収納してみせた。村人や冒険者達数十人を入れた体験から、巨人を一人入れる程度なら行けると判断したのだ。ただ中で暴れられて再び前回のような轍を踏まないように荷物をマジックバッグに移し変えたのである。そして魔王城まで転移させることができた。「よくやったね」出迎えたのはエキドナとガイア。「!!?」影から出されたキュクロプスは目の前の光景が一気に変わったことにも驚いたが、目の前に母親がいたことのほうが驚いていた。そう、大地の女神であるガイアの大切な息子の一人であり、囚われたキュクロプスをゼウスが解放したことで対クロノス戦の戦況が変わったとも言われている。
「ありがとう、また息子に会えるとは思っていなかったぞ」ガイアから感謝の言葉を受けて誇らしく思った一行だった。「お礼がしたい」とキュクロプスが言ったので色々考えた結果、槍に雷の力を込めてもらうことにした。神の槍と言うことでその過程で破壊されることもなく魔力を取り入れることに成功し、雷を操ることができるようになった。これで炎、氷、水、雷と4つの属性を一つの槍で扱うことができるようになった。「ありがとうございます」「気にするでない。それより冒険に戻るのだろう?これを持っていくと良い」ガイアが渡したのは巨大なハンマー、槌だった。「今のお前達の状態では使えないだろうが、あの大きな姿になれば使いこなせるじゃろう。どうやら磁力のある場所で壁が破壊できなくて困っていたようじゃからな」「なぜそれを!?」「女神だから過去も未来もある程度分かるのじゃよ。戦いを止めさせたのも我じゃからな」「そうゆうことだったんですね」こうしてガイアのハンマーを入手し冒険を再開することにした一行。
キュクロプスがいた地点に戻るが進んでもダンジョンらしき入り口が一行に見つからない。結界を疑ったものの特にそういう反応もなかったため、ラーの分体が示す方角を信じることにした。「まさかこんなすぐに使うことになるなんて……」「これも読んでいたら恐ろしいな」完全体に変身して渡された巨大ハンマーを使う。重量は相当重く、大きさも鬼平の持つモーニングスターとためを張るぐらい大きい。そんな巨大なハンマーを持って、渾身の力を使って目の前の壁めがけて振り下ろす。ハンマーは木製ということもあり叩きつけた勢いで破損してしまったが、目の前には大きな空洞ができた。ハンマーはガイアの魔力を補給したらあっという間に元に戻る高性能のハンマーだったため、特に戻ることなく先に進むことにした。しかし、進むとすぐに壁が立ちはだかった。ハンマーや結界破りの銃、斬剣でも壊せない謎の壁だった。「これは魔力が壁になっているんだ」「どういうこと!?」ハペルは持論を展開したため置いてきぼりの他のメンバー。「この一見壁に見えるものは常に魔力が流れ続けているみたいだ。それが一時的に破壊されても魔力の流れがある限り一瞬で再生してしまうみたいだね」「魔力、流れ……あっ」ユナは何かを思い出したようだ。「なんかひらめいたの?」「これ、覚えてる?」「魔法が一切効かなくて通せんぼうしていた岩だな、なるほどそういうことか」ピレンクは分かった様子だ。「何?まだ僕わからないんだけど」「これを巨大化させて魔力の流れを全部こいつに吸わせるのね。まぁ限界はあるからすぐに壊れるでしょうけど……」「向こう側に行くには十分過ぎる位の時間は稼げるだろうな」「そういうことなんだね、よく覚えていたねユナ」「まぁ何かに使えるかもと思っていたけどこんな形で使うとは思ってなかったよ」とりあえず阿修羅の腕輪で巨大化、というより塞いでいた元のサイズに戻し、壁と接触させる。すると一瞬にして壁が消え、岩の色が徐々に変色していく。「すぐ渡って向こう側でセーブをしよう。