本命
なぜカレンダーの通知は仕事をしない?
菊池「ふぅ、ミョウバン、そろそろやな」
ミョウ「うん…緊張する…」
菊池「まぁいつも通りやしな!
…あのビルの屋上から隣へ侵入するで。
ビルはもう無人だから安心してな。
最上階まで行ったら、お前の結晶で工場の屋根まで行って
劣化やらなんやらで空いている穴から俺が
この非殺傷弾で教祖を狙撃して気絶、
残りの幹部を結晶化で一気に捕縛してやりゃ一瞬よ」
ミョウ「うん、わかった」
菊池「よし…かいるー、
適当に離れた場所で止めといてくれ」
かいる「はいはーい」
今度はしっかりと止まった車から降りた二人は、
音を立てないように忍び足でビルを登っていく。
しかし、経年劣化で脆くなっているビルの中では
至る所から軋む音が聞こえ、
音を抑える努力はほとんど無駄になっていた。
さらに厄介なことに…。
「そこで俺が言ってやったのよ、
音が鳴るおもちゃは楽しいでちゅね~って」
「お前なんでそこで煽るんだよwwww」
教徒たちの会話が聞こえ、顔を見合わせる。
菊池(やべ、殺るか?)
ミョウ(ここで手間取ったら間に合わなくならない…?)
菊池(大丈夫やろ!)
小声で相談をするも、初めからミョウバンの意見を
聞く気はほとんどなかったようだ。
自己解決した菊池は、
進行方向にいる教徒たちへと苦無を投げつける。
「うっ…」
「ぐぁ…」
教徒たちの首元には見事に凶器が刺さり、
僅かな呻き声だけを残して倒れた。
菊池「っしゃぁ!!!俺有能!!すぎる!!」
ミョウ「え、ちょ菊池、声がでk」
「誰だ!?っおい!しっかりしろ!!」
「誰かいるぞ!撃て!」
菊池の声に反応してやってきた教徒たちによる
ピストルの銃声が鳴り響く。
菊池「うお、あっぶねぇ」
ミョウ「ヒェッ」
何発か擦りながら、大慌てで階段の裏へと隠れる二人。
ミョウ「菊池!何してるの!
なんでそんな大声だすの!?」
菊池「くっそ、どうする…」
複数人が駆けつけてしまったので、
リロードを挟んでも教徒たちの銃撃は止まない。
菊池「すまん、頼めるか?」
ミョウ「わかった。でも時間足りる?
最悪の場合黒みつたちに…」
菊池「…まぁ、ほら、よく言うやろ、
バレなきゃ犯罪じゃないって…
見つかる前に片づけるしかないわ」
ミョウ「えぇ…」
菊池「ま、まあ早いとこ頼むわ」
菊池の戦犯行為の尻拭いでしかないこの状況に
眉間にシワを寄せながらも準備を始めるミョウバン。
ミョウ「…よし、行けるよ」
菊池「おっしゃあ!」
「な、なんだ!」
ミョウバンが両手を目の前へと突き出すと、
黒い結晶が室内を満たす。
真っ黒な結晶に飲み込まれた3人の教徒は
既に息をしていない
「なんだっ!?おい!大丈夫か!」
菊池「ダメなんとちゃいます」
理解の追いつかない状況に混乱しながらも、
仲間を助けようとした教徒の隣には既に菊池が立っていた。
咄嗟に銃を構えるも、素人の動きより菊池の刀の方が遥かに速かった。
首を飛ばされた教徒は何もわからずに絶命する。
「うわぁあああ!」
飛ばされた生首に錯乱した教徒の一人が
持っていた拳銃を菊池に向かって発砲する。
がむしゃらに、一発、二発、三発…
しかし、その場所に菊池はいない。
菊池「りごじゅくんのピストル教室ー」
「なっ!?」
後ろに現れた菊池に背中から手を回されたと思うと、
手を握られ、初めて銃を手にしたときに
サポートされたように、銃口を仲間に向けられる。
菊池「一緒に言おうな、“うんこ”」
最悪な掛け声に合わせて仲間が撃ち抜かれていく。
二発は脳天に命中し即死したが、
最後の一発は致命傷には至らない。
菊池「外してしまいましたね
これはちんこです」
「黙れっ!死ねっっ!この外道めが!!!!」
他の教徒が菊池に向かって発砲するが、
またしても菊池そこにおらず、
その弾は先ほどまで操られていた教徒の命を奪った。
菊池「おうおう、味方に向かってそれは
ひどいんとちゃいますかね?えぇ?」
そう言いつつ背後からまた一閃。
背中から大量に出血しながらまた一つ、死体が増えていく。
「くそっ!!!」
その近くにいた教徒も発砲する。
この部屋の中では一番の腕の持ち主だった彼の弾は
全て、正確に菊池の頭を狙っていた。
菊池はその全てを血に濡れた刀で弾く。
12発の銃声と、12回の剣戟音が止んだ時、
不気味な静寂が部屋を包み込んでいた。
数秒後、ようやく教徒が口を開く。
「…バケモンが」
菊池「ほい、さんきゅ」
とどめの一撃。恐怖を与えはしていたが、
苦しませることはしない。
またも即死だった。
菊池「あぶね、
忘れるとこやったわ、気をつけんとな」
そう言いながら先程銃弾を受け、
壁に寄りかかっている男に近づく菊池。
菊池「苦しませてすまんかったわ、
楽にしたるでな」
「ま、まt」
喉元に一突き。
それを抜けば、大量の血が噴き出した。
この部屋にはもう、生きた教徒は一人もいない。
菊池「よっしゃ、ええ感じに始末できたんとちゃいます?」
最後の教徒に突き刺した短刀の血を拭き取りながら
自信満々に言うが…
ミョウ「何いい仕事終えた風に言ってんの!?
間に合わないよこれじゃ!!」
菊池「っっっっべぇ!!!そうやん急がな」
二人はもう音を気にすることもなく…
むしろ気にすることもできないほど
急いで階段を登って行ったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ミョウ「せー…のっ!」
掛け声と共にビルから廃工場へ結晶の橋ができる。
菊池「おし、はよ行くで!」
ミョウ「誰のせいで急いでると思ってんの…」
ここからのミョウバンの仕事は護衛だ。
屋根の上から狙い撃つ菊池を、万が一のことから守る。
ミョウ「不安だなぁ…」
菊池「まぁそういうなって、
“あの曜日”よかマシやろからな」
ミョウ「うーーん」
そんな話をしつつ、
あらかじめ調べておいたポイントについた二人。
ミョウ(あのチャラいの?)
菊池(そう、あの比較的若めの男が
焼肉教の教祖、原瑞稀やで)
ミョウ(チャラいね)
菊池(おん、チャラいな)
バレないように小声で話す二人。
ターゲットである原瑞稀は、
赤と金に染めた髪と身体中に身につけた装飾品が目立つ。
二人が言うように見るからにチャラい人物だ。
突然話しかけられたなら、思わず
「うわ」とでも言ってしまいそうな程に派手な見た目だが、
そのおかげでとても狙いやすく好都合だ。
菊池(こっからやと微妙やな…こうか?)
小さく独り言を言いながら、
最後の位置調整をして、タイミングを待つ。
何を話してるかはわからないが、
正門側から走って来た教徒の報告を受け、数人の護衛が離れた。
菊池(よし、今や!)
菊池の指が動き、銃弾が教祖の頭へと一直線に撃ち出される。
しかし、それは隣にいた護衛によって
掴み取られてしまった。