第12話 果たされた目的
「起きてください ナイア様」
「んっ・・・はっ!」
何度やるんだこのくだり。と言わんばかりに目を覚ます。
俺はまたしても誰かに起こされてしまったのか・・・不覚。
「さぁナイア様、皆のいる場所へ参りましょ」
「ああ。そうしよう」
俺達は城までの道のりを歩いた。
城に近づくにつれて心地の良い音色が耳に流れ込んでくる。
なんだろ・・・気持ちが落ち着くこの感じ・・・言葉に言い表せない。
「再会が楽しみだ・・・」
俺は音のなる方へと向かった。
そこには避難者達の真ん中で演奏をしているセレナの姿があった。
その姿は華麗で人々の目を釘付けにしていた。
セレナ横にはエリーさん、ロイドさんが寄り添いながら聴き入っている。
「綺麗だな・・・」
セレナは俺に気付くと演奏をやめ、俺の元に駆け寄ってきた。彼女の表情には安堵と喜びがあった。
「ナイアーー!無事で良かった・・・心配したんだよ」
「心配かけてすまない、元気そうでなによりだ」
「ナイアー・・・」
セレナは俺の名を呼び抱きついてきた。
は、恥ずかしい・・・けど、悪くない
「もう安心していい、分かってると思うが奴らはもう俺達に危害は加えない」
「それは良かったわ。本当にナイアって凄い人、ほんとに尊敬してる」
俺達が再会を喜んでいるとエリーさんから声が掛かった。
「無事だったのね、ナイアくん。本当に何も起きなくて良かった」
「覚えくれてたんですね、名前」
「当たり前よ、私の・・・いや私達の恩人だからね」
エリーさんはそう言って膨らんだお腹をさする。
「そうだよナイアくん。エリーを助けてくれたこと本当に感謝している!」
「良いですよロイドさん、これが仕事みたいなことろがありますから」
「そうなのか」
ロイドさんは笑みを浮かべながらそう言う。
「ところでだがナイアくん、君に1つ頼みがある」
「頼みですか?」
「エリーと相談して決めたんだが、お腹の子の名前、恩人である君に付けて欲しいんだ」
「えっ、俺?いいんですか?俺なんかが付けてしまって」
驚きのあまり聞き返してしまったが、付けて良いと言うなら付けるし、付ける名も決まっている。
「レイ。それが良いと相応しいと思います」
「おぉ!やっぱりそうですか、俺もレイって名前が良いと推していたんですよ」
俺なんかが勝手に未来に誕生する者の名を改変する訳にはいかない。
2人も喜んでいるし、これで良かったんだと思う。
「さてフェルディナント、セレナに演奏のレクチャーをしてくれ」
「はっ、お任せあれ」
セレナは演奏経験があるらしいが魔物が作った楽器や楽曲を初見で奏でると言うのは、一般人がいきなり 魔導書で魔法を扱うのと同じだ。
でもフェルディナントからの指南があれば、才能と経験を活かせば無理なんかじゃない・・・。
「セレナ!、やる遂げる覚悟はあるか・・・」
セレナは少し顔を傾け 憂い顔とした表情をしている。
それはセレナには責任感や他者への思いやりが あるたからだ。
でも、わざわざ演奏をする必要性は無い、記憶を残したまま現実に戻りたいなら 自殺以外に演奏するしか他ない。
けど、今回の出来事を忘れて何事もなく生活したいのなら使徒に殺させた方が良い。
俺的にも避難者達が夢見の者達を忘れてくれのは好都合だから 、この際殺しても良いと考えてる。
「無理なら 夢の使徒を使って避難者を切る・・・」
俺は冷酷な言葉を放った。
避難者は驚き 殺さないでと嘆く・・・しかし、死ねばその恐怖は無くなるからわざわざ無理をする必要はない、あとはセレナ次第だ・・・。
すると ようやくセレナは顔をあげた、その瞳には数滴の涙がこぼれていた。
「私、ここで演奏しなきゃ ナイアーとの出会いを忘れて、もう二度と会えない気がするのっ!・・・それは嫌、だから私・・・私やってみせる!!」
最初こそ弱々しい声だったが 最後の主張を力強かった。
その表情は不安を吹っ切った 凛とした眼差しをして
いる。
「分かった、セレナなら出来ると信じてる・・・フェルディナント、演奏の準備を始めてくれ!」
「はっ! お前達 始めるぞっ!」
フェルディナントは俺の合図で指揮をとる。