二度と渡れないとなるとめんどくさいからな」「そうだね、そうしよう」壁のあった部分を急いで通り抜ける。数分もすると岩の砕けた音が聞こえ、入り口に戻ることはできなくなっていた。そんな彼らが進んだ先にあったのは不思議な石像が中央に置いてある空間だった。「行き止まり、みたいだね」「何かしらしないと先に進めない感じか」ヒントは中央にある不思議な像だけ。よく見るとその像の表面にはひびが無数に走っており、なぜその姿を保てているのか疑問になるほどだった。「ボロボロだね」「とりあえず壁に攻撃してみるか」特にいい案も思い付かなかったので、斬剣を使って切ろうとした。一瞬は切れたがすぐに修復し、なぜか像のひびが消えた。「なんか今攻撃したときにひびが光とともに治ったんだけど」「壁と連動しているのか?」「じゃあその像を切ってみよう」斬剣で切ってみると真っ二つになったもののその後には光とともに再生し、やはりひびが消えていた。「よくわからないな、これ」「分かったかもしれない」ハペルが法則性に気がついたようだ。「これ、今攻撃をしているから再生しているんだよね?」「それがどうかしたのか?」「だから逆をすればこの像を破壊できるんじゃない?回復や修復をかけてあげれば像を破壊して向こうに進めるようになるんじゃないかな」「面白いな、やってみよう」実際に回復魔法を像にやってみるとあっさりと像は砕け散り、向こうに進める道ができた。「常識が通用しないな……攻撃で回復して逆に回復や再生で破壊することができるなんて」「とりあえず破片を集めておこうよ。あのときみたいに何かに使えるかもしれないし」「そうだね」石像の破片を集めてバッグに収納すると次に進んだ。次に待っていたのは普通の魔物のいるフロアだった。ただ、その魔物のサイズが小さく、めちゃくちゃ沢山いるためフロアの床を埋めつくし、上に飛ぼうとしても小型のコウモリの魔物が天井に張り付いて襲う準備万端で待ち構えている。「なにこれ……ここまで気持ち悪いの見たことない」「さすがにさっさと渡ってしまいたいな」「この手の数の暴力に任せるタイプはおまかせください」アルネラは準備をしていく。鏡の分身を作り出し、その分身に強力な誘惑魔法をかける。当然の如く分身に群がるように殺到し、分身は大量の魔物によって黒く覆われていた。「さて、さっさと抜けよう」床に魔物がいなくなったのを見て素早く通り抜ける。次の抜けた先にあったのは大きな空洞。「とりあえず降りてみよう」ノレドが変身して穴に降りようと穴の外に出たそのときだった。「うぉ!飛べない!?」「ノレド!?」ドラゴン形態に変身したにも関わらず
全く飛ぶことができず穴に垂直に落下していく。「いてぇ……な!?」彼は落ちた瞬間何かに襲われてしまった。「とりあえず追いかけよう。影の中に入っていてくれ」ピレンクは虎の形態に変身したエンペラーに乗り、他全員は影の中に入って彼の後を追うために垂直に崖を降りる。自分の影であるため落ちずに乗ることができるのだ。そして、「うそでしょ……」そこにいたのは無数の剣や槍が突き刺さったノレドの姿。その元凶と思われる無数の剣や槍、矢が刺さっている山のような形をした物体がそこにはあった。さらにそれだけではなく銃口が山から無数に出ており、大砲の形をした穴も沢山あり、戦車を思わせるような形でもあった。彼らが降りて来たことも当然感知しており剣と槍、矢を彼らの周り全方位に飛ばしてきた。ユナやメイリ、ポーサのバリアを使ってなんとか猛攻を耐えしのぐ。すごいスピードで飛んで来ているためこれでは訳も分からずに地面に落ちたノレドではとっさの反応もできずにやられたのも納得である。ノレドはその見た目通り死亡しているため、なんとかヒエノ島に転移させようとしているのだが、ここでは転移が使用できないようだ。「影に入れて一旦転移できる場所まで戻るしかない。