秋の章 p.24
「そういうことだよね。やっぱり。でも私は……」
青島くんの言葉に頷きつつも、やっぱり納得ができない。
今いるこの世界が、私にとっての現実なら、これまでのアーラとしての生活は一体何だったのか。庭園での暮らしが、今もしっかりと私の中に残っているのに。あれが現実じゃないなんて、どうして言えよう。
納得が出来なくて、つい険しい表情になってしまった私には気が付かず、青島くんは何かを考えるように目を閉じて眉根を寄せた。
「いや、そうとも限らないか……両方とも現実ってことも……」
「え?」
考えもつかなかったことだ。まさかそんなことがあるのだろうか。
「両方ともが現実なんてことがあるの?」
体ごと青島くんににじり寄り、鼻息を荒くした私の肩を、優しく押し戻した青島くんは、流れるように私用のぬるくなり始めたミルクティーを手渡してくれる。
「白野。これでも飲んで落ち着いて」
言われるがままに、ミルクティーを口に含む。ミルクティーの甘さが、ごちゃごちゃに絡まった頭の中をほぐしてくれるような気がして、さらにもう一口飲んだ。
私が少し落ち着いたのを見計らうようにして、青島くんが口を開いた。
「白野はさ、パラレルワールドって聞いたことある?」
「パラレルワールド?」
聞いたことのない言葉に首を傾げる。
「知らないか。パラレルワールドっていうのは、小説とかフィクションの中では、もう一つの現実世界だって言われているんだ」
「もう一つの現実世界? って、言うことは、やっぱり、どっちも現実ってこと?」
「そう。でも、それはあくまでフィクション、作り物の中で言われていることであって、実際には、パラレルワールドがあるのかないのかなんて、知りようがないんだ」
いつもは端的に話をしてくれる青島くんの言葉が、今日はなんだかまだるっこしい。
「つまり、どういうこと?」
「つまり、どっちが現実かなんて、俺たちには分かりようがないってこと」
「そんな……」
青島くんの答えに愕然としていると、青島くんは、仕方がないというように眉尻を下げた。
「だってそうだろ。現実だと思っているからこそ、ここは現実なわけで、もしかしたら、本当は仮の世界かもしれないし、もう一つの、いわゆるパラレルワールドなのかもしれない。でもそれはどんなに考えたって分かりようがないんだ。まぁ、仮想世界に関しては、ログアウトできるから、仮の世界だったって分かるけどな」




