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NWKの魔窟  作者: ジェネラル雅
9/11

転換点

陰陽師の女が何かを唱えると、

目の前の手下たちが吹き飛ぶ。

紅虎(こうこ)だけが彼女の術を耐えたが、

彼はただの人間に、今まで自分が受けたことのない

強力な一撃を繰り出す力が

確かにあることに驚いていた。


自分に比べれば雑魚も同然だが、

決して弱くはない手下が一瞬にして

小さな人間の女にやられたが、

そんなことはどうでもよかったのだ。


紅虎はその女の凛とした佇まいと、

生まれて初めて出会った

自分に明確に敵対する存在に対して、

強い興味を持ったのだ。


紅虎「人間、よく聞け

この村には二度と手出ししねぇ」


陰陽師の女「…何が言いたい」


紅虎「勿論タダじゃねえ。

お前は俺について来い。拘束はしない。

望むものはできる限り差し出そう、

なんなら俺の首だってかまわねぇ」


陰陽師の女「嫌だと言ったら?」


紅虎「お前を生け捕りにする。

この村は全て焼き払い皆殺しにし、

そのまま人間界を征服していくところを

俺の隣で見せつける」


陰陽師の女「ふっ、お前にできるか?

…だが悪くない、乗ろうじゃないか」


紅虎「いい判断だ、人間」


陰陽師の女「だが二つ条件がある。

私のことは和華(わか)と呼べ。私の名だ。

そしてこの村以外も決して襲うな、

人間を故意に傷つけないと誓え。

そうでなければ私はお前を殺す」


紅虎「なるほど、芯のある女じゃねぇか。

どちらも呑もう。

お前はたった今からこちら側だ。」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




そうして妖星界へ和華を連れ込んだ後、

歴代屈指の棟梁となった彼は

自らの番を和華とした。

勿論妖星界は大騒ぎとなったが、

穏便に話し合いで済ませた。そう、穏便に。


そんな二人の間に生まれたのが紅華(くれは)なのだ。


異種族である紅虎との子である紅華の出産で、

和華は大きく傷ついた。

平静をを装いつつも、

緩やかに死へと向かう和華の姿は

紅虎には見ていられなかった。


和華が衰弱しても、

人間界へ攻め込むようなことはしなかった。


配下の不満を抑えるためによりよい長となり、

人間界に手を出させないために手回しを怠らず、

彼は和華のために、完璧な長になろうとした。


しかし、完璧な長になるには

よい父親からは程遠い生活をせねばならなかった。

自分にも、眠る時間が増える母にも

ほとんど時間を使わない。

紅華はそんな父親に幼いながらも嫌悪感を抱く。

紅虎もそんな娘にどう接すれば良いかわからなかった。


やがて和華がこの世を去ると、

いよいよ紅華の暴走を止める者がいなくなった。


和華に会う前の自分のように野望を持ち、

自らの私兵を持つようになった娘を

止めることはできなかった。


自分が娘に対して

どうしたいのか定まらないが為に

次期棟梁としての指名もできなかった。


自分はどこで間違えたのか。

紅虎はその終わりの見えない思考に沈んでいく。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




カルロン「ヒャッホウゥゥゥ、

ぶぅぅぅっちぎるぜぇぇぇぇ!!!」


そろそろ黒みつが起きてくる頃だろうと考え、

さらにギアチェンジをして

パトカーを引き離そうとするカルロン達。

なんとか追いつけていると感じていた警官たちは

更にスピードをあげる自転車に絶望する。


伝説の自転車暴走族として

大々的にメディアに取り上げられ、

その後長い間街の七不思議の一つとして

語り継がれることになるが、それはまた別のこと。


シェアハウスとは反対側の

街の出口まで突っ走り、

大回りで帰ろうとする二人と一塊。


カルロン「ひゃーーー楽しかったね~」


かいる「いい朝だった」


しかし11時過ぎである。


ミョウ「道が楽になった…」


道は現在緩やかなカーブであり、

時たま車とすれ違う程度で

のんびりとした時間が続いていた。




続いていた。




カルロン「うわぁ、

トラックとすれ違うとくっさいねぇ」


かいる「ひどい匂いだ…?

