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NWKの魔窟  作者: ジェネラル雅
11/11

耐久戦

カルロン「さ~て!来週のルーレットさんは!?

攻撃タイプちゃん出てくれ~~~!!!」


警戒する小鬼含む全員に見守られ、

ルーレットはクルクルと回る。


カッカッカッカッ カッ カッ


少しずつ間隔が開く針の音が

静かな森に響き渡っていた。


カッ カッ   カッ


『防御力上昇』


カルロン「なんでやあああああああ!!!!」


ふら「あ゛あ゛ゴミカスゥゥゥ!!死ねェェェ!!」


二人の怒りの叫びに小鬼がビクりと体を震わせる。

アタッカーが復活するこの場で防御力が上昇しても、

破壊されるまでの時間が延びるだけでそこまでの恩恵はない。

なにより、無味無臭がここに来てしまう前に

さっさとコトを片付けたい彼女たちにとって

長期戦化は非常にマズいのだ。


ふら「ま、まぁ私を守ってくれると考えれば…いや微妙だな…」


カルロン「日頃の行いが悪かったとか…?

いやそれはないなあ゛あ゛あ゛あ゛!!」


戦場で、こんなにも隙を晒しながら

文句を垂れ流しながら突っ立っている敵を

攻撃しない者などいるのだろうか?

警戒状態を解いた小鬼は

握っていたこん棒を振り上げ、カルロンに殴りかかる。

それは練度が低くぎこちない、まさに雑兵の一撃。

しかし威力だけは高かった。

それは防御力上昇の効果も凌ぐ威力だったようで、

カルロンはまるで割れた陶器のように

空っぽの頭の内を晒し、その場に倒れ込んだ。


ふら「わぎゃーーー!!