とりあえず分身に時間稼ぎをしてもらおう」トーイは頷くとミラーキングを召喚し、分身を使って攻撃している物体の注意を引き付けてもらうことにした。当然ではあるが分身を操るミラーキングは連れていけないので耐えてもらうしかない。「飛ばしている武器は金属だ。奴なら防げるだろうな」ピレンクに言われたトーイは続けて重装騎士を召喚。さらなる時間稼ぎのため二体に頑張ってもらいつつ一度撤退することにした一行だった。ヒエノ島に転移した後ノレドの復活までの間、エンペラーに残っていた敵の記憶を確認するピレンク。「間違いない、こいつが例の装置だ」「あの大きな奴が?本当なの?」「ああ。奴が起動した痕跡が残っていた」「それにしてもあんな結界に囲まれた空間の中にある敵をどうやって起動したんだろう?そもそもすでに起動していたのでは?」「その説はあるだろう。とにかく相手が強い、ってことは嫌と言うほど理解したからなんとか倒すしかない」とりあえず復活に成功したノレドと共に一緒に転移する。復活させたフェアルからはすぐに行動するのは危険だと諭されたが、戦場に身代わりを立てている以上すぐに行かなければ倒れている可能性が高い。そして転移して敵のいる場所に戻るとそこには剣が突き刺さった二体の姿があった。「大丈夫か!?剣などは磁力で無力化できるんじゃなかったのか?」「それが……敵の磁力でこちらの磁力操作を無効にされました」息も絶え絶えながらそう話す騎士。「まもなく魔力が消えます、最後に会えてよかった……」「待って!」シャミがハペルから飛び出す。話が少し脱線するが魔物の死亡について解説しておこう。魔物が煙になって逃げるのは身体を魔力に変えることができるためであり、当然魔力から元の肉体に戻ることができる。その時に身体を構成するために変換できなかった魔力がエレメントの欠片やエレメントに変わるのである。魔物は本当に死亡すると普通はそのまま死体が残るのだが、今のようにダンジョンの内部では死体は魔力に変換されてしまうので何も残らなくなる。モンスター武器に変化することもかなわない。話を戻すと死にかけの二体にシャミが声をかけたところに戻る。「僕が二人の魔力を吸収し、必ず敵は討ちます」その言葉を聞くと何も言わず騎士、騎獣、ミラーキングはシャミに吸収されにいき、シャミの身体は光に包まれ巨大化した。元々シャインドラゴンということもあり、その身体は光輝いていたのだが、より強く輝き身体は大きくなった。シャイングレートドラゴンとなったシャミはミラーキングの能力分身を使い敵に対して全方位から攻撃を仕掛ける。分身に攻撃しようと剣や槍を飛ばしての攻撃をするが、分身への攻撃が当たって消える度に少しずつ敵の表面がボロボロになっていく。「どうなってるの?」「鏡の分身の能力で相手にダメージを跳ね返しているんだ。僕達も苦しめられたあれだ」「あったね、それ。今は味方で頼もしいけど」ただ、シャミが放っている直接攻撃は表面にダメージは入れているものの、攻撃が止むことはなくひたすらに彼を狙っている。「ここは私達も行こう」完全体に変身し、攻撃の合間を縫って接近する。剣を取り出して攻撃しようとするが、磁力操作でものすごい力で天井に持っていかれそうになる。「任せてください」シャミが騎士から得た能力である磁力操作に対抗し、逆の磁力をかけることで元通りとなり、その間に斬剣で切り裂いたのだが、ガキンという音が聞こえたと同時に剣が弾かれた。「切れるはずの斬剣が切れないものって……」傷付けた面を見ると剥き出しになった部分は銀色で傷一つついていない。このあととんでもない攻撃が起こり、まさに終焉の名にふさわしいことが起こってしまうことをまだ彼らは知らない。攻撃が全くなくなった代わりに警告音のような大音量の音声が鳴り響き、防御しようのない攻撃が彼らを襲った。