第6話 夢の世界?
ホールを発ってから5分。
ようやく城の入場門が見えてきた頃で、この国で最も栄えている商店街を通過したが誰一人も見かけることはなかった。
あんな短期間で国民が避難できる訳もなく、違和感を覚えつつ向かうも、城の門は開いてあり門番の姿はない。
「一体どうなってる?さっきから変だぞ、なんで騎士はいないんだ!」
嫌な予感を感じながら城内を捜索する。
しばらくして何やら奥の方から声が聞こえてくる。
「誰!誰かいるのかっ!」
「ワシはお前より上の身分なのだ、それが分かったならワシの金庫をここまで運んでこい!」
「ふざけるな、ただの老いぼれが!」
身構えつつ声の元へ行くと、避難者達であろうと貴族が揉めていた。
見覚えのある奴が何人か避難しているが明らかに数が少ない。
ホールの扉の前で生存者を確認した時には300人以上いたのに 、ここには100人もいない。しかもロイドさん達はおろかセレナの姿もない。
「何でいないんだ・・・」
あたりは呆然と静まり返っている。
「おい、他の奴らは何処へいった!」
すると1人の女性婦人が答えてくれた。
「他の方々は金庫を回収しに各々の自宅に戻られました」
「・・・・・・・はっ?」
金庫を回収?嘘だろ?と言いたいが、自身の為に他人を蹴落としてまで金を求める奴らだから むしろ普通なのかもしれない。
「まだ質問がある。白いドレスに青い長髪をした少女、それから白と黒のワンピースを着た同い年くらいの女性を見なかったか?」
「えっと、青い長髪の少女・・・それならお腹が痛いと言って倒れた女性を医者に見せに行ったわ」
「本当か?大体の場所は分かるか?」
「えっと商店街から少しそれた中通りの方よ」
「ありがとう、今から全員ここに連れてくる《身体強化・脚》」
スキルで足の脚力を強化し、全速力で目的地へ駆ける。
俺の予想だが、お腹が痛いと言って倒れたのエリーさんだと思う。
確かこの時には既にお腹の中にはレイがいるはずだ、もし万が一のことが起きれば、レイが生まれなかった世界線になってしまう。
それだけは何としでも避けなければならない。
ガタッ ガタッ
目的地付近に達した時、建物の中から音が聞こえる。
ここはまだ病院じゃない魔物か?そう思い魔力感知を行うが、さっきの奴とは違う反応がする。
「いるんだな?入るぞ・・・」
ゆっくり扉を開け慎重に中を覗き込む。
その瞬間、「来ないでぇーーっ!」の叫び声とともに包丁が視界に飛んでくる。
「うわっ、危なっ!よせ、敵じゃない俺は人間だ」
そう言うも聞こえてないのか包丁を振り回す。
俺はすっと交わし手を握ると慌てたような顔でこっちを見るセレナがいた。
「ここにいたのか、もう安心していい、俺が守る」
「ナ、ナイア・・・無事だったんだね、良かった、良かったよ」
セレナは不安が晴れて気が抜けたのか床に座り込み目の下を拭う。
「人を助けたと聞いたよ、優しいんだなセレナは。大丈夫か立てるか?」
座り込むセレナに手を差し伸べ持ち上げる。
「うん、ありがとう。私なんてナイアに比べれば大したことはしてないわ、それよりナイア。いち早く病院に連れてきたい人がいるの」
「分かった、通してくれ」
俺はセレナの案内でお腹を膨らませた女性とそれを見守る男性のいる部屋の中へ入った。
鼻筋の高く黒艶のある長髪をした綺麗な女性、間違いなくエリーさん本人だった。
そして横にいる男性はロイドさん、12年後の未来ではかなりやすれていたが、目の前のロイドさんは引き締まった良い顔をしている。
無事で良かった。
俺は安堵のため息をつく。
「お腹の具合は大丈夫ですか?」
「ええ。今のところは大丈夫・・・けど、いつ痛みが襲ってくるかは分からないわ」
「医者を呼びたいんだが、人の気配はないし、魔物が外をうろついている、どうにかならないか?」
「んぅ・・・外を見て回りましたが、城に避難した者以外を見てません。全滅したとも思えないので何らかの異変がこの国に起きています」
「そんな・・・」と気を落とす3人。無理もない。
ここはネアトゥルフで間違いないが、眠らされた後から奇妙な事が立て続けに起きている。
1つ目は、楽器が恐らく魔物に変貌を遂げてる点。
2つ目は、天候の突然の変化。
3つ目は、ホール内にいた人しかこの国にはいない点。
確実に眠らされて異変が起きている。
「眠らされて・・・起きた現象。眠ることで起きること・・・夢?夢を見てるのか?」
「夢?何を言ってるの、ここは現実に決まって・・・えっ?待って、分からない」
もしこれが夢を見てると言うなら納得がいくんだ。
なにせ現実で今の様な出来事が起きているなら、演奏前に気付けない訳ない。
そして来客者の中には常連だっている。
彼らが何度も演奏を聞きに行ってるなら同じ惨劇を繰り返し目撃していることになる。
普通なら二度と行かずに噂を流すが、それがない。つまりは魔物に殺されることで記憶を失い夢から目覚めるんじゃないか?
「少し試したいことがあります。エリーさん、手伝って貰えますか?」
「えっ、私ですか?」
ロイドさんと顔を見合せ、困惑しつつも承諾してくれた。
「これから貴方には魔物の標的になってもらいます」
「ちょっと何を言ってるの!?」
「君正気か?彼女は妊婦で奴らから逃げる体力なんてないんだぞ!」
セレナとロイドさんは正気の沙汰じゃないと声を漏らすが、意図を理解したのかエリーさんだけは冷静だった。
もちろん、死なせるつもりは無い。早速だが始めるとしよう。