表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雲の上は、いつも晴れだった。  作者: 田古 みゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/114

秋の章 p.14

 何かがおかしい。心臓を打つバクバクという音が、うるさいくらいに聞こえる。私が双子とは一体どういうことなのだ。


 状況が飲み込めずにいる私とは対照的に、お母さんは、寂しそうな影をその顔に落としながら、静かに言葉を紡ぐ。


「確かにこの家にはあなたしか子供はいないわ。でも、あなたは双子だったのよ」

「よく分からないよ。お母さん。私が双子だっていうなら、もう一人の子はどこにいるの?」

「さあ。どこにいるのかしらね。空の上に居てくれるといいのだけれど」


 そう言って、お母さんは天井を見上げた。その眼は、はるか遠くを見つめている。


「それって。その子は……」

「うん。生まれる前に死んじゃったわ」

「うそ……」


 驚きが小さく漏れる。あまりのことに私の口からは、それ以上の言葉が出てこなかった。


「あなたもね。一時危ない状態だったのよ。でも、なんとか持ち堪えてくれて……」


 お母さんの声はいつの間にか震えていた。


「お医者さんの話ではね。お母さんの産道は、あなたたちが通るには、少し狭かったみたいなの。それであなたたちを疲れさせちゃったみたいなの」


 震える声で、話を続けるお母さんの声を聞きながら、いつの間にか私の意識は、別のところにあった。


 ぷかぷかと暗い水の中を漂う。


 暗闇の中、必死で手を伸ばし誰かの手を探す。いつもならすぐそばにあるはずなのに。でもどんなに手を伸ばしても、触れることができない。声を上げて泣きそうになった。その時、暗い水の中に一筋の光が差してきた。


 光の向こうから、呼ばれた。早くおいでと。優しい声が、私のことを呼んでいる。私は声の元へ行きたい。でも一人ではいけない。私はもう一度手を伸ばす。


 必死で手を伸ばす私の耳にいつもそばで聞いていた声が聞こえた。大丈夫。心配しないで。僕はいつだって君のそばにいるよと。その声に押されるようにして、私の体は光の海流に乗る。いつもの声が遠退いていくような気がした。


 待ってと、力の限り叫ぼうとしたその時、私の周りがとても眩しくなった。眩しくて眩しくて、私は目をギュッと瞑ったまま叫んだ。神様、お願い。私たちを引き離さないでと。


「つばさ。ねぇ。つばさ。大丈夫?」


 お母さんの声で我に返る。


 今の景色は一体何だったのだろうか? 不思議な感覚にとらわれる。私は、今の場面に遭遇したことがあるような気がした。でも、下界へ来て数カ月。こんな出来事には遭遇していないはずなのだが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