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雲の上は、いつも晴れだった。  作者: 田古 みゆう


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冬の章 p.5

 女の子は少しの間困ったように眉尻を下げていたが、やがて小さくコクリと頷いてくれた。


「ありがとう。丁寧にお世話するからね」


 私の言葉に女の子はもう一度小さく頷いた。


 私はじっくりと花壇の様子を確認する。


 花壇は、しっとりと濡れていた。昨日雨が降ったからかもしれない。この分なら、水遣りは必要ないだろう。私は、手にしたままだったジョウロを花壇の脇に置くと、さらにじっくりと土の様子を見る。


 まだ新芽などは出ていない。土が剥き出しのままだ。いつもなら、この土を掘り返し、空気を含むふっくら柔らかな土に仕上げるのだが、前情報によると、どうやらこの花壇は何もしなくても花が咲くようだ。


 私はこの花壇に咲くと言われている花についての知識がまだない。正直、いつ頃が開花時期なのかすら知らない。だが、一年近く校内の花壇の整備をしてきて、まだこの花壇に花が咲いているところを見たことがない。女の子は花が咲くのを待っているようなので、そろそろ芽吹きの時期なのかもしれない。


 そうなると、既に、土の中で芽吹きの準備が進んでいることだろう。無闇に掘り返してしまっては、芽を痛めかねない。


 土の様子を観察し終えた私は、考えた末、花壇に肥料を撒くことにした。


「もしかしたらもう土の中で芽が出ているかもしれないから、土は掘り起こさずに肥料を撒くね」


 私の言葉に女の子は破顔し大きく頷いた。これまでに無い反応だった。もしかしたら、私が花壇を傷付けないと安堵してくれたのかもしれない。


「肥料取ってくるね」


 女の子を残し、私は一人用具庫へ向かう。スターチスについてもう少し勉強しなくちゃと思いながら、用具庫の重い扉を押し開けて、しっとりとした空気が満ちる薄暗い庫内へと足を踏み入れた。


 重たい肥料袋の1つに手を掛けて持ち上げようと、体全体に力を入れる。


「……っと」


 思わず小さく声を漏らし、肥料袋を抱えた瞬間、背後から声がした。


「随分と重そうだね。アーラ」


 聞き覚えのある声に、勢いよく振り返れば、ここ数ヶ月姿を見せなかったフリューゲルが、ごく自然にそこにいた。


「ふ、フリューゲル!」


 あまりの不意打ちに、全身の力が抜け、抱えていた肥料袋がドサリと音を立てて床に落ちる。


「あ〜あ。落ちちゃったよ? いいの?」


 目の前のフリューゲルは、随分とのんびりとした声を出す。しかし、私はそんな声に応えることも出来ず、ただ口をパクパクとするだけだった。

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