…あ、あのでかいトラックは…!」


カルロン「え?あれ…」


振り返ると、先ほどすれ違ったばかりのトラックが

急に横向きになったかと思うと、

こちらを追いかける形で発進する。

そのトラックは、今朝ガレージで見たばかりの

NWK帝国の兵器だった。


機動力の高いタイヤ、

環境をぶち壊してやるという

強い意志が見える多数の排気口、

派手に光る紫色の車体、

なによりも正面に書かれた『殺☆人』と言う文字…


一同「サイコパスタ号だ!!!!」


カルロン「逃げろ!」


露骨に速度を上げるカルロン。

それでも、あっという間にトラックとの差は縮まり…


恐ろしい速度で柵を壊しながら、

そのおぞましいトラックは

自転車の後ろにピッタリと付いて追いかけてくる。


かいる「ギャアアアアアア!」


カルロン「急げ!全力で漕げ!!!」


黒みつ「ほらほらー早く逃げないとー」


窓を開けながらそう言い放つ黒みつ。


このトラックは“サイコパスタ号”。

この帝国の特にイかれた

サイコパスタ組のために作られた殺人トラックだ。


今逃げようと必死なカルロンも

このサイコパスタ号の設計に携わっている。


ミョウ「やばいヤダヤダヤダ助けて」


黒みつ「まず一人目なー」


容赦ない死刑宣告。

加速したトラックは、

引き摺られているミョウバンを

いとも簡単に轢いてしまう。


カルロン「くそっ!」


かいる「助けてえええええ」


黒みつ「どーちーらーにーしーよーうーかーな」


かいる「誘われただけなんで!!!自分悪くない!!!」


カルロン「おい待てお前やめろって」


黒みつ「二人目ェ!」


二度目の加速。

潰されたのはかいるだった。


カルロン「い、生きてる…?」


黒みつ「嘘つきはダメですねー八重樫(やえがし)さん、

でも…」


冷徹な目でカルロンを見つめる黒みつ。

その目線が背中に刺さり、

思わず振り向いてしまったカルロンは

にっこりと笑う紙の隙間から覗くその目と

視線が合ってしまった。


黒みつ「首謀者は…

カルロン、お前だろ?」


カルロン「ちくしy」


三度目の加速。

トラックは、何事もなかったかのように

家へと向かい始めた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




ここはサイコパスタ号車内。

帝国シェアハウスのメンバーと

無味無臭が揃っている。

運転は黒みつから変わってAだ。


ふら「サイクリング三銃士を連れてきたよ。」


黒みつ「そのネタ何回やるつもりだ」


ふら「えーじゃあサイクリング三銃士に

反省を促すダンス」


黒みつ「頭イカれちゃってるの?」


ふざけるふらくたると黒みつの目の前にあるのは

二人分の肉塊とその他諸々だ。


カルロン(その他諸々)「ちょっとー!

なにも縛ることねーじゃん!」


黒みつ「黙れ主犯」


確かに殺人トラックで轢かれたカルロンは、

ロープでぐるぐる巻きにされ転がされているが

ピンピンしている。

人幻に我々の常識は通用しないというのは

もうわかっていただけただろうか。


ふら「はいはいそこの肉塊達蘇生するからどけ」


いつも通り蘇生し、いつも通り気絶するふらくたる。

この蘇生術、仕組みこそ複雑ではないため

魔術をある程度勉強していれば使えるのだが、

魔力保有量などの関係で実際に蘇生させられる者は

この世に数える程しかいない。

こんな貴重な魔術がこうも雑に使われていると知ったら

世界中の魔術研究者達が泣くことだろう。


黒みつ「で、言い訳は?」


仁王立ちした黒みつの前で正座させられるのは

町内爆走サイクリングをしでかし、

殺され、生き返った三人組だ。

勿論全員ロープで縛られている。


たった今生き返ったばかりのかいるとミョウバンは

下を向いたまま震えているのだが、

カルロンはふてぶてしく正面から言い放った。


カルロン「むしゃくしゃしてもないけどやった。

反省も後悔もしていない。」


それを聞いた黒みつは言い放つ。


黒みつ「カルロン、かいる、

一週間飯作り担当ね」


カルロン「そんな殺生な!!」


かいる「お慈悲をぉぉぉ!!!」


二人は揃って命乞いを始めるが、

黒みつは態度を変えて縋り付いてきた

カルロンを蹴り飛ばす始末だ。


ミョウ「あ、あの僕は…」


黒みつ「うーん、

アスファルトといちゃついてろ」


ミョウ「えっ、ちょま、

僕被害者!被害者!!うわあああぁぁぁぁ…」


黒みつは恐る恐る聞いたミョウバンを掴み、

そのまま窓から放り投げる。

更に速いスピードで排気ガスに包まれ、

再び引きずられるミョウバンの

悲痛な叫び声が響き渡っていた…




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




A「まだ時間あるね」


運転席からそう言ったのはAだ。

その隣にいたサソリが

地図をめくりながらさらに重ねる。


サソリ「寄り道してドライブとか?