「うるさい!!」完全体である彼らは身体能力が合体しているぶん、視覚や聴覚の強化具合も通常ユナイトと比べてもだいぶ上がっている。そんな状態で大音量を聞き続けたらどうなるかは容易に想像がつくだろう。要はめちゃくちゃ小さい音でも聞こえる耳を持っている状態で大音量を聞いてしまえばしばらく行動できなくなってしまう。その状態に陥ってしまった彼らは対応策も取れないままその場にとどまってしまう。「まずいですよ!」「なんとかしなきゃ!」残りの4人が行動不能になった完全体をなんとかしようとする。
ポーサは変身して回収を試みるが、「またか……」飛行不能状態に陥ってしまう。ノレドが落とされた飛行魔法が使えなくなる力である。実は二回目に来たときには普通に飛べていて今までの攻防も飛んで行っていたのだが、ポーサの変身に反応したのか飛べなくなった。当然完全体やシャミも地面に叩き落とされる。「痛っ……」「なんかヤバいのが来る!」直接的な攻撃を一切しなかった敵の砲台が光輝き、フロア全体が光に包まれるほどである。叩き落とされたことで態勢が整っておらず攻撃が間に合わないと判断した彼らはバリアなどを張って防御の態勢に入った。しかし敵が放った攻撃は彼らの想像をはるかに超えていた。その砲台が放った一撃は彼らの防御をあっさりと貫通し、世界の大地を崩壊させるほどの衝撃波とエネルギーを世界に向けて放った。このときおもむろに「仕方ないですね……」という声が聞こえた。
目を覚ますとそこはノレドが復活しようとしていたヒエノ島に一行はいた。「ん!?あれ私達死んだじゃなかったっけ?」もはや死んだ回数がそこそこになったユナは死んだことに対して動揺もほとんどしていない。「どうやら時間が巻き戻ったようですね、ノレドさんの復活前に戻ったらしいです」ポーサは冷静に分析した。時間が巻き戻ったりするのも彼らは経験済みである。「だからってどうすればいいんだ?普通に破壊するのは厳しそうだぞ?」「そ、それは……」「世界は一度崩壊したのです」突然ヒエノ島に現れたのはアフロディーテだった。「終焉破壊兵器によってこの世界は崩壊の危機を迎えました。しかしあなた方の持つコーテックドラゴンの分体が命懸けで世界全体の時間を巻き戻したのです」「ほ、本当ですよ……分体のわずかな魔力でこんなことしたら大変なことになるんですから」「そ、その身体は!?」見ると分体の身体は透けて、今にも消滅の危機を迎えていた。「後は頼みましたよ、ご主人様」そういうと分体は復活したノレドに吸収されにいき、一体化した。「これで後戻りはできなくなりました。この掴んだチャンスで奴を倒す必要があります」「でも一体どうやって!?」「大丈夫です。神達は今の時間溯行を認識し、あれを脅威と捉えました。そのアイテムで彼らに位置を送れば、神達はどんな障害があっても駆けつけるでしょう」破壊の神シヴァにかつて渡された神と交信することができるアイテム。基本的に人間相手に指示を出されようが神の気分次第であり、ほぼ信用できないため実戦で頼ることはほとんどなかった。しかし人間と神の世界の危機ともなれば話は変わる。ましてほぼなんでも斬れる斬剣の攻撃が効かない相手である。「その通りだぜ」そう言ってやってきたのは韋駄天ことスカンダである。「あれ!?この島も結界があると思ったんですけど」アフロディーテはある程度冒険を共にしていたこともあり、身内と判定した可能性はある。だが、スカンダはそんなことはないはずだ。「簡単さ。下のダンジョンを通ってきたのさ。あそこの結界は海にあるものに比べるとだいぶ結界が薄かったから簡単に通れたし」序盤の冒険で通ったダンジョンは陸路で隣の町であるリチ町に繋がっている。そこを彼は猛スピードで通ってきたのだ。「正直、ここから例の場所に結界さえ突破すれば行けるんだろ?だったら一足先にあいつの攻略法を探しておくぜ」そういうと物凄いスピードで彼は消えていった。「とりあえず彼の後を追いましょう。おそらく倒せないでしょうし」アフロディーテはそう言うと転移するように促したので、行こうとしたのだが……「すまない、お前達の力を貸して欲しい」マタカの連絡を受けてダンジョンではなく大陸の森に向かうことになった。
