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春の章 p.3

 自覚の無かった口癖を指摘されたお返しに、私も彼の無自覚な部分を突いてみた。


 すると珍しいことに、少し恥じらうように、フリューゲルが頬を緩ませた。


「あれ? そうだった? 意識していたつもりなんだけど、気を抜くとダメだね。アーラの事を、つばさって呼ぶ事になかなか慣れなくてさ」

「分かるわ。私も、こっちへ来てからしばらくは、つばさと呼ばれることに慣れなかったもの」


 フリューゲルの言葉に同意の意を示す私の隣で、フリューゲルは、小さな声で、「つばさ、つばさ」と私の名前を呼ぶ練習をしている。


 そんな彼といると、庭園(ガーデン)に戻ったような気持ちになった。


「無理して、つばさって呼ばなくていいんじゃない? だって、私は、アーラなんだし」


 なんだか庭園(ガーデン)が恋しくなって、私は、自らの名前を口にする。


「そうかな? アーラが下界にいる間は、つばさって呼ぼうと思っていたけど。でも、そうだよね。アーラはアーラだもんね」


 私の提案に納得したのか、フリューゲルは、コクリと頷いた。そこで私は、話題を変える。


「ところで、フリューゲルは、あんなところで何していたのよ? まさか私を迎えに来てくれたの?」


 私の口から、期待がぽろりと出た途端、フリューゲルは、そっと視線を伏せた。


「……ごめん。そうじゃないんだ」

「……わかってるわよ。そんなこと。ちょっと言ってみただけ」


 (うつむ)いて謝るフリューゲルを見て、少しの沈黙の後、私は冗談めかして笑い飛ばした。


 私は、学ぶために下界へ来たのだ。


 何を学べばいいのか未だに分からないけど、今は下界で生活していくことに精一杯で、学ぶどころではない。


 『学ぶ』という目的が達成されてもいないのに、帰れるはずが無いことぐらい、私だって分かっている。


「ねぇ、アーラ。下界の生活には、もう慣れた?」


 フリューゲルは顔を上げると、話題を変えるように、私の制服に目を留め、上から下まで眺める。


 私もその場の空気を変えたくて、そのままフリューゲルの心遣いに乗っかった。


「見てのとおりよ。さっきも走ってたでしょ。下界のスピードは速すぎて、ついていくのに必死よ。目が廻りそうよ」

「でも、優しそうなお母さんと、真面目なお父さんが傍にいてくれるし、周りの人たちとも馴染んできたみたいだし、順調な滑り出しなんじゃないかい?」

「何で知ってるの?」


 フリューゲルの言葉に思わず目を丸くすると、フリューゲルは、さも当たり前と言いたげに、肩を竦めた。

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