追いかけっこ
菊池「は…」
確実な手応え。
ここ最近で一番の射撃だった。
ミョウ「菊池!?気づかれてるよ!!」
菊池「そんなことあるか…!?」
非殺傷弾とはいえ、
スナイパーライフルから放たれた弾丸の速度は相当だ。
どういうわけかそれを掴み取った男が、
確かにそこにいて、こちらを見ているのだ。
「小蝿が迷い込んだか」
ミョウ「に、逃げるよ菊池!」
菊池「お、おぅ…」
ミョウバンはあっけにとられて動かない菊池を
強く揺さぶるが、もう遅かった。
「ふっ!」
掛け声と共に跳び上がった大男は、
二人が覗いていた穴を掴むと
懸垂の要領で天井へ上がってきた。
ミョウ「嘘!?ここそんな低くないのに!」
焦りながらも、時間稼ぎのために
結晶の壁を作るミョウバン。
「ふん、脆弱な」
ミョウ「早く!!」
菊池「!せ、せやな逃げんと!」
ようやく我に返った菊池の手を引き、
橋まで全速力で走り出すミョウバン。
だが、その後ろで…
「はっ!」
咄嗟に作ったものとはいえ、
それなりの強度があるはずの壁結晶は
たった一振りの拳で叩き潰される。
黒スーツにスキンヘッド。
黒く焼けた肌にやけに似合うサングラスの奥の目は
並大抵のものではない殺意に満ち溢れており、
何故雑魚ばかりの焼肉教にいるのか、
全く理解できない。
ミョウ「いけっ!!」
結晶の棘を数本飛ばし足止めを試みるミョウバン。
だが、先程の銃弾と同じように軽々と掴み取られてしまう。
「ちょこまかと逃げるな、ガキ共」
また先程のような大ジャンプをした男は、
ミョウバン達との差を一気に縮め、そのまま着地した。
のだが…
「っ!?」
菊池「うぉあああああああああ!!!」
ミョウ「えええええっ!!!」
運悪く男が着地したのは橋の上。
結晶を難なく壊す男の力では、
意図せずとも砕いてしまった。
ミョウ「い゛っっっっ…」
菊池「ぐっ…」
ミョウバンはまともに受け身を取れずに
右手を骨折し、涙目になりながら激痛に悶えている。
なんとか受け身を取れた菊池も、
衝撃を完全に殺せたわけではなく、
決して少なくはないダメージを負っていた。
「まったく、手こずらせやがって」
そう言って近づいてきたのは、
二人と同じ高さから落ちたにも関わらず、
全くの無傷、とはいかないものの、
平気そうな顔をした大男だ。
倒れているミョウバンの頭を片手で掴み、そのまま宙へ持ち上げる。
ミョウバン「う…」
菊池「ミョウバン!!」
「ハハハ!取引と行こうか、ガキンチョ」
菊池「…なんだよ」
「投降しろ。そうすればお前らの命は助けてやる」
菊池「…断る」
「あぁ?」
菊池「こーゆーことやっっっっっっっ!!!」
言うや否や仕込み刀を抜き、大男に飛びかかる。
虚を突かれた大男は、それでも片腕の一撃で菊池の攻撃を防ぐ。
しかし、それと同時に
まるでマジックのように
菊池の手に現れたもう一本の刀が
ミョウバンを掴んでいる方の手を切断した。
…はずだった。
菊池「え…」
菊池の腕前は相当なものであり、彼の持つ刀も上物だ。
人間の腕どころか、大岩も斬れるはずの刃は、
骨にも届かずに食い止められてしまっていた。
驚きのあまり固まってしまった菊池の顔面に一撃。
菊池「がぁっ…」
もろに食らった菊池は
軽く数メートルは吹っ飛び、
壁にぶつかって倒れる。
「チッ…無駄な抵抗を…お前は殺してこのガキは貰っていくぞ」
菊池「く…そ…」
反撃しようにも指の一本も動かない。
完全に、敗北したのだ。
「おう、気分はどうだ?最悪だろうなぁ?」
ミョウ「う゛っ…」
ミョウバンにも抵抗できるほどの力は残っておらず、
呻くことしかできなかった。
その時、バチバチと音をたてる衝撃波が男を襲った。
「っ!?」
菊池が作った切れ込みを正確に狙った電撃は、
今度こそ大男の腕を切断した。
男の手首ごと落下するミョウバン。
その姿も、次の瞬間掻き消えた。
「くそっ、何だっ!?」
黒みつ「悪いけど、うちのミョウバンを虐めていいのは身内だけなんだわ」
そこには、フランベルジュに電気を纏わせた黒みつが立っていた。
その横には、一瞬でミョウバンを回収していたAや、
帰りを待てずに車を飛び出したかいるが並んでいる。
A「どれだけヘマしたらこうなるの…」
黒みつ「変態の方も頼んだ」
A「人命救助隊かな」
かいる「にしては血まみれだねーいいなーずるいなー」
そう言いながらかいるは両手にナイフを構え、
汚部屋にいた時の動きからは考えられないほどの速さで
大男に突撃していく。
それに合わせて黒みつも電撃で援護し、
お互いがお互いの隙をカバーしあっていた。
「ふんっ!」
かいる「ぎゃっ」
二人がかりでの攻撃にも動じず、
残った片腕で受け止めた男は
半身になって戦闘態勢をとり、油断せずに二人を観察する。
黒みつ「くそ、コイツ強ぇ…」
かいる「こんな奴がいるとか
聞いてないんですけどーーー!」
A「菊池回収!準備できてるからね!」
「…ふん」
しばらくの間睨み合っていたが、
大男はため息をつくとまた大きく跳び上がり、
一瞬でどこかへと行ってしまった。
A「…撤退準備してたのに向こうから引いてくれたね」
