陽動部隊
かいる「近づいてきたよー、準備できた?」
黒みつ「おっえ…八つ当たり運転するなよかいる…
戦えなくなったらどうすんだ…ほら寝てるやつ起きろー」
ふら「頭いてぇ…」
サソリ「こっちは準備OKだよ」
カルロン「わいの運転より酷くなかったですかぬぇ」
黒みつ「おらミョウバンいつまで寝てんだはよ起きろ」
ミョウ「ヤメテ…ヤメテ…」
ミョウバンの脇腹をつま先でつついて起こし、
残りのメンバーも準備を始める。
菊池「お、見えてきたな」
備え付けの双眼鏡のレンズの先に見えてきた目的地、
町外れの廃工場を観察する。
菊池「基本は鉄パイプとかやな…
うわ、刀とか拳銃なんか持ってる奴もおるわ」
かいる「少しは手応えありそうな奴いそう?」
カルロン「楽しみだ…ふへへへへへ」
黒みつ「いや落ち着け」
菊池「よし、そろそろ到着か…
ポイントについたら少し減速してもらうで、
まず正門部隊から飛び降りてくれ。
裏門部隊はまたタイミングが来たら言うでそこで頼むわ。
ミョウバンは俺と一緒に潜入するぞ。
どうせ敵は雑魚ばっかやろうけど、
数だけは多いし気を付けつつ暴れてきてくれな」
一同「了解」
かいる「クソ…まぁやるか…」
いよいよ仕事が始まると、
それまでの雰囲気とは打って変わって全員の顔が引き締まる。
メンバーの大半は戦うことが嫌いではない。
戦闘は彼女らの娯楽である。
正門部隊は戦闘態勢を取りながらドアに手をかけた。
菊池「かいる!減速!」
黒みつ「っっっっっっっっしゃぁ!行くぞ!!!」
黒みつが勢いよくドアを開け、
まだ減速しきれていない車から飛び降りた。
「もうバレていたのか!?」
「気をつけろ!くるぞ!」
「構えろ!ガキだからといって油断はするな!」
怪しげな車がいると工場の外に出ていた教徒たち。
黒みつの登場で完全に戦闘態勢を取るが、
波打つ大剣、フランベルジュの一振りで絶命してしまう。
黒みつは返り血を浴びたまま動きは全く止まらず、
その体のどこに秘められているのかわからない力で振りかぶり
目にも止まらない速さで次々と教徒たちを薙ぎ倒していく。
工場側からこちらへ銃を向け始めた教徒に気が付くと、
ベルトに装備していたバッテリーから電気を操る。
音を立てて光る剣を一文字に振ると、剣に纏った電気が
まるでビームのように空を切り、風を切り、
そして人間を切り刻む。
次から次へとこちらに殺意を向ける教徒を、
数の暴力などお構いなしに一人で葬り続ける黒みつは、
教徒に猛烈なプレッシャーを感じさせていた。
黒みつ「さぁさぁ、満を持して!アイツのご登場だ!」
調子の上がってきた黒みつが手を空に掲げると…
A「ストップストップストップ。
黒みつ、今回はソレの出番じゃない」
ふら「おい私らの分まで殺るな」
予定通りのタイミングで減速した車から飛び降りた二人は、
ほんの少しの時間で黒みつが
ほとんど殲滅してしまったことに文句を垂れながらも
まだ生き残っている者や、工場から駆けつける者を警戒する。
ふらくたるは素早く黒みつの後ろへと回り込み、
手を胸の前にかざして呪いの準備を始める。
ふら「黒みつ、ちゃんと守れよ」
黒みつ「さぁ?自分でどうにかしろよ」
A「黒みつ、やりすぎは禁物だからね」
そう言いながらAは両手に曲刀を構えてと走り出すと
コンテナの後ろに隠れていた教徒たちを一気にを切り刻んだ。
黒みつ「おい不意打ちのつもりか?遅すぎるな!」
A「!」
Aの真横を黒みつの真っ直ぐな電撃が通ると、
影から弾を装填しようとしていた教徒が
血しぶきをあげ、真っ二つになる。
A「…ありがと」
気が付けなかったことに不満を感じ、口を尖らせるA。
黒みつ「危うく死ぬところだっただろうが、気をつけろよ」
A「わかったわかった…
ちょ、わかったってば、腹をつつくな」
戦場であるにも関わらず微笑ましいやり取りを見せつける二人。
なんとも平和な光景だ、