自然多くて楽しそうだけど」


いゆ~り「虫とかいそうでいいね、

黒みつが嫌がりそうで」


黒みつ「いゆ~りさ~~~ん???」


いゆ~り「わはは」


黒みつ「まぁそれはいいんだけど…うーん…」


晴天の空の下、

楽しそうなその企画を黒みつが渋る理由。

それは足元でキラキラと

目を輝かせているカルロンのせいだ。

やらかしたカルロンが

喜ぶようなことはしたくないと渋る。


カルロン「行こうよー--!!」


黒みつ「っておいバカルロン!!!」


人外形態に移行して小さくなり、

ロープを抜け出して飛び跳ねるカルロン。

当然怒る黒みつ。


黒みつ「食事当番期間延長にすんぞ」


カルロン「ワタシヲシバッテ」


いゆ〜り「うわ急にMに目覚めた」


無無「ショッピングー-----!!」


黒みつ「え?あー…うんそうでしたね、はい。

今から行くか」


カルロン「そんなー--------!!!!!」


黒みつ(おい、スマホくらい見ろ)


カルロン(え?あ!

よっしゃー--------!!!!!!)


強制参加肝試しのことを知り、

不審なガッツポーズをとるカルロン。

しかし無味無臭は気が付かない。

愚カルロン(おろかるろん)VS愚味愚臭といったところだろうか。


当初の予定では

夕方から神社へ行くつもりだったが、

上げて落とす作戦にそっと変更された。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




爆速のサイコパスタ号は、10分ほどで

近くのショッピングモールに到着する。


黒みつ「フラチャンおきようね」


ふら「帰りたい」


無無「ショッッッピ~~~ン!!」


この後どこへ連れていかれるかも知らずに

はしゃいでいる無味無臭を、

他のメンバーは鼻で笑っていた。


いゆ~り「帰りは何時?」


黒みつ「そうだな…

7時くらいにフードコート集合でいいか」


無無「今だいたい12時かぁ…

どこも混んでるだろうし

どっかでちょっとだけ時間潰してく?」


いゆ~り「いいね」


ふら「流石ショッピングモール三銃士」


無無「黙れ」


真昼時、レストランやフードコートは

どこへ行っても大抵混み合っている。

普段ショッピングモールにほとんど行かないタイプの帝国民なら

ここで昼食を選び、待たされることになっていただろうが、

頻繁に行く彼らは違う。


かいる「おそらく2年前の地獄を見てきた者達だ

面構えが違う」


無無「地獄ってなんだよ」


ふら「あれは13年前のことだった…」


無無「2年前じゃなかったのかよ」


カルロン「どこ行きますん?」


サソリ「本屋行こう」


無無「新刊んんんんんん!!!!!」


黒みつ「黙れ愚味愚臭」


九人がわちゃわちゃと

ショッピングモールを練り歩く。

これが一般人の会話なら楽しそうだと思うだけだが

彼らはNWK帝国の国民。

何も危険な発言はしていないのに

どういうわけか、すれ違う客に

不安の種をばら撒いていた。


いゆ~り「無味無臭、例のブツを発見!

