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雲の上は、いつも晴れだった。  作者: 田古 みゆう


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エピローグ p.1

 衝撃の事実を知ってから一か月以上が過ぎた。今のところ私は、自身がNoel(ノエル)のアーラであるという自覚がまだある。隣には光り輝く金の環と綺麗な羽を持つフリューゲルがいることも認識できている。私はまだアーラだ。


 だけど、変化もあった。小さな頃からの記憶が、まるで押し込められていた壺から溢れ出るかのように、毎日、次から次へと思い出されるのだ。


 今では、「これが記憶の融合か」と、心に思い浮かんだ記憶を静かに受け止められるようになった。アーラの私が白野つばさになるまでの十五年分の記憶。アーラの中になかったそれらの記憶が私の中にいっぱいになった時、もしかしたら、アーラという私は白野つばさの中に戻っていくのかもしれない。私は密かにそう思っている。


 私がいなくなる。そう思うと初めは底知れない怖さもあった。だけど、今はもうその時を迎えることに怖さはない。私は私の道を進むだけだ。そんな私をフリューゲルはずっと見守ってくれるといった。彼は、ずっと私のそばにいてくれるらしい。それはつまり、今までと何も変わらないということ。私は私でいればいいのだ。いつしかそう思えるようになった。


 司祭様とはあの日以来、お会いしていない。きっともうお会いすることもない。でも、私は司祭様が私の手を優しく包んでくれたことを、絶対に忘れない。いや、忘れてしまうかもしれないけれど、それでも、白野つばさの心の奥深くに大切に大切にしまっておこうと思う。私を育ててくれた父であり母である偉大なお方のことを。いつも私を慈しんでくれていたあの温かい眼差しを。


 できることならば私の密かな思いが司祭様に届きますようにと願いを込めながら、空を仰ぎ見る。あの事故の日よりも随分と暖かくなって、季節はすっかりと春めいていた。春特有の、霞のかかった青空のずっとずっと上空へ思いを馳せる。もう私が足を踏み入れることのない白と青の世界。庭園(ガーデン)は今日もう変わらず凪のような穏やかな時間が流れているだろうか。


「こんな所でどうしたの、アーラ?」


 立ち止まり空を見上げていた私に、不意に声がかけられた。


「別に。空が晴れてるなぁと思っただけ」

「空が晴れてるって、また当たり前のことを」


 私の答えをフリューゲルは可笑そうに笑う。そんな彼に私はプッと唇を尖らせて見せた。


庭園(ガーデン)じゃ、晴れが当たり前だけど、ここには、晴れの日もあれば、雨の日も曇りの日もあるのよ」

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