冬の章 p.6
そんな私を、フリューゲルは可笑そうに見ている。
あの時突然私の前から姿を消したフリューゲル。どんなに呼んでも私のそばに来てくれなかったのに、今、目の前にしれっと立っている。
その姿が以前と全く変わらないような気がして、だんだんと腹が立ってきた。
「あなたね。何なの。いきなり現れて。私がどれだけ心配したと思ってるのよ」
私の剣幕にも怯むこともなく二ヘラと笑ったフリューゲルの笑顔に、さらにイラつきが増す。
「何で笑ってるのよ?」
睨みを効かせて、ふにゃりとした笑顔を弾き返すが、そんなことすら気にする様子がない。
「あはは。アーラ、上手に怒るようになったね」
「もう、本当に何なのよ!」
握り拳を一振りして、ダンと足を踏み鳴らす。
「あれ? ムッキーじゃなくていいの?」
相変わらずのフリューゲル。のんびりしているのは彼らしいけど、今はまるで真実をはぐらかされているようで、なんだか余計にイライラとする。
「揶揄うのはやめて。私は本当に心配したのよ。あんな別れ方をして……」
イラつきが頂点に達した私の目からは、ポツリと涙が落ちた。一粒落ちてしまうと、その後は、次から次へと涙の粒が頬を伝っていく。
ようやくフリューゲルの声から戯けた色がなくなった。
「ごめん。あの時は、僕も混乱してしまって……」
「どこに行っていたのよ?」
鼻をグスッと鳴らして、私は、フリューゲルにジト目を向ける。
「あの後、僕は庭園に戻ったんだ。しばらくは一人でじっくりと考えて、その後、司祭様にお考えを聞いてみたんだ」
「ふ〜ん。それで? 司祭様はなんて?」
私は話の先を促したけれど、フリューゲルは困ったように眉根を寄せた。
「ああ。うん。その話の続きをこのまましても良いんだけど、アーラは作業の途中だったんじゃないの? それ、大丈夫?」
フリューゲルが私の足下を指すので、つられて視線を下へ向けると、思わず声が漏れた。
「ああ。肥料!」
落とした拍子に袋が破れてしまったのだろう。茶色の土に似た肥料が床に溢れ出ていた。
「やばい!」
庫内の隅へ行き、箒とちりとりを手にすると、肥料を掻き集めるために、床を掃く。埃と砂の混じった肥料を掃き集め、ちりとりに収めた。
まぁ、これでも花壇に撒くには問題ない。仕方ない。これを使おう。肥料だってタダじゃない。無駄には出来ないのだ。
「あのさ。話の続きを聞きたいけど、今は、こっちをやらなくちゃ。あ、そうだ。相談したいことがあったの」