すると指先から音符の数々が宙へと舞い、1つの楽譜を形成する。
そして夢見の使徒達は何処からともなく集まり、次々と合体し自らの身体でピアノを作ったのだ。
楽器と楽器は既に揃っていた・・・だから奴らは演奏者を求めていたのか。
「さて、他の避難者達に聞きたい!お前らはどうする?ここでの記憶を忘れたいか ?それとも彼女の演奏を聞くか?」
避難の貴族達は互いに顔を見合せ、話し合い、1つの答えたを出した。
「ここでの体験は酷く、すぐにでも忘れたい・・・しかし、先程の演奏見事だった!ぜひ貴女の演奏を聴かせて欲しい!」
それは思っても見ない反応だった。
あの蹴落とし合いをしていた貴族連中が、演奏を聞きたいと申しでた。
きっとセレナの奏でる音色が美しく、恐怖や不安を打ち消したのだろう・・・でなければ貴族がこんな事は言わない。
「皆さん・・・」
セレナは口に手をあて、小さく笑みを浮かべた。
そして 観衆に一礼し、セレナは椅子にまたがりピアノの弦に指を添える。
「すぅーーーっ」
最後に深く深呼吸をし、演奏を始めた。
初めて引く楽曲なのにミスする事無く丁寧に演奏する。
頑張れ、セレナは誰をも魅力させる夢の演奏者だ!
君なら必ず運命を奏られる・・・。
俺はその様子をじっと眺めた。
もはやこの場にいる全ての者は、その様子を・・・奏でた音色を、心から楽しみ、喜び、深い眠りへと着いていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「ナイアー 起きてください、朝ですよ」
俺はセレナの声で目を覚ました。
陽の光が窓から薄暗いホール内に流れ込み 眠りについていた人々を優しい照らしていた。
やがて次々に目を覚まし、皆、帰るべき場所へと向かっていく。
「良い夢は見れましたか?」
「あぁ、今度は夢じゃなく現実で見たいな・・・」
「ふふっ、その夢は叶いますよ・・・必ず!」
セレナは俺の手を掴みにこっこりと微笑んだ。
もはや、演奏じゃなくてその笑顔だけでも十分なくらいだ・・・。
「ははっ、そうだなっ!」
この夢見の事件1連はこれでもう解決だな、そう思っているとフェルディナントが俺の前に姿を現した。
「我々はこれから人々にセレナ様が奏でられた美しき運命を世界に広めていきたいと思います。これは我々とセレナ様を巡り合わせてくれたナイアー様へのプレゼントです、受け取って下さい」
フェルディナントは演奏ホールへの無期限参加チケットをくれた。
俺はこれを機に音楽が好きになったと思う、これ悪くない代物だ。
「これでいつでも おいでなさってください!心よりお待ちしております」
「ありがとう 大切にしまっておく」
「良かったね、ナイアー!」
あぁ良かった。これで事件は解決された。この世界は少しばかり名残惜しが結果を確認しに行くか・・・。
「セレナ、そろそろ親が起きる頃なんじゃないか? きっと心配してるだろう家に帰って方が良い・・・」
「大丈夫だよ、もう少しくらいいたって」
「いや早く帰った方が良い」
セレナは俺の言葉に顔をしかめる。俺はそんなセレナに冷たく言い放った後、ホールの出口に向かった。
俺って本当にバカだな・・・感情を移入すればこういう状況になることは予想できたのに。
一緒に苦難を乗り越えたからこそ、はいじゃあね、と別れるのが心苦しい。
それでも俺は未来の人間、同じ時間軸に2人もナイアはいらない。
「俺は遠い異国の国からたまたま仕事で来ていたんだ。もう滞在期間は過ぎた、もう帰らないといけないんだ」
「そんな・・・これからもっと仲良くなれると思ったのに・・・」
「俺もそう思った。けど叶わないみたいだ・・・それでも俺はセレナに会うことができて本当に良かったと思っている。それじゃまたな・・」
俺は階段を数段登った所で最後に人目見ようと後ろを振り向いた。
その時のセレナの表情は嬉しいようで何処か悲しげな ・・・そんな顔をしていた。
ホールを出た俺は、人目のつかない路地につくと再び’’タイムワープ’’と強く念じ、依頼者の待つ12年後の未来、俺にとっての現実へと帰還した。