表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雲の上は、いつも晴れだった。  作者: 田古 みゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/114

エピローグ p.10

「アーラの祈りが届いたみたいだね」

「そう。それなら良かった」


 私が安堵の笑みを見せると、フリューゲルも微笑み返してくれる。それから、緩めていた頬を少しだけきりりと引き締めると、フリューゲルは私の目をじっと見つめてきた。


「何?」

「僕は少しお役目ができたから、しばらくきみのそばを離れるよ。だけど、僕はきみの守護天使。必ずきみの元に戻ってくるからね」

「え? うん?」


 フリューゲルが何を伝えたいのかよく分からなくて、私は曖昧に頷く。


 私たちがコソコソと言葉を交わしているあいだに、桜の花びらが溶けた空からは、全てを包み込むかのような暖かい光が降り注いできていた。中庭に降り注ぐ光は、次第に強く眩しくなり、やがて、そこらじゅうの花壇が金色に包まれた。照り返す光の眩しさに私は思わず目を細める。


 不意に、フリューゲルの声が響いた。耳にではなく、直接頭の中に響く。フリューゲルの声は、いつものように穏やかで、しかし凛としていた。まるで、司祭様がお話されているときのように聞こえる。


“そろそろ時間です。いいですか?”


 フリューゲルのその問いかけに、しっかりと目を見開こうとしたが、今はもう光が全てを飲み込まんとするかのように眩しさを増していて、目を開けることができない。


「もうちょっと。あと少しだけ待ってください」


 光の中、ココロノカケラの少女の声が響いた。まるでその言葉が光を振り払ったのか、痛いくらいに眩しさを放っていた光が幾分弱まるのを瞼の裏で感じる。やがて、目を開けられるほどの光量になりそっと目を開けると、満足そうな少女の笑顔が、満開のスターチスの花の中にあった。


 その場にいた誰もが少女の笑みを見つめている。


 そうか。皆にもあの子のことが見えるのね。もう本当にお別れなのだ。そう悟った私は、フリューゲルの姿を探す。いつの間にかフリューゲルは、背中の羽を広げ私たちの頭上に浮き上がっていた。背後から光を浴びたその姿はとても尊く光り輝いていて、まさに天使様そのものだった。


 私が、見慣れているはずのフリューゲルの姿に見惚れている間にも、少女の口からは友人に向けて別れの言葉が紡がれる。


 別れを惜しみ、鼻を啜り泣き止まない友人たちを宥めていた少女が不意に思い付いたように、「あっ」と声を上げた。


「センパイ。スターチスが咲いたら、二人に渡してほしいの。お願いできる?」

「うん。いいよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