秋の章 p.27
涙で濡れた瞳を青島くんに向けると、彼は、握った手により一層力を込めた。
「今は、双子の片割れを想ってたくさん哀しめばいいよ。白野が泣き止むまで俺がそばにいる。でも、泣き止んだ後は、もう哀しむのはやめよう。きっと双子の片割れは、そんなこと望んでいないと思う」
涙をポトリと落としながら、私は青島くんの言葉に聞き入った。
「白野が今日まで片割れの存在を忘れていたのだとしても、今、白野はこうしてその子のことを思ってる。哀しんでいる。きっとそれで充分じゃないかな。俺が、その片割れだったら、白野がずっと哀しんで塞ぎ込んでいるより、自分の分まで、元気に笑っていてほいしと思う」
「……私だけ、笑っていてもいいの?」
私の涙混じりの声に、青島くんは力強く頷いた。
「ああ。いい! むしろ、笑っていないとダメだ。もしも、双子の片割れがそんな白野を見たらどう思うか分かるか? きっと、泣いている白野が心配で、片割れまで哀しい思いをすると思うぞ。白野は、仲の良かった片割れにそんな思いをさせたいのか?」
青島くんはフリューゲルのことを知らない。それなのに、まるで、フリューゲルが私のそばにいつもいる事を知っているかのように、私に語りかけてくる。
涙で滲んだ視線の先に、唇を引き結び、眉間を顰めて必死に何かに耐えているようなフリューゲルの姿が映ったような気がして、ハッと息を呑んだ。
だけど、よくよく目を凝らせば、それは店のガラスに映った私自身だった。でも、それだけで私は、フリューゲルが哀しんでいる姿をありありと想像することができた。
フリューゲルには、こんな顔をさせたくない。
Noelであるフリューゲルが顔を顰めたり、泣いたりなんてするはずがないのに、私は、絶対に嫌だと思ってしまった。
フリューゲルが私のせいで哀しむのは絶対に嫌だ。
私は、頭をフルフルと振ってから、手の甲で涙を拭う。
「嫌だ。哀しい思いはしてほしくない」
「だろ。きっと片割れも同じ気持ちだ。だって、仲のいい双子だったんだろ?」
青島くんにコクリと頷くと、私に優しく語りかけてくれていた彼も、コクリと頷き返してくれた。
「哀しむのは、これでやめよう。片割れを覚えていなくても、片割れが隣にいなくても、これから、白野は二人分元気に笑っていろよ」
ニカリと笑いかけてくれる彼に、私はもう一度コクリと頷いてから、青島くんを真似て、ニカリと笑ってみた。




