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雲の上は、いつも晴れだった。  作者: 田古 みゆう


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夏の章 p.7

 木本という女子生徒は、青島くんの低く沈んだ声に一瞬たじろいだ様に、身を竦ませたが、やがて、それを取り繕うかのように、甘ったるい声をさらに甘ったるくして、彼に絡んだ。


「いやだ。大海(ひろうみ)ったら。まるで、私がその子を虐めていたみたいに言うのね」

「違うのか?」

大海(ひろうみ)は、私がそんなことをすると思っているの?」


 先ほどまでの自身の言動など忘れてしまったかのように、木本さんは、傷ついたと言わんばかりに、青島くんにすり寄っていく。実際、彼女が私に何かをしたという証拠はない。先ほど彼女自身が自白した嫌がらせについては、文句も言えようが、言ったところで、きっと彼女はシラを切るだろう。


 青島くんも同じ思いなのか、それ以上彼女を糾弾しようとはしない。彼は、傘をさしていない方の手で、私を背に庇うようにして彼女から隠すと、少しずつ後退しながら、木本さんからじりじりと距離を取っていく。


 そんな青島くんの態度など、意にも介さないのか、木本さんは、さらに青島くんへとにじり寄った。


「私、大海(ひろうみ)の態度にちょっとだけ傷ついたけど、大海が一緒に帰ってくれるなら許してあげる。ねぇ、部活が終わったなら、一緒に帰りましょ。私、雷が怖いの。家まで送ってくれない?」


 私を庇っている青島くんの背中からは、木本さんの圧に辟易としている空気が滲み出ている。青島くんは、きっと彼女の事が苦手なのだろう。彼は、彼女と必要以上に言葉も交わさなければ、視線も合わそうとしていなかった。


「ねぇ。大海(ひろうみ)、帰りましょ? そうだ! カラオケでも寄っていかない?」


 木本さんは一人楽しそうに帰りの寄り道を提案する。彼女の眼には、もう私の存在は映っていないようだ。青島くんだけを見つめる彼女のその情熱に気がついた私の心は、なぜだか、またざわつき出した。


 木本さんが青島くんに甘ったるい声をかければかける程、私の心は騒ぎ出す。でも、それは先ほどの、彼女の嫌がらせを知った時の黒く、モヤモヤとしたものとは少しだけ違う。


 これ以上木本さんと青島くんが一緒にいるところを見ていたくない。


 なぜだか、そんなことを思ってしまった私は、自分でも無意識のうちに、青島くんの練習着の裾を握っていた。


 青島くんは、チラリと私の方を振り返ってから、木本さんへ視線を向けると、ひどく冷めた口調で、彼女に声をかける。


「一緒には帰れない。俺は、まだ、これから部活のミーティングがあるんだ。木本は一人で帰ってくれ」

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