表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雲の上は、いつも晴れだった。  作者: 田古 みゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/114

秋の章 p.27

 涙で濡れた瞳を青島くんに向けると、彼は、握った手により一層力を込めた。


「今は、双子の片割れを想ってたくさん哀しめばいいよ。白野が泣き止むまで俺がそばにいる。でも、泣き止んだ後は、もう哀しむのはやめよう。きっと双子の片割れは、そんなこと望んでいないと思う」


 涙をポトリと落としながら、私は青島くんの言葉に聞き入った。


「白野が今日まで片割れの存在を忘れていたのだとしても、今、白野はこうしてその子のことを思ってる。哀しんでいる。きっとそれで充分じゃないかな。俺が、その片割れだったら、白野がずっと哀しんで塞ぎ込んでいるより、自分の分まで、元気に笑っていてほいしと思う」

「……私だけ、笑っていてもいいの?」


 私の涙混じりの声に、青島くんは力強く頷いた。


「ああ。いい! むしろ、笑っていないとダメだ。もしも、双子の片割れがそんな白野を見たらどう思うか分かるか? きっと、泣いている白野が心配で、片割れまで哀しい思いをすると思うぞ。白野は、仲の良かった片割れにそんな思いをさせたいのか?」


 青島くんはフリューゲルのことを知らない。それなのに、まるで、フリューゲルが私のそばにいつもいる事を知っているかのように、私に語りかけてくる。


 涙で滲んだ視線の先に、唇を引き結び、眉間を顰めて必死に何かに耐えているようなフリューゲルの姿が映ったような気がして、ハッと息を呑んだ。


 だけど、よくよく目を凝らせば、それは店のガラスに映った私自身だった。でも、それだけで私は、フリューゲルが哀しんでいる姿をありありと想像することができた。


 フリューゲルには、こんな顔をさせたくない。


 Noel(ノエル)であるフリューゲルが顔を顰めたり、泣いたりなんてするはずがないのに、私は、絶対に嫌だと思ってしまった。


 フリューゲルが私のせいで哀しむのは絶対に嫌だ。


 私は、頭をフルフルと振ってから、手の甲で涙を拭う。


「嫌だ。哀しい思いはしてほしくない」

「だろ。きっと片割れも同じ気持ちだ。だって、仲のいい双子だったんだろ?」


 青島くんにコクリと頷くと、私に優しく語りかけてくれていた彼も、コクリと頷き返してくれた。


「哀しむのは、これでやめよう。片割れを覚えていなくても、片割れが隣にいなくても、これから、白野は二人分元気に笑っていろよ」


 ニカリと笑いかけてくれる彼に、私はもう一度コクリと頷いてから、青島くんを真似て、ニカリと笑ってみた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