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雲の上は、いつも晴れだった。  作者: 田古 みゆう


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秋の章 p.19

「フリューゲル。あの写真はどう言う事なのかしら? ここは、この家は、私が下界で生活が出来るようにと、神様か司祭様のお力によって作られた家族のはずよね?」


 私の疑問にフリューゲルは答える事なく、眉を寄せて口元を少し歪めた。何かを言いたげなのに、何も言わない。そんなフリューゲルを不思議に思いながらも、もう少し現状を理解しようと、私は頭を捻る。


「う〜ん。私たちが下界で本当の双子だった。コレは、何となくだけど確信があるのよね。それで、じゃあ、あの写真も本当だとすると……え? お母さんのあの話は? アレもホント? 私だけが生きて、弟は産まれてくることができなくて……弟は、フリューゲルで……」


 そこまでを口にした私は、頭が混乱してその先の言葉を続けることが出来なくなった。ただただ無言のまま、フリューゲルを見つめる。


 その間にも、下界での生活が自分の中で真実であると不思議と強く思えてくる。しかし、そんなはずはない。私は、私たちは、天界の最下層庭園(ガーデン)に住まうNoel(ノエル)なのだ。今は一時、この下界へ学ぶために来ているだけ。そんな思いも私の中で渦巻く。


 下界の白野つばさとしての私は仮初の姿。庭園(ガーデン)の住人であるNoel(アーラ)としての私が本当の私。そう自分に言い聞かせてみても、なんだか、心の中がしっくりとしない。深い霧がかかっているみたいに、頭の中がはっきりとしない。次第に、何を考え、何を見極めなければいけないのかもわからなくなってきた。


 ぼんやりとフリューゲルを見つめたまま言葉を発しなくなった私を、フリューゲルが覗き込む。


「アーラ……」


 フリューゲルの瞳は深い黒をしていて、何も考えられずにただ黙って見つめていたら、突然、その深い黒色の中へ飲み込まれてしまうような感覚に囚われた。


 慌てて目を逸らし、私はフリューゲルの顔も見ずに、立ち上がると余裕のない声をあげた。


「もう何が何だか分からなくなった。ちょっと、頭冷やしてくる」

「アーラ。待って。もう夜だし、一人は危ないよ」

「いい。大丈夫。ついて来ないで」


 私を追いかけようと腰をあげたフリューゲルに、思いのほか厳しい言葉をぶつけてしまう。一人になりたかった。一人でゆっくりと考えたかった。このままフリューゲルと一緒に居ても、混乱したまま、何かを口走ってしまいそうで怖かった。


 ポツリと立ったままのフリューゲに背を向け、私は部屋を飛び出した。

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