ここだけでは何が起こっているのか全くわからないので少しさかのぼって説明しよう。終焉破壊兵器によって一度破壊された世界。それを時間を巻き戻した際、全部の環境を元通りにするように巻き戻すようにコーテックドラゴンの分体は行ったのだ。その時にこの大陸には真っ二つに斬られ停止したガーディアンがいた。それも「元通り」にするように巻き戻した結果、ガーディアンが復活してしまったのだ。それも起動した状態で。それをマタカ達が目撃してしまったため、対処せざるを得なくなった。しかし前回も書いた通り50メートルを越える巨大ガーディアンであるため、通常の武器や魔法で対応できるような相手ではない。そのため不本意ながらも一度倒した実績のある一行に頼るしかない。で、本来の時系列に戻ると一行は再び巨大ガーディアンと対峙していた。しかし、一度倒した相手でありその倒しかたもわかっていたため、影で足元の土を収納し転倒させる作戦に再び出た。しかし、「効いていない!?」いきなりその作戦を実行したこともありバランスを崩す作戦であることを悟られてしまった。足元が敵によって破壊されていなかった分バレバレだったのだ。接近を腕と風魔法でいなし暴れるガーディアン。その時だった。巨大な身体が足元が無事であるにも関わらず後ろ向きに倒れていく。「何が起きている!?」見ているマタカ達も不思議がっている。そこにトーイとユナがユナイトして上空から襲いかかった。ガーディアンは腕で反撃しようとするが、腕は影に吸い込まれて動かない。見事に強襲が決まり再び斬剣で真っ二つにした。「一体どうやって奴の動きを止めたんだ!?腕のからくりはわかったが……」「これだよ」取り出したのはメタル系の魔物の素材だった。「そうか、磁力か」「そう。これを影から後ろに取り付けた上で透明化したシャミの分身が磁力で引っ張って態勢を崩し、その隙に上から奇襲をかける。態勢が崩れればさっきの作戦のこともありそこに意識が持っていかれるはずだから影魔法で腕を止めるのは簡単だった」「なるほどな、とりあえず助かった、礼を言う」「どういたしまして、とりあえずダンジョンに向かいます」「ああ、頼むぞ」スカンダがすでに向かったと思われる決戦の地に再び彼らは足を踏み入れることになった。
スカンダは恐ろしいスピードで到着した後、早速敵と戦っていた。しかし、どれだけ彼が素早く攻撃を出しても硬すぎて彼の槍では相手にダメージが通っていない。スカンダは勝てなくても何か手がかりがないか探していた。とそこに父である破壊の神シヴァも駆けつけた。「我の炎を食らって生き残る物はいない、消えろ」超高温の炎を全体に受け、一瞬倒したかに見えた。表面の剣や槍はすべて消え、銀色の中身が飛び出したが、中身自体は動いているようだ。「ええぃ、もう一度食らうが良い」溜めて繰り出した炎魔法も銀色が赤く光っただけで無傷。そして一度世界を崩壊させた攻撃が容赦なく二人に襲いかかろうとしたのだが……「時間が巻き戻った!?」再び時間は巻き戻ることになった。
