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雲の上は、いつも晴れだった。  作者: 田古 みゆう


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秋の章 p.13

「ねぇ。つばさ。あなたは、生まれる前の頃のことを覚えている?」

「え?」


 庭園(ガーデン)から下界へ来た私に生まれる前の記憶などあるはずがない。私の中の一番古い記憶は、小さなフリューゲルと庭園でいつも手を繋いでいたという記憶だ。だが、それはお母さんの望んでいる答えではない。


 私が答えに詰まっていると、お母さんは小さく微笑んだ。


「覚えているわけないわよね」

「え? ああ。うん。全然覚えてない。それがどうしたの?」


 話の内容がつかめなくて、少し焦る。ただでさえ、下界の生活や言い回しを含んだ言葉に不慣れなのだ。会話は、なるべくわかるように話してほしいと思いながら、お母さんの顔を見つめる。


 お母さんは、例の写真を机の上に置くと、それを私の方へ向けた。


「この写真の子たちは、あなたたちよ。つばさ」

「私たち?」

「ええ。そう。これは、お母さんがあなたたちを妊娠している時におなかの中を映したエコー写真なの」

「エコー写真……」


 じっと写真を見つめ、お母さんの言葉をそのまま反復する。しばらくぼんやりとその写真を見つめて、ようやく、話の内容を理解した。この写真は私の生まれる前の物だとお母さんは言っているのだ。


 だが、私はNoel(ノエル)庭園(ガーデン)の住人であって、下界でのこの家族は、本当の家族ではない。両親たちは、大樹か司祭様のお力添えで私を娘と思っているのだ。だから、おそらくこの写真の事についての母の記憶も、調整されたものだろう。


 そう判断したのだが、写真に写る二人分の影が、何だか私の心をざわつかせる。だって、私がこの家族に溶け込むようにと両親の記憶を調整しているのであれば、なぜ、ここに2人分の影が映った写真が存在するのか。私は一人娘という設定のはずだ。このような写真が出てくるはずがないのだ。


「ねぇ。お母さん。私たちってどういうこと?」


 私は混乱する頭を抱えながら、思ったままの疑問を口にした。その疑問にお母さんは寂しそうに答える。


「あのね。今まであなたに伝えたことはなかったけれど、あなたは双子だったのよ」

「え? 双子?」

「そう。あなたたちは、エコーで見る度、向かい合って寝ていたり、手を繋いでいたり、お母さんのおなかの中で、とても仲良さそうにしていたのよ」

「ちょっと待って。どういうことお母さん。私が双子って。私は一人っ子でしょ。このうちには、私しか子供はいないじゃない」

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