いつもの場所にありました!」


無無「早っ!!いゆ~りパイセンまじパイセン」


黒みつ「あああああああああ

クソったれ脳味噌野郎うううううううううううう

あまってこの作品随分買ってなかったな買っとこ」


カルロン「無味無臭に

黙れって言ってたのだれだっけね」


黒みつ「黙れ食事当番バカルロン」


サソリ「オーーーーーーーーーーーーーーン

ケモコーナー狭」


A「話す能力で90%が決まる…

聞く能力で90%が決まる…

損得で考える人は人生を損している…」


本屋で時間を潰していると

あっという間に時は流れ、

既に1時を回ろうとしていた。


黒みつ「うお1時じゃん

おい買うならレジもってけ、

引き上げるぞー」


一同「りょうかーい」


かいる「でも、昼どこ行くか決めてなくない?」


黒みつ「あ゛」


かいる「焼肉行こうぜ!」


黒みつ「昼から焼肉かよ、やるなら晩飯にしとけ」


ミョウ「僕的にははどこでも…」


ふら「養殖された洋食をよう食したいと思っています」


無無「何言ってんだお前」


いゆ~り「イタリアン!」


大人数でかつほとんどが我の強い者ばかり。

それぞれの主張がぶつかり合うため、

話し合いで決まる気配はない。


A「もうそこで良くない?」


黒みつ「だな、考えるのめんどい」


かいる「僕らの意見ガン無視系っすか!?」


Aが一番近くにあったレストランを指差し、

それに黒みつが同意したことによって

全員の主張はなかったことになり、

行き先が決定されてしまったのだった。


適当に決められた

レストランに入り、

大人数の席に案内される。


ふら「おいカルロン

メニュー独り占めすんなや」


カルロン「いちごパフェとーチョコレートパフェとー

抹茶パフェとー期間限定メロンパフェとー

プリンとかチョコムースもあるからそれも頼んでー…」


ミョウ「ランチ頼もうよ…」


無無「ふら、僕もう決まったで見る?」


ふら「お、ありがと」


いゆ~り「サソリはどれ?いつもの骨なしチキン?」


サソリ「なんか違う意味に聞こえる()」


かいる「見て!メニューに黒みついる」


黒みつ「黙れ」


メニューは三つ用意されたが、

九人ではなかなか時間がかかる。

同じメニューを複数人で見る者から

完全に独り占めする者まで。

帝国民それぞれの個性が滲み出る。


黒みつ「お前ら決まったかー」


一同「OKー」


黒みつが呼び出しボタンを押してすぐ、

店員がやってきて注文を聞く。


黒みつ「ハンバーグステーキの

ライス大盛一つ…と…」


カルロン「デザート全種!」


店員「全種!?か、かしこまりました…?」


ふら「唐揚げ定食ひとつ」


A「あ、ティラミスひとつ」


かいる「サイコロステーキとフライドポテト一つずつー」


ふら「せんぱい…」


かいる「絶対言うと思った」


無無「デミグラスチーズオムライスひとつ…」


カルロン「を、オムライス抜きで!」


無無「は??????????????

あ…無視してください…普通のオムライスっす…」


ミョウ「あとはドリンクバーを九人分で」


店員「かしこまりました、ご注文確認させていただきます、

ハンバーグステーキのライス大盛をおひとつ…」


店員が長い長い注文を復唱し終え、

「大丈夫です」の一言を勝ち取って厨房へと戻れば、

従業員たちは彼女を称賛する声や

生還を神に感謝する声を厨房に響かせつつ

今から始まる地獄に備えることを忘れはしなかった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




黒みつ「飯くるまで暇だな」


無無「はーいゲームしよう!

僕は何を考えているでしょう!」


黒みつ「知るかボケ」


かいる「ごめんスマホあるからパス」


カルロン「知らん」


無無「ウメガメのスープの派生形じゃん!!

ちょっとは慈悲あってもよくない!?」


サソリ「宇宙猫」


無無「いやはいかいいえで

答えられる質問してくんない???」


ふら「はいはい、付き合ったる

それは実在しますか?」


無無「ふらあああああ!!!!!!」


ふら「気安く呼ぶな」


無無「あっ…もういいです…」


明らかに危険な集団がしびれを切らす前に、と

大急ぎで作られた料理は、

そう時間をかけずに運ばれてきた。


カルロン「スウィ~ツ三昧~」


ふら「発音腹立つ~~~~

ふほぁぁぁ唐揚げうまいいいいいいいいぃぃぃ」


無無「お前も腹立つぞ」


黒みつ「…少ねぇな

追加で注文するか」


サソリ「う…腹いっぱいだ…

いゆ~り残り食べて…」


いゆ~り「リタイアがはやい!」


黒みつ「胃袋クソ雑魚サソリは塩でも食ってろ

あ、すいませーんラーメンとネギトロ丼と~あとカレー追加で」


いゆ~り「そんなに食べられるの?」


黒みつ「お前が食うんだぞ」


いゆ~り「ふぁ~い?」


かいる「誰か誕生日のやついないかな~

乱入してぇな」


A「トラウマ確定じゃん」


帝国民の賑やかな外食風景は

飲み会のテンションにそっくりだった。

しかし恐ろしいことに全員酒は入っていない。シラフだ。


そんなテンションを維持したまま十数分後、

食害をかまされたいゆ~りが撃沈した残りを

丁度今食べ終わった黒みつが口を開く。


黒みつ「全員もういいか?

