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雲の上は、いつも晴れだった。  作者: 田古 みゆう


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秋の章 p.12

「ただいま〜」


 玄関で帰ったことを告げるが、お母さんからの返事はない。いつもならば、のんびりと間伸びした声が迎えてくれるのだが。


 明かりがついているので、家にはいるはずだ。不思議に思いながら、靴を脱ぎ、いつも通りリビングルームのドアを押し開ける。しんとした部屋の中央、ソファにぼんやりと腰を下ろすお母さんがいた。


「お母さん、ただいま」


 声をかけると、ハッとしたようにこちらを向いたお母さんが、慌てて笑顔を作ってみせた。


「あら。つばさおかえり。早かったのね」

「え? いや。どっちかっていうと、いつもより遅いんだけど」

「え?」


 互いの言葉に、互いが不思議そうに首を傾げてから、壁にかけられている時計に目をやった。時計の針は19時を過ぎている。いつもは17時頃に帰宅するので、2時間ほど遅い帰りだった。


「あら本当。いつの間にこんな時間に」


 お母さんは、慌てて立ち上がる。パサリと何かがお母さんの膝から落ちた。近寄り、拾い上げる。何かの写真のようだった。


「お母さん、コレ何?」


 白黒のそれを何気なく見る。あまり鮮明でないその写真は、小さな赤ん坊が二人向かい合って身体を丸くして眠っているように見える。


「それは……」


 お母さんは、しばらくの間何も言わずに、私の手の中にある写真を凝視していたが、やがて、私の手からそっと写真を受け取ると、寂しそうな笑みを見せた。


「つばさ。お腹は空いてる?」


 突然の質問の意図が分からず、不思議に思いながら、首を振る。


「ううん。実は今日、焼き芋を食べてきたの。だから、まだそれほど」

「そう。じゃあ、少し話しましょうか」


 お母さんはそう言うと、リビングと続いているダイニングへ向かう。私は訳もわからずお母さんの背中を追った。


「座って。お茶を淹れるわ」


 言われるがまま、いつもの自分の席に座ると、程なくして温かいハーブティーの入ったカップが私の前にコトリと置かれた。


「ありがとう」


 カップを手に取り、両手で包む。じんわりとした温もりが、指先から伝わってくる。どこかホッとするその温もりを感じながら、正面に座ったお母さんを見れば、やっぱりなんだか寂しそうだった。


「どうしたの、お母さん?」


 私の声は届いているはずなのに、お母さんは、それには答えず、自身のカップに口をつける。コクリコクリと静かにお茶を飲み、カップを静かに机の上に置いた。そして、ようやく口を開いた。

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