こうしてシヴァ達のせいもありヒエノ島に再び戻ってきてしまった一行。「どうやらスカンダさん達が失敗したようですね」「そんなことはない。ちゃんと奴の攻略法はわかったぞ」時間軸はスカンダがヒエノ島にやってきたところまでさかのぼったようだ。「ところでどうして再び時間が巻き戻ったのでしょうか?時を戻せる力を持っている人物なんていましたっけ?」一行は時を戻せる人物を思い出していた。「セトロムさんですね。時間をループさせる魔物をテイムしていました」「なるほど。どうやら一回めの時間の巻き戻しに魔物が気がついたのでしょう。そこでループさせるように仕掛けたということでしょうか」「とりあえず俺の話を聞いてくれ。奴は父上の炎が効いていなかった。むしろエネルギーに変えて攻撃をしてきたんだ。ということは反対をやってやればおそらく例の攻撃は防げるはずだ」「父というとシヴァさんですか。なるほど……高温を攻撃の源に変えているんですね」この言葉にピンときた一行。二番めに挑戦したダンジョンは超高温のダンジョンだった。しかも最奥の物体は攻撃を受けないように降参し立ち去らせた。ということは……「攻略したダンジョンに高温のダンジョンがあったんですけど、おそらくそれをあの攻撃のエネルギーにしているんですかね?」「おそらく、いや間違いなくそうでしょう。ならそちらのダンジョンにですね……」アフロディーテは何か準備している様子だ。「とりあえず連絡がついた方だけで攻略してもらいます。位置情報を教えてくれますか?」セーブストーンを複数所持していたため二番めのダンジョンの転移情報が残っていた。転移をして場所を確認する。「ここです」「なるほど、確かに熱気がここからでも伝わってきますね」そのとき、地面が鳴動した。振り返ってみると巨大ガーディアンともう一体、見覚えのある巨大なドラゴンが戦っている。ここでエキドナから連絡が来た。「あの巨大ガーディアンはウーラノスの旦那に任せな。お前達は目的地に向かって」「エキドナさん、ダンジョンの攻略がしたいんですが」「ああ、位置はわかったから召喚してあげよう」そして現れたのは氷や水系の魔物達と水や氷魔法の使える魔族達だった。エキドナにかかれば結界に覆われた大陸にも召喚することができる。さらに、位置情報が伝わったことで神達もやってきた。「久しぶりですね。実は氷の女神でもあるんです」「久しぶりだ。陸に出るのは長らくなかったな」現れたのはエルフの族長スカジ、海の神ポセイドン。「私もここで作戦に参加します。皆さんは向かってください」「わかりました」こうして一行は敵のいるダンジョンに転移した。「さて、こっちの仕事を終わらせましょう」スカジ達は大規模な冷却作戦を始めた。当然超高温ダンジョンが相手なので、入り口をただ冷却しただけでは物体のいるフロアまでたどり着けない。「穴を掘ってダンジョンの周りから冷却をしましょう。いくら不思議な力を使っているとしても限界があるはず」「なるほどな。だが我々に穴を掘るスペシャリストなんて……」「大丈夫だよ」魔物の中からエキドナの声が聞こえた。「一体どこから!?」「これだけ沢山送ったんだ。当然連絡する用の魔物もいるよ」「なるほど」「とりあえずそういう作戦ならもぐらの魔物を数体追加しておくよ。そうだね……神の魔力やアイテムが欲しいかな、報酬として」「いいだろう、世界を救うためだ。いくらでも後で提供しよう」もちろんエキドナもただで軍団をよこしたわけではない。打算をもって協力しているのだ。だが目的は同じなので神達は快諾した。言っていた魔物達が到着し、早速堀り始めたが、数メートル進んだところでやられてしまう。「やはり地下もかなり高温のようですね。もぐら達を冷却しつつ守りながら掘っていきましょう」「我は水で中を冷却し続けよう」スカジがもぐら達の援護、アフロディーテ、ポセイドンがダンジョンの冷却を担当することになった。魔族や魔物達の氷や水魔法で入り口から容赦なく冷却しているため、攻撃に対応しようと中からダンジョンの魔物達が炎魔法で対抗してくる。