なんてこった!ケルロンが殺されちゃった!」


ふら「…ッスー……この人でなし!!!」


ふらくたるお得意のインターネットミーム芸は、

掛け合いをする相手がおらず一人芝居と化す。

相手に通じないネタを披露するな、とよく言われる彼女だが、

今回の相手は恐らく言語すら通じていない。

そもそもこの場で芸を披露すること自体がおかしいのだが。


小鬼「ギェイァ…!!」


敵を一人始末した小鬼は、当然次の標的に目を向ける。

全く攻撃を当てることなく一瞬で撃沈した

アタッカー(今日の戦犯)に怒りを覚えつつ、

今置かれている状況が自分のピンチであることを

実際に肌で感じたふらくたるは身震いする。


ふら「と…冬虫夏草アタッーーーーク!!!!」


小鬼「ギャッ!?…?……!ギアアアア゛ァ゛ッ!?」


一体どこに冬虫夏草要素があったのかは謎だが、

ふらくたるは会敵したときから準備していた呪いを咄嗟に発動させる。

今回彼女が発動させたのは『転倒させる呪い』。

名前も付けられていないほどの技だが、

ふらくたる(仮)呪い使用率ランキング(黒糖調べ)の

上位に君臨し続ける、非常に汎用性の高い呪いだ。

すぐさま防御態勢をとって様子を伺うも、

全くダメージを受けていないと気づいて雄叫びを上げながら

一歩を踏み出した小鬼の目に飛び込んできた景色は地面だった。


ふら「うわうわうわうわ天才やばカルロン起きろクソ死刑」


何が起きたのか分からない様子で突っ伏している小鬼を横目に

流れるような死刑宣告をしたふらくたる。

ふざけているよう(平常運転)に見えるが、

命の危機を感じて普通に軽度のパニックを起こし、

ハイになっているだけである。


帝国で生活する中で何度も戦場に送られていれば判断力は磨かれていくだろうが、

優秀な前衛(バーサーカー共)が守ってくれる姫プ中心の彼女が

命の危機を感じることはまずない。

そんな彼女が敵と接触しかけるのは非常事態なのである。


ふら「…おい起きろってカスロン」


カルロン「…」


いつまでも倒れている仲間を心配するどころか蹴っているふらくたる。

突っ伏したモンスター、死んだ少女、その死体を蹴る少女。

どう考えても異様な光景だ。

カルロンが動かない間に小鬼は状況を飲みこみ始めたようで、

立ち上がると再び襲い掛かってくる。が…


カルロン「隙あり!!!」


小鬼「ギャアアアアア!!!!!」


かなり重い一撃には見えた小鬼の一撃だったが、

あの程度の打撃は日常茶飯事とまではいかずとも、しばしば帝国で見られる。

たとえカルロンが人間であったとしても、

こんな帝国で殴り殴られ拷問し合うような

サイコパスタの一員を担っているに彼女とっては

致命傷たるものではなかっただったろう。

割れた頭の破片をボロボロ崩壊させながら復活した敵を見た小鬼は、

本能的な恐怖で二人から距離を取った。


カルロン「いやー頭カチ割れるかと思ったわ!」


ふら「割れてますけど」


カルロン「キッショ なんで分かるんだよ」


ふら「見りゃわかるわボケはよ助けろ死ねロン」


流石に学習能力はあるようで、無駄話をしながらも

つい先ほどの失態を繰り返さないようにと小鬼への警戒をする二人。

冷静さを取り戻してきた小鬼も同様で、暫しの間均衡状態が続いた。

そのうちに風もやみ、固唾を呑む音すら響いて聞こえるような静寂が訪れる。


ふら「…ふおりゃっ!!」


小鬼「!!」


張り詰めた空気と静けさを破ったのはふらくたるだった。

お互いが睨み合っている間に彼女が体の後ろで溜めていた呪いは、

放たれると小鬼に向かってカーブを描いて着弾した。


小鬼「ギィィ…」


ふら「…」


どうやら学習できるのは二人だけではないらしく、

小鬼もまた敵前での転倒を避けるために一歩を踏み出さずにいた。

しかしそれはつまり“動けない”とイコールで結ぶことができる状態であり、

転ぶよりはマシであっても不利な状況であることに変わりはない。


カルロン「おっしゃチャンスじゃん」


ふら「僕の頑張りを無駄にしないでくださーい」


立ち往生になってしまっている敵に対し、余裕そうに突っ込んでいくカルロン。

動けば隙を晒し、かといって避けないわけにもいかない。

実のところ、ふらくたるの呪いは不発だった。

しかし、小鬼がこの状況でそれを確かめる術は

実際に歩いて転ぶかどうかを見るしかないのだからどうしようもない。

切羽詰まった小鬼はその場で抵抗するも、カルロンに掴みかかられてしまう。


カルロン「ラブアンドピース!!ラブアンドピース!!」


小鬼「ギャアアアアア!!!!!!!」


ピースサインで執拗に小鬼の両目を狙うカルロン。

小鬼は無慈悲な目つぶしにたまらず悲鳴にも似た叫び声をあげる。


ふら「む、惨い…」


戦いにおいて急所を狙うのは重要なことであり、

彼女の行動は合理的だ。が、どう考えても倫理的ではない。

仲間のふらくたるも思わずドン引きしている。

ご趣味は?聞かれれば拷問と返すようなカルロンは

当然この未知の生物の悲鳴を楽しむが、ふと本来の目的を思い出す。


カルロン「あー…これどうしようか」


ふら「…ミョウバンに頼むしかない、と、思う…。

とりあえずアイツが来るまでもうちょっと殴っといてくれ」


カルロン「ヤッター!…あーいやダメだこれ」


ふら「あ?」


大喜びで顔を上げたカルロン。しかし、その笑顔は一瞬で苦笑いに変わる。

叫び声に引き付けられたのだろう。

木の陰に、茂みの中に、今彼女の下敷きになって呻いている小鬼によく似た

小さな影がいくつも並んでこちらを見ている。

カルロンの視線をたどったふらくたるもそれを視認したようで表情が引きつっている。


ふら「うわー…仲間だねこれ」


カルロン「コイツだけでも結構大変だったんやがー?