黒みつ「あー、アイツは確実に危ないな…」
かいる「そうだねー…」
ひとまず危機が去ると、全員の目が一斉に
ぐったりとしてAに抱えられる侵入部隊の二人の方へ向いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
黒みつ「で、言い訳は?」
警察も到着し、
死体を1箇所に集める作業を横目にみながら
腕組みをして仁王立ちする黒みつと、
その後ろに控えるメンバーに睨まれながら
ミョウバンと菊池は正座をさせられていた。
警官たちは満身創痍でも容赦なく怒られる彼らを
可哀そうだとは思ったが、下手に口を出せば
物理的に痛い目をみることはわかっていたので
誰も止めようとはしない。
メンバーのほとんどが返り血に塗れており、
凄まじくシュールかつ不気味な光景だ。
菊池「い、いやほら、廃ビルにも敵がおって
手こずったんよ、わかるやろ?なぁ?」
黒みつ「ミョウバン?」
ミョウ「いや無視できた…」
菊池「やけど一応間に合ったんで…」
黒みつ「そうか、間に合ってた。なるほどなるほど。
じゃあなんで原瑞稀の野郎を仕留めたのは
いゆ~りさんなんでしょうかね~菊池さん?」
満面の笑顔で…とは言っても紙の面のせいで元々なのだが、
ともかく黒みつが指さした先では
カルロンといゆ~りが言い争っていた。
カルロン「絶対うちの方の獲物だったじゃん!」
いゆ~り「でも、カルロンは非殺傷持ってないんだから、
素手で気絶させられる私が適任だったんだよ!」
サソリ「あの…平和に…」
カルロン「拷問器具で痛めつけて失神させれば…!」
いゆ~り「それめっちゃ時間かかるじゃん!」
サソリ「オーーーーーーーーーーーーーーン」
菊池が狙撃し損なった後、
結局カルロンのバフの効果で快進撃を見せた裏門部隊が
予定時間をとっくに過ぎているのに
その両足で立っている原を発見し、
殺さない程度にぶちのめすことにしたのだ。
原はいゆ~りに殴られて泡を吹いて気絶。
あっさりと捕まり、この抗争は終わったのだという。
黒みつ「で?外して?反撃を受けて?
侵入部隊全滅しそうになったと?」
菊池「外してへんから!
それに武装的に勝てんかったって、ゆるs」
黒みつ「菊池死刑」
ミョウバン「ま、まぁそんなこといわずn」
黒みつ「ミョウバンさーん?」
ミョウバン「ナンデモナイデス」
仁王立ちで淡々と叱るその様子は、
NWK帝国の女帝…というよりは、
NWK帝国の母の呼び名が相応しいものだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
警官「すみません、ふらくたる(仮)さん、
いつもの作業をお願いします」
ふら「えぇー…ホントにやんなきゃだめ?」
警官「いやぁあなた一回やらかしてるんですから…」
ふら「うるさい、私はNWK帝国民だぞ
警官のいう事なんか全然全く聞くに決まってるだろ」
警官「あのねぇ!やってもらわないと…あ、やるんですか」
今回、黒みつとAの無双のせいで
ほとんど戦闘していないふらくたる。
だが、そんな彼女の仕事は
ここからが本番と言ってもいいだろう。
パット見でも百人を軽く越えているとわかる死体の山。
ほとんどは損傷が激しく、肉塊と呼べるようなものも多かった。
確実にモザイクものだろう。
ふら「はぁ…いやだなぁ…やりたくないなぁ…」
そのグロテスクな死体の山の前で、
ふらくたるは膝跨き、祈り始める。
眠れる者よ 目を覚ませ
生への執着 まだあるか
生きたいと叫び 抗えば
私のこの手 差し出そう
彼女が詠唱を始めると、
組んだ両手から光が溢れだす。
その血まみれの風景とは真逆の、
まるで大切な人に抱擁されているような
暖かな雰囲気が周りを包み込む。
光は強く、大きくなり…
訂正しよう、暖かと言ったのは間違いだった。
例えるならそう、
大切な人が中指を立ててビンタをかましているような。
それは、死体撃ちも同然のビームだった。
ビームを撃ち切ると同時に倒れ込むふらくたるを
いゆ~りとサソリが慣れた様子で担いで車へ戻る。
彼女は大量の魔力を消費して疲れ果て、爆睡しているのだ。
いゆ~り「初見はビビったよねこれ」
サソリ「実際はふらくたる(眠)」
死体の山は光線によって光る肉片と化していたが、
しばらくすると光は止み、
そこには先程命を奪われた教徒たちが五体満足で、
かつ産まれたままの姿で山積みになっていた。
カルロン「今回も威勢のいい蘇生劇というか
蘇生撃でございまして~」
警官「一体どこであんな技覚えたんですかね?」
カルロン「子どもの頃習ったってさ」
かいる「英 才 教 育」
警官「親も親で何者なんですか…」
黒みつ「あぁ…天使パワーだとよ
じゃ、俺ら帰るから、後処理頼んだわ
菊池も適当に雑用させといてくれ」
自分がいいとこどりをする設計の計画を発案し、
さらに失敗して瀕死で救出されるという
完全なる戦犯な菊池は、
罰として警察たちの手伝いをすることになったのだ。
菊池「あ゛ーほんま、あかんってこれは…
こちとら怪我人やぞ…」
警官「ははは…まぁ、仕方ないっすよ
元気出してくださいって!
