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雲の上は、いつも晴れだった。  作者: 田古 みゆう


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夏の章 p.11

 青島くんに頭を下げてから、小さく手を振る。それに応えるように彼も軽く手を上げると、校舎の方へ、来た道を戻っていった。


 雨の音に紛れて小さくなっていく彼の背中を図書館の入口で見送っていると、パンっと手を打った緑が、真剣な面持ちで私の顔を覗いてきた。


「さてと。雨だけど、つばさちゃんは、この後も部活するの?」

「ううん。今日やろうと思ってたことは、できたし。この雨じゃ、水やりも必要ないからね。今日は、もう終わりにする」


 緑の問いかけに、私は首を振って答える。私の答えに、一つ頷いた緑は、私の手を取った。


「じゃあさ、私と少しお話ししようよ」

「え? うん。それは構わないけど、でも、緑ちゃん。司書先生のお手伝いの途中なんじゃないの?」


 戸惑う私を余所に、緑は、私の手を引き、図書館の中へと入っていく。


 入り口の扉を潜ると、空調が効いていて、雨に濡れた体には、少し寒いくらいだった。思わずブルリと身震いをして、手にしていたタオルを肩に羽織る。


「そっか。濡れてるから、寒いよね。ちょっと、ここで待ってて」


 緑は、寒さに肩を抱く私を見ると、一言言い置いて、司書室と書かれた扉へ駆けていった。


 一人残された私は、手持ち無沙汰に何気なく視線を彷徨わせる。


 晴れの日には、燦燦と光を取り込むだろう天窓には、たくさんの雨粒が打ち付けていて、今はあまり明かり取りの役目を果たしていない。暗く切り取られたようなそれを見ていたら、余計に寒くなったような気がして、そこから視線を外した。


 天窓から視線を外すと、壁の一部を利用して、展示してあるいくつもの雑誌が目についた。ゆっくりと雑誌を見るためのソファーもある。だが、こんな濡れた状態では、ソファーに座ることも、雑誌を手に取ることも憚られる。


 今年度から専任司書が常駐し、常に開館されるようになったらしいこの図書館は、その専任司書によって、居心地の良い空間作りがされている。この図書館の居心地をいち早く気に入った緑は、有志図書委員として、専任司書を度々手伝いに来ているようだった。


「つばさちゃん、こっち~」


 司書室からひょっこりと顔を出した緑に呼ばれ、司書室へと入る。


 司書室では、赤いエプロンの上に薄手のカーディガンを羽織り、大きめのウェーブのかかった髪を高い位置で一括りにした、幼顔の司書が、心配そうにこちらを見ていた。

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