秋の章 p.3
青島くんが大樹さんの軽トラから、焼き芋用の荷物を取りに行っている間、一人残された私は、焚火用の落ち葉を掻き集める。次回、大樹さんの手が空いている時にきちんとやるから、今日は、少しの落ち葉でいいと言われている。季節柄、落ち葉はそこかしこにあるため、掻き集める作業はあっという間に終わってしまう。
手持無沙汰に周辺を掃いていると、羨ましそうなフリューゲルの声がした。
「アーラだけ、焼き芋、良いなぁ」
「あら。フリューゲル。あなた、焼き芋がどんなものか知ってるの?」
「知らないよ。でも、このまえ、帰りに焼き芋屋さんの車とすれ違った時、とてもいい匂いがしてたじゃん」
「そういえば、そうだったわね」
フリューゲルとの会話で、庭園育ちの私たちは、甘く香ばしい匂いを思い出す。途端に、私のおなかが、グウっと威勢の良い音を立てた。
「あは! おなか鳴っちゃった」
盛大な音に、思わずおなかを押さえると、さらに大きな音がした。そんな私の隣で、フリューゲルは少し呆れ顔になる。
「アーラは、すっかり下界の人だね」
「なんでよ?」
「だって、僕らNoelは、そんな風に、おなかを鳴らしたりしないよ」
「仕方ないでしょ。これは……ええっと。何だっけ?」
「生理現象?」
「そう、それそれ!」
最近の私たちは、下界で学んだ表現を使って会話をすることが増えた。
「下界の人って、そういうのが大変だよね。食事したり、トイレに行ったり、お風呂に入ったり。僕たちには、そういうの関係ないからね」
「そうね。ここに来た頃は、時間とかそういう生活の習慣に慣れるのが大変だったけど、今はもうそれが当たり前になったわ。そういう意味では、私は、もう、立派な下界の人かも」
私は言葉を切ると、二っと笑ってフリューゲルの顔を覗き込んだ。
「でもさ、フリューゲルも結構下界に馴染んじゃってるよね?」
「僕が?」
「うん。だって、焼き芋屋さんに興味を示すNoelなんて、庭園にはいないでしょ?」
「確かにね」
フリューゲルは、ふふっと口元を綻ばせた。最近のフリューゲルはこうして笑うことが増えた。下界の人たちのように、大きな声で笑ったり、はしゃいだりすることはないが、それでも、私たちが庭園で暮らしていた時に比べれば、明らかに、表情が砕けたものになっている。
「学び」のために下界へとやってきた私と一緒にいることで、フリューゲルも下界に感化され始めたのかな。