「我の槍で敵は貫く」「魔物が出てくるということは効いているということ。ここを突破して奥にどんどん進みましょう」魔物を次々と突破し内部に突入していく。一方、スカジはもぐら達の身体と周りの地面を冷却し作戦を進めている。複数体いる全部の冷却をほぼ一手に担っている。「これ以上は熱いとか以前に土が硬くて掘れないようですね……しかしここまで掘り進めてもらえば十分です」もぐら達が地上に戻ったのを確認した後、魔物や魔族達で水を流し込んで冷却し続ける本命の作戦に切り替えた。ダンジョンからの熱で凍らせてもすぐに溶けてしまうが、それでも気にせずに地下から冷却していく。その影響はすでにダンジョンの中層に突入していたポセイドン達もすぐに気がついた。「明らかに温度が低下しているな。作戦通りだ」温度が低下したことで敵の魔物は実力が出せなくなり、こちらの魔物と魔族達に次々と倒されていく。魔物の数は熱や攻撃で半分に減ったがポセイドンと魔族達は無傷なので特に影響はない。「見えました。おそらくあれが例の物体でしょう」アフロディーテが発見したのは巨大な物体。彼らは最深部にたどり着いた。ファイアギガントを例の如く出すがだいぶ温度が下がっていたことと魔族達の数が多かったぶん本来の実力を出すことなく倒され、アフロディーテとポセイドンが魔法と槍を使って中央の物体を破壊して機能を停止させた。「これで兵器にエネルギーが供給されることはなくなったはず。彼らを追って向かいましょう」転移で彼らの行ったダンジョンに合流しようとするのだった。
その頃。スカンダは前と同じく一足先に敵と戦っていた。シヴァと一行も合流し、いよいよ最終決戦が始まる、と思ったその時だった。「邪魔はさせない、忌々しき者達よ」「なぜ貴様が復活している!?」そこに現れたのはかつてシヴァとラーに倒されて山に封印された暗黒卿の分身だった。「簡単なことだ。貴様達が時を巻き戻す直前、封印が破壊されたのだ。封印こそ元に戻ったようだが、我は時間溯行の影響を受けなかった。そこの者達のおかげでな」「あっ、そういうことか!」「どういうこと?」「こいつの封印をする際に封印の樹木を育てるために周囲一体の時間を停止させただろ?」「あったね」「その間に奴は時間の停止や溯行の影響を受けにくくなっていたんだ」「そういうことだ、たっぷり今その礼をさせてやろう」こうして二体のボスを多人数で戦うことになった。しかし数では勝っていても凄まじい攻撃量を誇る二体が的確に攻撃を仕掛けていく。スカンダが速度を生かし槍で分身に攻撃を仕掛ける。「やめろ!」とシヴァが止めたが速度が速すぎて当然止まらず、影の身体で攻撃を無効化されて捕まってしまう。「くっ、やめろ」「手駒が少ないのでな、使わせてもらうぞ」スカンダは神であるので洗脳には強かったのだが、直接触れてしまっているぶん洗脳しやすく敵の手に墜ちた。今度は敵がものすごいスピードで襲ってくる上になるべく傷つけずに無力化しなければいけないという事態に陥った。影が分身のせいで相手の独壇場である以上ピレンクやユナの影の能力はほぼ使えない。そのスピードには当然ガードが間に合うはずもなく槍の攻撃をもろに食らい続ける状態になった。アルネラがその度に回復を使うが間に合わない。「すいません、これしか今止める方法がありません」シエムは前回同様魔法を溜め始めた。アイスバタフライも召喚し、あの攻撃の準備をする。バリアを張り、完全に攻撃を諦め防御態勢に入った。
最後の解説ですが、このお話だけでキャラ達を理解するのが難しいと判断したため入れてみました。次の章ですが邪神達との戦いから始まりますが、創造者を巻き込んでの戦いから各地で起こる様々な事件に勇者達が立ち向かう、というお話がメインとなります。次回の更新を楽しみにしてください。