彼女らが返り血で真っ赤になっていなければ。
黒みつ「さて、ひとまず片付いたかな。
おいふらー、終わったぞー」
ふら「え?出番なし?今準備終わったんだけど」
黒みつ「お前の呪い時間かかりすぎなんだよ、全部殺っちまったぞ」
ふら「はぁぁぁ?呪うぞ?」
A「いやその状態でそのセリフは洒落にならないから…」
血に染まった廃工場で雑談を始めた正門部隊。
しかしその影から…
「クソガキ共!死にやがれ!」
なかなかの手練れだったのか、
三人の気が緩んでいたからか、
誰もその気配に気が付けなかった。
現れた残党はAに向かって鉄パイプを投げつける。
A「わっ」
予想外の出来事に反応しきれず、Aは避けることで精一杯だった。
足がもつれてバランスを崩したAを支えようと、黒みつが動く。
その一瞬の、しかし大きな隙を狙って男は拳銃を取り出す。
ふら「うるせええええ!!!!!!!!!!!!!」
折角呪いの準備をするだけしたのに無駄になってしまい、
腹を立てていたふらくたるが
その手に纏った赤黒い炎を投げつけた。
その炎は仲間である二人を素通りし、
男に到達するとふっと消える。
呪いによる幻であり、熱さも感じない炎。
それがもたらす効果は特殊だ。
簡単に言えばバフ、デバフ。
任意の効果をもたらし、確率でそれを引き起こす。
炎が触れた瞬間、男は引き金に手をかけていた…
「っ!?あ゛っ!?
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっっっっ!!!!!!!!」
銃声の後、悲鳴を上げたのは教徒だった。
確かに黒みつに向けられていた銃口は、
いつの間にか男の方を向いていたのだ。
音よりも速く自らの体に打ち込まれた銃弾に
訳が分からず悲鳴を上げるのも遅れていた彼は、
痛みに悶え苦しみ、うずくまっている。
A「…また守られた!ムカつく!」
そんな彼をAは苛立ちを一切隠すことなく、
曲刀で何度も斬りつけていた。
黒みつ「っナイスだふら!今回の呪いは何の効果にしてたんだ?」
ふら「今回のは相手が多いだろうと思って
失敗を誘発させる呪いにしてた
まぁ、大人数用に練ってた呪いだったから
かなり痛いポカになってくれたね。…いろんな意味で?」
黒みつ「なるほどな、助かったわ、サンキュ」
ふら「グミ一袋でいいよ」
黒みつ「おいお礼をねだるな」
黒みつとAは、「うるさい」と叫んだ
ふらくたるの方がうるさかったなどと思っていたが
正門攻略はうまくいっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
菊池「裏門部隊、そろそろやぞ」
かいる「はいはい減速減速」
いゆ~り「頑張ろっか~」
サソリ「了解」
カルロン「よーし!」
ミョウ「お気をつけて…」
黒みつ達をおろしてから数分後。
進行方向にいた教徒に撃たれながらも
無視して進む一行は、裏門へと到着する。
菊池「よし行け!」
カルロン「命令するな~!!!!」
門を守っていた教徒たちが正門部隊の襲撃により
混乱しているのを確認した菊池がゴーサインを出し、
喜々として叫びながらカルロンが飛び出す。
カルロン「今回はどれにしようかな~!!」
カルロンの背中が、まるでクローゼットのように開き
中からはおどろおどろしい見た目の拷問器具が姿を現す。
「っ来たな…!」
カルロン「爪はがし!爪はがしにしよう!
うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいwwwwwwww」
テンションに見合わない発言で
背中からいくつかの拷問器具を取り出すと、
カルロンは警戒態勢をとる教徒たちに向かって投げ、
怯んだところに近付いて簡単な拷問を始めた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!
