秋の章 p.1
《十一月二十四日 月曜日 曇りのちしとしと雨》
怒涛の夏が過ぎ、日に日に肌寒くなってきた此の頃は、花壇の花たちよりも樹木の色付きに目を奪われることが増えた。
学校をグルリと囲うように植えられているイチョウの木は、目を見張るような黄金色になり、校内では、紅葉が燃えるような赤に染まっている。
通学路にも、紅葉やイチョウの木があり、それぞれに秋の色合いを見せているのだが、学校の樹木の色付きに勝るものはないと目にするたびに誇らしい気持ちになる。
こんな素敵な景色が見られるのは、偏に、私の師である青島大樹さんのプロの腕によるものであって、間違ってもひよっこ園芸部員である私の努力の賜物というわけではない。
それでも、少しは私も手入れを手伝っている。まぁ、大樹さんが切り落とした枝を片付けるくらいだが。たったそれだけ。されど、それだけでもひよっこ駆け出し園芸部員には、大変勉強になる。
大樹さんは、いつも枝を切る時に、なぜ、この枝を切り落とすのかを説明してくれる。外側からは分からなくても、虫食いにより、もう成長の見込めない枝だったり、一カ所に枝が集まりすぎるための栄養不足を解消するための間引きであったり、日当たりを考慮したり。やはり、ひよっこには判断のつかない熟練の目で、切り落とすべき枝をしっかりと見極めている。
早く庭園に戻って、私も立派に大樹のお世話ができるようになりたいと思うけれど、樹木と真剣に向き合う大樹さんを間近で見ていると、そんなに簡単に技術の習得はできないと、現実を思い知らされる。
最近ようやく、園芸鋏から、細い枝を切るための鉈に、使える道具が昇格したくらいなのだ。まだまだ先は長い。
そんなことを思いながら肩を落としつつ、切り落とされた枝をゴミとして袋に入れるために、さらに短く切っていると、背後から軽快な足音が近づいてきた。
「おーい。白野」
振り返ると、青島くんがこちらへと駆けてきていた。作業の手を止め、息を弾ませている彼へ向き直る。
「どうしたの?」
「うちのじーちゃん、いる?」
「大樹さんなら、あそこだよ」
少し先の脚立が立てかけてある大きなイチョウの木を指し示すと、青島くんは、そちらの木へ歩み寄り、少し声を張り上げた。
「おーい。じいちゃん。母ちゃんが急用できたから帰って来いって」
青島くんの声に応えるように、木の上で作業をしていた大樹さんがムスッとした顔で、脚立を降りてきた。




