冬の章 ｐ．２７
「ええ？ ちょっと待って。それって一体……？」
フリューゲルの言葉に混乱する私の手を、司祭様が優しく叩く。一定のリズムを刻むそれに、ざわつく私の心も次第に馴染んでいく。司祭様の手に包まれていると、それだけで何故だか安心できた。
司祭様の手はまるでお母さんの手みたいだ。暖かくて優しい。でも、大きくて頼り甲斐もあるから、お父さんの手にも似ているかも。
優しくリズムを刻むその手を見ながら、ぼんやりとそんなことを考えていると、混乱で強張った表情が緩む。
それを見て取った司祭様は、私に優しく微笑んだ。
「突然の事に驚いてしまいますよね。アーラ。でも、時が来たのです」
「時が来た？」
いつだったかそんな言葉を私は司祭様から聞いた気がする。あれはいつの事だったか。
「ただならぬ様子で庭園へ戻ってきたフリューゲルから話を聞いた私は、大樹様のお声の意味を読み誤っていたのではないかと気が付きました」
「大樹様のお声の意味？」
話の真意を汲み取ろうと、私は司祭様のお言葉をポツリと復唱する。しかし、めまぐるしいほどの状況に陥っている私の思考回路は正常には働いていないようで、何も閃かない。
そんな私を助けるのは、いつだってフリューゲルだ。
「『時、来たりしとき、片翼を学ばせよ。時、来たりしとき、片翼を羽ばたかせよ』」
「それって……」
「アーラが下界へ来るきっかけになった大樹様のお言葉だよ」
私は、コクリと頷いた。そう、私はあのお言葉に従って下界へと来たのだ。弱ってしまった大樹をお世話する方法を学ぶために。
「私大樹様のお言葉に従って新たな場所へ行き学びを深めるのは、アーラなのだと思いました。貴方の下界への好奇心は、他のNoelたちとは違っていましたから」
「はい。ですから私は、司祭様と大樹様のお力で下界へとやって来て、園芸を学んでいるのです。私は、園芸の技術を身につけ、庭園に戻った後は、お弱りになった大樹様のお世話をすることが私の役目だと考えました」
「そうでしたか。大樹様のことを思って、そのように行動をしてくれていたのですね。貴方の心が優しく成長をしてくれていたことを、私は嬉しく思いますよ」
私の言葉に嬉しそうに眉尻を下げた司祭様の笑みは温かく優しさに満ちていて、とても綺麗だった。まるで下界の人のような優しい笑みを見せる司祭様に、私は思わず見惚れてしまう。
