第11話 首謀者フェルディナントとの対峙
俺は豪快に扉をあけた。
部屋のありとあらゆる場所に楽器の飾られ、その楽屋の中心に目的の人物はいる。
「お前が夢見の使徒を配下とする現夢見の指揮者か」
「何を言ってるのですかお客様・・・私はただ演奏者で・・・夢見の使徒など存じておりません、既に演奏は終了致しましたのでお帰り願います」
指揮者はあくまでも自分が普通の人間かの様にしらを切る。
この状況で一般人を装うとは、あのポンコツとは違うな・・・けど俺は騙される様な奴じゃやい、わ
「1度目覚めてから ここへ来ているから夢の世界の奴らも黒ローブ達のことも知っている」
「はぁ・・・お客様は何を言ってなさって・・・」
俺がそう言うと反論をするが直ぐに黙り込んでしまい、 しばらくして反応を見せた。
「・・・出来損ないの部下を持つと困りますねぇー」
男は人間の姿からみるみる変化し、夢見の使徒より2まわりくらい大きく、身体中に鋭利な刃物を生やしている。
今回のボスだからこれくらいはなってもらわないと歯応えがない。
けど、俺には待たせている人がいるからどの道早くケリを付ける。
「グラァーーーーーーーーッ!」
使徒のボスは野太い雄叫びを上げながら、指先を鎌に変化させ、俺に襲いかかってきた。
「【 魔閃 雷切 】!!」
バギィーーーーンッ!
俺は雷切で攻撃を受け止めた。
「演奏者と言うもんだから楽器を武器に戦うと思ったんだがな」
「バカを言うな、演奏家たるもの楽器を傷つけるなど許されない」
こいつらにはこいつらなりの志やプライドがあるのか・・・。
にしてもバカでかい図体にしては素早い動きをするんだな、それにその鎌・・・ただの刀鍛冶が作った刀じゃ耐えきれないな。
「人間風情が、このまま押し潰してやるーーー!」
演奏者は両手で押し潰そうとしてきたが、正々堂々受け止めるつもりはない。
ここで1つとっておきを披露するとしよう。
「【混色ノ魔ノ手】!!」
地面に魔法陣が展開され、そこから無数の黒腕が演奏者に掴みかかる。
これは母から教わった闇魔術。
魔力を持つ対象を魔法陣に入れることで発動する魔の手・・・これに捕まれば魔力尽きて死ぬまで出ることは出来ない。
「こ、これしきのこと・・・ぐぬぬっ」
今までの俺なら発動後数秒でヘロヘロだったが、 観測者にスキルを与えられてか妙に力がみなぎっている。
・・・それにしても全くとんだ恐ろしい魔法だな。
「さぁ、お前の持っている目覚めの楽器と楽曲を渡してもらおうか」
「こ、断る・・・我々にとって・・・楽器と楽曲は命そのもの・・・渡してたまるか」
お前らにとって楽器と楽曲は命か・・・けどこっちも多くの命と責任を背負ってる、だから引き下がる訳にはいかない。
でも夢の世界から皆を助けるのは楽器と楽曲なしには不可能だから、こいつを説得するしか道はない。
「なんでお前はその楽器と楽曲を大切にしているんだ?」
「我々にとって音楽家の巨匠こそ主神、他の魔物達と支配地域を争うには巨匠の音楽がなければ戦えない」
魔物同士でも宗教や主神の違いで争いがあるのか・・・。
「でも音楽だけでは他の魔物とは戦えないんじゃないか?だから眠らせることで夢の中と言う無防備状態で人間を襲うしかないんだろ?」
「ぐぬぬぬっ、お前ら人間に何が分かる」
「実はお前に提案がある、俺と友好を結ばないか?そうすればお前の好きな音楽は守ってやるし、他の魔物達には手出しをさせない」
「に、人間の戯言など信用出来るか・・・ぐぬぬぬっ」
身体が萎んできている、そろそろ耐え凌ぐのも限界な頃だ、早く決断しなければ命はない。
「お前が死ねば、お前らの崇め奉る巨匠の芸術は世に広まることなく、衰退するぞ・・・俺にだって大切な家族がいたが魔物によって奪われた。これ以上 どこかで誰が大切なものを失うのは見なくはない」
少しだけだが俺に対する眼差しが変わった気がする。
「どうだ聞き入れてはくれないか?もちろんお前らが今後とも人間を襲わないと言う条約のもとな」
指揮者は少しの間を開けて答える。
「・・・わ、分かった・・・約束は守ってもらうぞ」
「それがいい、適正な判断だ」
俺は魔法を解除した。俺が奴に伝えられる最後のひと押しは届いたみたいだ、これで夢の中の人々を殺さずに済む。
こいつらは魔物だが、大事なものを守るという強い志を持っている。
ただ人を襲ったと言うことは紛れもない罪だ・・・それに関しては要相談だ。
「ほら手を出せ、握手だ」
「・・・分かった」
俺は奴の手を握った。すると眩い光と共に手の甲に紋章が刻まれた。
・・・なんだこれ?
友好を結ぶつもりで握手したが、これは眷属にしたっぽいな。
「俺の名はナイア、この紋章は友好の証と思っていてくれ」
「感謝しますナイア様、これでより高みを目指せます」
見た目は魔物から人間の姿に戻っている。しかも以前より、顔立ちが良くなっているし、言葉遣いも丁寧になっている・・・これは驚きだ。
眷属になったと言うことは主である俺に逆らうはおろか 命令なしに人を襲うことも無い。
「フェルディナント、楽器と楽曲を用意してくれるか?」
「なんと!私の名前を存じて頂けるなんて幸福です !全ては私が夢の世界にいけば整いますので、心配無用です」
「そうか・・・質問があるんだが、お前は運命を奏でられるか?」
「私は指揮者、あの名曲を奏でることは出来ません、あれを奏でられるのは夢の演奏者だけです・・・」
それなら楽器と楽曲があっても意味無いじゃないか、けど微かながら希望はある。
「それに関しては問題ない、あっちには弾ける可能性のある女性がいる」
これはセレナにかけるしかないな・・・。
俺はフェルディナントの力を借り聞いて再び夢の世界へと向かった。