とりま逃げるくらいなら出来るだろうけど…」


『中止』


その二文字が彼女たちの脳裏をよぎった。

仲間たちに協力を仰げば奴らの鎮圧は一瞬だろう。

だが、そんなことをすれば無味無臭(ターゲット)にも勘づかれてしまう。

頼みの綱であるミョウバンは一向に現れない、まさに万事休すだ。


カルロン「うーん仕方ない、

ふら、あいつらに連絡しつつ下山してくれ

食い止めるくらいなら出来ると思うし」


ふら「まさか漫画とかでよくあるアレを実際に見ることになるとはね…

でも全く感動しないんだけど相手が不死身だから?カルロンだから?」


カルロン「えへ~~~~~ん」


こんな状況でも相変わらずの会話をする二人だが、

諦めるしかないこの状況にどこか落ち込んでいるようにも見える。

しかし覚悟を決めたようで、カルロンはそこらの石を口に含んで

割れた頭を回復させると敵の数を数え始めた。


カルロン「さぁて、お相手は、っと…いちにぃさんしぃ…」


「あ、あの…いい感じのとこ申し訳ないんすけど…」


カルロンが指をさしながら数える影の中に一つ、二人に話しかける者がいた。

それは聞きなれた…それも主に悲鳴として二人の耳に届くことが多いあの声だ。


カルロン「ア゛ァ゛!!ミョウバン!!!」


ふら「は!?来たの!?おっそ!!!!!!」


ミョウ「いやいたよさっきから!!

いや遅くなったのはごめんやけど!!」


カルロン「うせやろ、いつから?」


ミョウ「…ラブアンドピースの前から?」


遅れて現れた仲間の登場で気を緩め、辺りを見回す二人。

よく見てみればミョウバン以外の影はどれもピクリとも動いておらず、

ただこちらを見たまま結晶の中で絶命しているだけだった。

ミョウバンは既に到着しており、カルロンが遊んでいる間に

二人を警戒して狙っていた小鬼たちを全て結晶漬けにしていたのである。


ふら「…これってもしかしなくても恥ずかしいやつ?」


カルロン「ですねぇ!」


ふら「だはwwww普通に気づかんかったww」


カルロン「俺だせぇ~~~~wwファーーww」


ミョウ「い、いやそんなことないと思うけd」


カルロン「いやお前ハリボテの敵を前に仲間を逃がすやつが

カッコいいと思うか?」


ミョウ「え、あ、いや…」


先ほどまでの緊迫した状況から一変して、ゲラゲラと笑い転げる。

諦めムードだった彼女たちはすっかり上機嫌だ。

ミョウバンも、顔面がモザイクモノにされた小鬼を

結晶で固めながらつられて小さく笑みをこぼしている。

しかし、この小鬼たちは一体何者なのか。

詳しく調べたわけではないが、

この森にこんな獣が生息しているという情報は聞いたことがない。

それが気がかりだった彼女は神妙な顔つきで口を開いた。


ミョウ「中止にした方がいいんじゃない…?」


ふら「はああ??なんで?倒したじゃん」


ミョウ「いやだって、こんな奴らがいるなんておかしいよ

何かトラブルが起きてるはず」


カルロン「そうとは限らんで!」


ふら「カルロン!」


カルロン「なんか知らんけど、

とにかく天然のやべぇ奴らがいるってことだろ?

そんなのどう考えても怖い!

よってこれからこいつらを探して捕まえる!」


ミョウ「えええええええそんな無茶だって!!

大体二人とも苦戦してたのになんでそんなこと言えるの!?」


ふら「おまいが頑張るんやで、はーとはーとはーと

というわけで歩く冷却器ニキネキにはこれから頑張ってもらいます」


ミョウ「イヤーーーッッッ!!!」


一切危険を顧みない作戦が、仲間たちに伝達されず三人だけで決定する。

行動力〇、計画性×のNWK帝国でイベントが予定通りに進むことなどない。

正式な依頼ですらこんなテンションで行うのだからたまったものではないが、

それでもどういうわけか最低限のラインはこなしてくるので逆にたちが悪い。

今日も帝国の、そして意図的に狂わされたはずの妖星界の歯車までもが、

この彼女たちの突拍子もないアイデアで混沌へと向かわされていくのであった。

宣言通りの年内投稿ですよ(笑)

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