そろそろ次行こうと思うけど」


一同「OK」


帝国民が店を出ていくのを見て、

店員たちはほっと胸をなでおろす。

地獄から解放された彼らは、

一時間にも満たない短い時間で

驚きの成長ぶりを見せ、

あらゆるタイプの迷惑客に負けないレストランが出来上がった。


帝国付近で店を開くには、覚悟が必要なのだ。

無自覚の襲撃という試練に耐えた店は強くなり、

そうでなかった店は潰れる。

そのため、帝国付近の店はどこも

クオリティが高いといわれているらしい。

当の嵐は、そんなことも知らずにショッピングを再開した。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




商品棚をスカスカにするほど買い占めたり

ベンチを占領してゲームに勤しんだりと

散々迷惑をかけた団体が自動ドアをくぐり、

駐車場へと歩いていく。


黒みつ「さーて本命と行きますか」


無無「…ん?」


半日ほどショッピングを楽しみ、

トラックに乗り込んだ帝国民たち。

空は絵に描いたような赤紫。

計画を実行に移すのに

もってこいの時間帯になっていた。


黒みつ「じゃ、"あそこ"行こうか」


A「了解」


無無「…?ちょ、おかしくね?」


黒みつの意味深な言い方と

明らかに家から遠ざかる方角へ進む車に

やっと、今日初めて不信感を覚える無味無臭。




し か し も う 遅 い 。




辿り着いたのはショッピングモールから

少しした場所の山にある神社だ。


麓で車を止め、二人組で山に登り、

先に頂上で待っているミョウバンに

結晶をもらって帰ってくるという肝試しをする。

そのため、ミョウバンが登頂するまでは

車で全員待機ということになっている。


無無「だましたなぁぁぁぁ!!!!」


黒みつ「最初はショッピングにも行くつもりなかったぞ

計画変更して行ったんだしまだいい方だろ」


無無「え…お前…信じられん」


無味無臭は調子に乗って本やグッズを購入した。

彼がこれを持って徒歩で帰るのはまず無理だっただろう。

黒みつたちからすれば好都合だ。

車内で無味無臭が嘆いているところで

全員のスマホの通知音が鳴る。

ミョウバンからの連絡だ。


ミョウ[準備完了]


満を持して、強制参加肝試しが始まる。

ペアは『カルロンとふらくたる』『黒みつと無味無臭』

『かいるとA』『サソリといゆ~り』の四組。

この順番で一組ずつ進んでいく。


無味無臭を除く全員が

にこにことして無味無臭を外へ放り出す。


無無「クライ…コワイ…」


情けない声をあげる無味無臭。

しかし慈悲はない。


A「よし、着いたよー」


一つだけ古びた電灯がある寂れた駐車場。

ここから森へ進むのだ。


黒みつ「さ、順番にどうぞ」


そのGOサインを合図に

全員が懐中電灯を右手に車外へと出る。

もちろん、無味無臭は持ってきていない。


無無「お゛う゛ち゛帰゛り゛た゛い゛ー-----!!!!」


半分泣きかけの声で叫ぶが、

戻れないことはもう悟っている。

というか戻らせてくれないことを。

腹をくくった無味無臭が

ぴょこぴょことはねたアホ毛を引っ張ると、

彼のお面が明るく光りだした。

夜道を歩くのにはあと少し足りないくらいの強さの

作業をするのに丁度いい明るさの光が

無味無臭の全面を照らす。


黒みつ「チッ、準備いいじゃねぇか

お前だけ灯りなしのつもりだったのに」


無無「常備しててよかった…」


駐車場の周りにも小さい祠が点在し、

そこかしこに貼られているお札が不気味さを醸し出している。


無無「なんとなく想像はついてるけど…

なにすんの」


一同「肝試し」


無無「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」


黒みつ「班はさっき送った通り、

最初にふらとカル、次に俺とそこの愚、

Aとかいる、最後にサソリといゆ~りな」


一同「りょー」


黒みつ「とりあえず最初の二人行ってこい」


カルロン「はーい!」


ふら「うーい」


最初に向かうカルロンとふらくたるが

途中で叫び声を聞かせ

その後黒みつと無味無臭が出発し

Aとかいるが近道を使って先回りし、四人でお化け役を。

仕上げにサソリといゆ~り、合流したミョウバンが

折り返しで盛大に驚かす。

周到に練られた計画が今、始まろうとしていた。

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