プロローグ
──死ね、死ね、死ねーっ、破滅させてやるぅぅぅぅ!
そう煮えたぎる様な怒りを表したの奴が初めてだった。
時を戻せるならやり直したい、報復したい。
チャンスが欲しい、力をくれ、神でもいい・・・邪神でもだ、俺にもう一度抗うチャンスをくれ!
この時初めて宛にもしてこなかった神にお願いをした。
どうせ叶うはずのない、どうしてだろう・・・。
☆ ☆
「ダンジョンにも行かないのに、この森で修行をする意味はあるの?」
歳を重ねるたびに疑問を抱くようになった。
「いつも言ってるだろう、魔物は身近な所に潜み人を狂わせると・・・」
父は決まってこの一言を俺に言い続けた。
両親は冒険者が主流となる国 イーガンで数少ない探索者をしている。
そんな両親から生まれた俺は探索者になるべく幼い頃から、ここイーガンの森でスキルと技を取得し磨いてきた。
なかでも俺は魔法の扱いをみっちり叩き込まれた。
どうやら俺は特異体質のようで聖と闇と呼ばれる対を成す魔力を体内に宿しているようで、それは類を見ない逸材だと父は言った。
だからこそ両親は熱心に教育してきたのだと思う。
「かなり上達してきたな・・・」
「はい・・・」
父は元聖騎士団長で母は元闇魔術師と言うことで日別に訓練をし、今日は父が担当していた。
「そろそろ日が暮れる、今日はここまでとする」
「はい・・・」
明日は母さんとか・・・。
この日々はいつまで続くんだ。そういった疑問が修行あとに脳裏をよぎる。
周囲の者達は冒険者となりダンジョンに潜っては戦果を称え盛り上がっている。
俺だって自身の力をダンジョンの魔物で試してみたいのに両親は認めてくれない。
「はぁ・・・」
小さく溜め息をつき、森の景色を眺めた。
すると見たことの無い動物がおり、目を奪われた。
見た目は愛らしく、小さな黒い瞳が特徴的だった。
俺は幼い時から、この森の生態系を見てきたから殆どの動物を知ってる・・・けと、こんなのは初めて見た。
発見の嬉しさについつい口角が上がる。
俺は音を立てないようにと、リュックと腰に携えた剣を置き、動物との距離を慎重に縮めて行った・・・が動物は瞬時に反応し草むらに逃げ込む。
「逃がさないぞっ」
俺は草の揺れ音を頼りに追跡をした。すると見た事のない場所に出た。
・・・ここは何処だ、こんな場所は知らないぞ
そこには見たことのない祠があり、その謎の生き物は祠の中に姿を消した。
自ら中に入ってくれるなんて好都合だ。出口はこの扉らしかない。
「もう逃げられないぞ・・・」
俺は恐る恐る近づき、慎重に扉に手をかけた。その直後、
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーッ!
森が悲鳴をあげた。木々は揺れ、川の水面には波紋
が広がる。
まるで何がこの森に起こると言わんばかりの揺れだった。
「こ、これは一体・・・」
やがて徐々に雲が発生する。快晴だった空は曇天と変わり、森の頭上を覆い尽くした。
ここまで異様な天候の変化は見たことがない。確実に災難が起こると直感が脳をプッシュする。
「ナイアー何処だーー!いるなら返事をしろぉぉ!」
先に帰ったはずの父の声が聞こえた、異変に気付き助けに来ていたのだ。
(*****、貴様は ここで死ぬのだ・・・)
誰だ!?どこから話しかけてるんだ・・・まさか!
ふと空を見上げると 空が黒煙と炎雲で覆われている。
真っ赤に燃えた造形は悪魔の顔とも思えるほどに直視した者を震撼させ、俺の中の恐怖心を駆り立て戦慄させた。
「は、早く逃げないと行けないのに!」
しかし、それでも俺は動けずにいた、いや動けなかった。
これが恐怖と言うものなのか・・・生を受けて早15年、初めて死と言うのもを感じた。
俺ははただ呆然と立っていることしか出来なかった自分の弱さを呪った。
「ナイアー!!いるなら返事をしろっ!」
父の声がした。既に近くまで来ていたようだった。
そして目と目があった。
「父さん・・・それに母さんも・・・」
父の目はいつもり真剣で、何処か寂しい目をしていた。 母もその場におり、父と 同じ目で俺をみていた。
「ナイア・・・よく聞きなさい、もうじき この場はあの邪神によって滅ぼされ、世界は魔物の手によって秩序を失うだろう・・・やがて、探索者と呼ばれる者の存在は遠い昔の記憶となる」
「そ、そんな・・・」
嘘だと思いたいが、父は冗談を言う人ではない、これは紛れもない事実・・・。
「なら どうすれば!」
「答えは一つ、魔物の手によって最悪な運命を辿る人々を救うことだ・・・そうすれば、きっと運命は良き道へと辿りつく」
父との会話のさだか空は更に闇へと歪む。
そして激しい轟音の直後、煌めく炎球が放たれ、天から落ちた1本の光の糸に垂れるかの様にゆっくりと落下する。
見かねた母は結界を張り、俺を包み込んだ。 父も手をかざし 魔力を注ぎ込む。
「何してんの! 父さん、母さんも早く中にっ!」
「ナイアー、良い子に育ってくれてありがとう、貴方は私達の希望よ・・・」
「その通りだ!ナイアー、お前は私達の希望だ・・・」
2人の瞳からは光るものが流れていた。
「俺が・・・希望・・・」
両親は昔から真面目で厳しく、あまり褒められた経験はなかった、だから 希望と言ってくれたことは嬉しい・・・なのに、どうして涙が出てくるんだ。
発射直後の轟音のあと無音で炎球は落下し、気づいた時には寸前の所まで来ていた。
もはや両親も俺も・・・ましてや森も生まれ故郷さえも助からないのだと理解した。
炎球が地面に落ちる直前・・・
「ナイアーお前は探索者だ、魔物の手によって最悪な運命を辿る者達を助けてやってくれ」
それが父が俺に伝えた最後の言葉だった。
ドゴォーーーーーーーーーーーーーーーン!!