や゛め゛ろ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!!!」
カルロン「愉快愉快!!!!!フゥハハハハ!!!!」
喜んで爪をはがし、棘を刺し、
心を恐怖に染め上げる少女、のようなものは、
彼がどれだけ叫ぼうと、許しを乞おうと、
絶命するまではその手を止めなかった。
サソリ「減速っつってもわりと速いな…当たり前だけど()」
いゆ~り「後ろつっかえてるよー早くー」
サソリ「sorry」
飛び出したカルロンから少し遅れて
二人も車から飛び出した。のだが…
7月の人。それは怨念の存在であり、重量はたったの2㎏。
いゆ~り「あーーーーっああああああっあっああああああーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
サソリ「what???????????」
先に飛び出したサソリが振り向くと、
いゆ~りが速度に耐え切れず転げ回っていた。
サソリ「いゆ~りいいいいいいいいいいいいいいいっっっっっっっ!!!!」
カルロン「えええええ何やってんの!?」
別の教徒をターゲットにして
拷問を楽しんでいたカルロンも、
これには手を止めてしまった。
ちなみに、真っ先に飛び降りたカルロンは5㎏である。
カルロンには拷問器具が詰まっていることもあるだろうが、
いゆ~りが今事故を起こしているのは単なる運動不足や
タイミングの悪さの方も大きな原因の一つだろう。
「っ今だ!!!」
カルロンの攻撃を受けて完全に「殺される」と確信していたため
いきなりできたあまりにも大きすぎる隙を狙って教徒たちが襲い掛かる。
かいる「まったく、不貞腐れてたワイに出番をくれるなんて…
いゆ~りちゃんは優しいね!」
いゆ~り「あああああああっあっあっあああああーーーーーーーーーっ」
かいる「アクセル全開いいいいいいい!!!!!!!!!!」
転がるいゆ~りに気を取られているカルロンに向かって
攻撃を仕掛けようとした教徒たちに、タイヤが蹴りを入れた。
かいる「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」
ミョウ「ヨカッタデスネ、タノシソウデナニヨリデス」
菊池「尻 が 痛 て え」
直接の戦闘ではないにしろ、
ようやく出番が来たと大喜びするかいる。
当然人を轢いているので車体は大きく揺れ、
気を付けないと舌を噛みそうになる。
サソリ「はいキャッチ!!!」
いゆ~り「ああああああああありがとうサソリ
この恩は次の7月まで忘れない!!!」
サソリ「思ったより短い!!!
いやでもそんなもんか!!!」
カルロン「ぽまえら全員ナイスすぎ!!助かった!!」
立て直した裏門部隊は攻撃を再開する。
カルロン「それじゃいくぞ!」
そう言ったカルロンはルーレットを召喚し、回し始める。
カルロン「ルーレットタイァァァイム!!
今回は~?知覚速度上昇!レディーゴー!!」
カルロンのルーレットは、味方にランダムなバフを付与する。
カルロンからの恩恵を受けた二人は、
それぞれの武器を構えた。
サソリ「いゆ~りの仇!」
いゆ~り「私死んでない!」
そもそも教徒たちはまだいゆ~りに攻撃を仕掛けていないが、
ここにツッコミ担当はいないので
それが指摘されることはなかった。
いゆ~り「遅い遅い!!わーはははは」
サソリ「明日は筋肉痛コースですねわかります()」
いゆ~りは、滅茶苦茶な刀の持ち方で刀を教徒にぶつけまわる。
そんな振りでは刃が通っているはずもないのに
教徒たちは次々と倒れていく。
それは軽く腹を叩いただけで肋骨を折れるほどの
いゆ~りの怪力のせいだ。
サソリはいゆ~りの後ろについて、
マチェーテを振り回し、
自分といゆ~りに向かってくる敵を薙ぎ倒している。
いゆ~りは、おそらく知覚速度上昇の効果があろうとなかろうと
後ろから自分に向けられた殺意に気付けていたが、
それを気にも留めず
ただ目の前の敵を殲滅することに集中していた。
それは背中を預けても大丈夫だという、
二人の信頼関係から成り立つものだった。
カルロン「うわー、なんか熱い友情見せつけられてる気分…
孤独な心に…刺さる…う゛っ…
リア充なんて…リア充なんて爆発しろーー!!!!!」
いゆ~り「非リアです」
サソリ「非リアです」
カルロンは教徒が特に集まっている場所へと走り出す。
先ほどから自分の仲間に対して拷問をする、
少女であろう者が突然
こちらに向かってくるのだから、教徒たちは当然、逃げようとする。
しかし知覚速度が上昇した帝国民からは逃げられるはずがない。
カルロン「どーーーーん!!!!!!!!!!」
笑顔で駆け寄るカルロンが教徒たちのもとへ辿り着くと同時に、
大きな音を立てて大爆発が起きる。
いゆ~り「今朝のドラ目覚ましテロより爆音!」
サソリ「爆発音より爆音のドラあったら怖いけどね()」
血の雨と、肉片が落下する音が長い間裏門に響く。
カルロンによる自爆テロだ。
カルロン「体おぶち壊れしましたわー」
サソリ「石でもお食べになってください」
カルロン「お、こんなところに腕がある、まずそー
うわまっっっっっっず!!!!!!!!!!!」
いゆ~り「当たり前じゃん…」
粉々になったカルロンの体は、
そこらに落ちているものを口にすると次第に元の形へと戻っていく。
そのあまりにも絶望的な状況から、
自らの口に銃を向ける者まで現れるほどに
裏門部隊の襲撃は無慈悲で、残酷なものだった。