あ、おい!お前ら!
そこで待機していろ、もうすぐ車が来る!」
大量の全裸の教徒たちは、
何があったかわからずキョトンとしている。
無理もない。
彼らの最後の記憶は、手段は違えど
どれも殺されたところで終わっており、
恐怖と混乱の中目覚めたところだからだ。
やがてやってきた5台の移送用のバスに
全員を乗せた後、軽く現場の処理をし、
工場全域に立ち入り禁止の看板とテープを貼り終えた頃には
もう日が暮れて、空は既に赤紫色になっていた。
菊池「はぁ、なんで俺だけこんなことに…」
警官「ま、まぁまぁ、これで依頼完了なわけですし、
このあと少し飲みにいきましょう」
菊池「お、あんがとよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
菊池と警官が仕事を終えたのと同じ頃。
廃工場から離れた街中のビルの一室で、
先程菊池らと戦った大男がいた。
「失敗、したんですね?」
張り付いた笑顔が問い詰める。
しかし答えることはできない。
大男は頭を踏みつけられており、
ただ呻くことしかかなわなかった。
「あなたの力はその程度だったのですか?
ほんの数人を相手にするだけでしょう?
それだけ、たったそれだけだというのに!やはりあなたは不純だったようですね。そんなに無能では私たちの傍にいる価値などありませんよ?その使えない腕、いっそ無い方がよいのではないですか?ええ!そうですね!そうしてしまいましょう!」
人影は笑みを絶やさぬまま、
初めは問いただすように、
しかしだんだんとまくしたてるように。
そのまま無造作に剣を抜き、大男の腕を裂いていく。
大男「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっっ!!!」
決して弱くはない菊池とミョウバンに、
プレッシャーを与えるほどの威圧感を放っていた男が
今、絶叫している。
「幸せになりたいのでしょう?
私がこの手で修正してあげましょう!」
閉ざされた部屋から叫び声が漏れる。
大柄で屈強な戦士が、人影…少女によって
その剛腕を奪われていく。
血は飛び散り、骨に刃が当たる感覚がする。
数十分後、男の剛腕があった場所には、
その肌の色と体躯に合わない
白く細い腕が無理やりにつけられていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
黒みつ「かいる、その横のスーパー降りて」
かいる「な゛ん゛で゛ず゛っ゛と゛運゛転゛係゛な゛の゛」
カルロン「荷物持ちー起きろーぅ」
ミョウ「お…起きてます…」
車の中で、返り血がついた戦闘服から
それぞれジャージなどの服に着替えていた面々。
家に戻った後行われる
宴会に備えて買い出しに向かうのだ。
菊池がいないために運転係が続行しているかいると
死亡したチンピラを蘇生させた反動で気絶したふらくたる、
それを部屋に運ぶサソリと、何故かサソリとセットで
家に帰ることが許容されたいゆ~りは一度家に帰り、
黒みつ、カルロン、A、ミョウバンが買い出しに出ることになった。
カルロン「めんどいよー帰っていい?」
黒みつ「だめに決まってんだろ」
A「どうして?」
黒みつ「俺がサボりたいから」
一同「えぇ…」
かいる「もう着きまーす」
見えてきたのは巨大なスーパーマーケット。
NWK帝国御用達であり、
大量に買い物をすることからすっかり顔も覚えられている。
勿論、今回も爆買いにやってきたのだ。
黒みつ「っしゃ、行くぞ」
カルロン「あああああー---」
いゆ~り「いってらっしゃ~い」
ちこくした。