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雲の上は、いつも晴れだった。  作者: 田古 みゆう


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エピローグ p.11

 私は、少女の願いを快く引き受ける。少女は嬉しそうに顔を綻ばせた。


「ありがとうございます! じゃあ、そろそろ行きますね」


 少女は私に向かって小さく手を振ってくれた。私も同じように手を振る。


 少女の声は、次第に遠ざかるように小さくなっていく。少女の別れの言葉を待っていたのか、再び中庭に降り注ぐ光が強く眩しくなった。やがて、少女の周りに咲き誇っていた花々が金色の光に飲み込まれ始める。激しい光に思わずまた目を細める。


 澄んだ空の色との境界がなくなるほどにひと際強い光が中庭を包むと、少女の姿は光の中に溶けるかのように見えなくなった。


 ようやく光が収まると、その場にいた皆は、互いにぼんやりと顔を見合わせあっていた。大人たちはどこか夢心地のまま、ぼんやりとした表情で昔を懐かしむように花壇を見やり、それから、楽しそうに昔話に花を咲かせながら中庭を後にした。


 残された男子生徒と女子生徒は、まだぼんやりと花壇を見つめている。その花壇には、成長速度を間違えたのか、明らかに他の花壇よりも早く成長したであろう花が咲いていた。私は、花壇から2本の花を摘み取る。


「はい。あの子の願いだからね。スターチスをきみたちに渡しておくよ」


 差し出された花を、彼らは不思議そうに見る。


「これは……?」

「う~ん。言うなれば、あの子との記憶の結晶……かな。あの子との記憶は、もうすぐ、きみたちの心の深部に封印されるの。出会うはずのない出会いだったからね。きみたちの心の均衡を守るためには、仕方のない措置なんだよ。でも、この花が、きっとまたきみたちを結び付けてくれる。だから、大切に持っていて」


 二人は、私の言葉を聞きながら、それぞれ花を両手で受け取ると、まじまじとそれを見つめた。


「俺、この花好きだな」

「私も」


 ポツリと溢れた男子生徒の言葉に、静かに女子生徒が同調する。そんな2人に静かな笑みを送り、私は、そっとその場を離れた。


 今日はこのまま帰るとしよう。


 中庭を離れ、心地よい春の日差しを浴びながらのんびりとグランドの端を歩いていく。ふと、校舎の入り口に人影を見つけた。「あれ?」と首を傾げながら近づくと、そこには見慣れた人物が立っていた。


「青島くんも部活?」


 私が声をかけると、彼がこちらを振り向いた。彼は、一瞬驚いたような表情を見せたけれど、すぐにいつも通りの柔和な笑顔を浮かべてくれた。

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