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雲の上は、いつも晴れだった。  作者: 田古 みゆう


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夏の章 p.19

「う、うん。そうかな。多分」


 緑の言葉は、抽象的でよく分からなかったが、言われてみれば、私の心の中は、そんなよくわからない感情が渦巻いていた様な気がする。


「嫌なことされたら怒って当然! 怒り狂ったからって、私は、つばさちゃんのことを嫌いになったりしないよ」

「怒り狂う……」

「そうそう。ムッキ〜ってね」


 緑は眉を顰め、唇を尖らせながら、両拳を突き上げる。その姿には、まさに「ムッキー」と言う表現がピッタリだと思った。


「あはは。なにそれ? それが怒り狂う?」

「うん。そう。えっ? 違う?」


 緑の怒り狂うポーズが可笑しくて思わず、声を上げて笑ってしまう。隣で、司書もクスクスと笑みをこぼす。


 なんだか、間抜けだが可愛い緑の姿は、黒い雲に飲まれそうになっていた私の気持ちを的確に表している様な気がする。


 そう。私は怒っていたのだ。理不尽に花壇を荒らされたことに。姿を隠して攻撃をしてきた木本という女子生徒に。


 私も緑の様に眉を顰め両拳を突き上げる。


「ムッキー」

「あはは。そうそう」


 緑に笑われながら、もう一度拳を突き上げた。緑も一緒に拳を突き上げる。


「ムッキー」


 二人して、可笑しな言葉を連呼しているうちに、私の心はすっかりと青空を取り戻した。


「あはは。なんかスッキリしたかも」

「うんうん。怒りは吐き出すのが一番。溜め込まず誰かに話しちゃえばいいんだよ」


 緑の笑顔に私も笑顔で頷く。


「さぁ。じゃあ、スッキリしたところで、ちょっと、図書館のお仕事を手伝って貰おうかしら」


 司書が頃合いを見計らったかのように冗談めかした笑顔で、席を立つ。


「はーい」


 緑は、勢いよく手を上げて、先を行く司書の後を追いかけるようにして司書室を出て行った。


 後に残された私は、すっかり冷えてしまったお茶を飲み干すと、机に残されたままになっていた人数分のカップをシンクへと持っていく。


 キラキラとした光に誘われて、視線を窓の外へ向ける。窓の向こうの中庭には、いくつもの水溜まりができており、それらが、光を反射して輝いていた。いつの間にか雨は上がり、私の心と同じで、空もすっかり晴れたようだ。


 そんな中庭の真ん中にフリューゲルの姿を見つける。フリューゲルはこちらを向いて立っていた。


 何だろうと思い見つめていると、フリューゲルは突然、両拳を突き上げ、顔を顰めて見せる。


 フリューゲルのそんな姿に私は、プッと吹き出しながら、後で、フリューゲルとたくさん話をしようと心に誓った。

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