着弾とともに周囲は失っていた音を取り戻した。そして、たった数分に満たない出来事で俺の全ては消え去ったのだ。
☆ ☆
〈人よ目を覚ましなさい、再び起き上がる時が来ましたよ〉
「んぅ・・・ここは?てかお前は誰だ、どこから話しかけてるんだ!?おい、おーいっ!」
目を開けてみたが暗くて何も見えない。
耳を済ましてみたが静かで何も聞こえない。
臭いや手足の感覚さえも感じない。
五感がまったく機能していない。
故に何も感じない、はずなのに・・・何故か意志が伝わってくる。
お前は生前何を願ったのか、と。
何に抗い、誰に報復したいのか、と。
「そんなの決まってる、神だ!あの邪神に報復したい、そう願った!」
〈そうですか、素晴らしい志だと思いますよ。そんな素晴らしい貴方には素晴らしい贈り物を捧げたいと思います。どうぞ目を開けて下さい〉
目を開けて下さい、その囁きを聞いた直後、視界に奥行が生まれ色が宿る。
手足の感覚もあるし、なにより嗅覚が研ぎ澄まされているのか良い香りがする。
クンクンと香りに吊られ振り返ると、銀色のしなやかな髪を肩まで垂れ流した、ルビーの様な瞳をした女性がいた。
「そんなに良い香りがするかしら?別に香水とかは使ってないわよ」
「いや・・・えっと・・・貴方は?」
「私は観測者、それ以外の何者どもない。ここに貴方を呼んだのは力を授けるためよ」
「力・・・そうだ力だ、俺に力をくれ!俺は探索者として魔物を狩る役目があるんだ!1人前に認めて貰った期待に沿うんだ!」
感覚を取り戻したことで喜びの感情が芽生えたが、本来の俺の感情は怒りそのものだった。
「うん、うん、良い志ね。ではチャンスを貴方にプレゼントするわ」
観測者と名乗る者は魔法陣を展開し、陣は俺の体を頭から足元へと通過していく。
そして、どこからともなく力がみなぎってくる。とても高揚とした気分だった。
「私が貴方に授けたのは【改変者】。定められた運命に抗いたいと願う意志が起源となり貴方を選んだのよ」
「ありがとう感謝する。ところで1つ聞きたい、なぜ簡単に力をくれるんだ?能力は意志でも命だけは意志の力ではどうにもならないぞ」
観測者は予想外と少し驚いたのか、クスクスと笑って言う。
「あらっ復讐に囚われていると思ったら思った以上に冷静ね。そーねっ、貴方の冷静さに免じて答えてあげる・・・」
「・・・それはつまり?」
「貴方の全てを奪った『終焉の邪神』とは敵対しているの、だから貴方が奴に復讐したいと望むから力を与えた。それで十分?」
「ああ。十分だ、ありがとう」
「そう、それでは役目をしっかり果たしてね。私は終焉の邪神が先に人類を滅ぼすか、貴方が眷属もろとも奴を滅ぼすか、その様子を傍観させてもらうわ」
観測者は笑顔で「役目をしっかり果たしてね」と俺に強く念を押した後、薄らと身体が透明になっていく。
観測者が俺に与えられた役目。
言われずとも何となく分かった気がする。
観測者はきっと神様だから俺にスキル与えられた。
その目的は、神々を代わり狩ること。
狩る理由は自分を差し置いて復活しようとする者達への戒め。
俺は選んだのは恐らく、直接は手を下さず、復讐を誓う人間ごときに神が倒される構図の方が面白いから。
考え過ぎかもしれないが、観測者の不敵な笑みを見ると、そんな風にしか思えなかった。
やはり神は誰も信用出来ない。俺は俺のやるべきことだけをやる。
観測者の消失に伴い景観は移り変わる。
気付いた時には荒れ果てた大地に1人、ポツンと立たされていたのだった。
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