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雲の上は、いつも晴れだった。  作者: 田古 みゆう


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冬の章 p.3

 しかし、男の子は本当に園芸に興味がないのだろう。慌てたように、答えだけを求めてきた。


「あの、ここに何かの種が撒いてあるって聞いて、その花を見に来ているんですけど……?」

「ああ。そこ? そこはねぇ、え~と、何だっけ?」


 男の子の様子に、コレは何かあるなと感じた。未だ声を発しない彼女と、話をするチャンスかもしれない。でも、この花壇は、今日から作業をするつもりの場所だ。それなのに何故、この子たちは……。


 そんな事を考えていると、ふと師匠の大樹さんから以前聞いた話を思い出した。


「そこはね、スターチスって花が咲くはずよ。紫の小さい花。以前、園芸部の先輩が育ててたみたいなの」


 私の言葉に、背を向けてしゃがみ込んでいる女の子が、初めてピクリと小さく反応した。そんな彼女の背中に語りかけるように、その花について私が知る限りの情報を長々と垂れ流す。


 男の子の方は、私の熱弁をつまらなそうな顔で聞き流していた。私は、彼らの興味をもっと惹きたくて、意味ありげに言ってみる。


「でも、そうね。その花壇、ちょっと不思議かも」

「不思議?」

「だって、誰も手入れしていないのに、花が咲くのよ!」

「はあ……」

「きみには、草花の神秘さは分からないかぁ」


 私の言葉に、男の子は心底どうでもいいという顔を見せるので、ガッカリした私は思わず、軽く頭を振った。


 やはり、直接彼女に語りかける方が早いかも知れない。私は、ここまで何も言葉を発していない女の子へと歩み寄ると問いかける。


「この花壇って、何か特別なんだと思うなぁ。ねぇ、あなたも、そう思わない?」


 私の言葉に、女の子は、またピクリと体を震わせたが、特に言葉を発しようとはしなかった。


 しばらくの間、女の子からの反応を待ってみたが、返ってこない。そのうち、男の子の方が声をあげた。


「それじゃあ、俺は、これで……」

「えっ? そうなの? この子は?」


 男の子の素っ気ない態度に、私は、女の子の方を視線で示す。


「さぁ。俺も、たまたま見かけて声を掛けただけなので、どうするかは、本人に聞いてください」

「あ~、うん。分かった。きみも、また気が向いたら、ここへおいで~。中等部でも園芸部に入部できるか、先生に確認しておくよ」


 あっさりと帰ろうとする男の子に、私はダメもとで咄嗟に勧誘をかけたが、男の子は、困ったように苦笑いを浮かべただけだった。

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