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花の下にて  作者: 薬剤師のやくちゃん
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ペンキ

※この作品は、再投稿したものがあります。

再投稿したものは、イラストをつけて情報整理しやすくなっています。

街頭にもたれかかり広場を見つめる赤髪の少年、ーーピオ。ひめるの親友。

「ピオー、おはよー」

ピオは、ひめるの声に振り向いた。

「遅せーよ。みんなもう行ってるぞ。全くお前ってやつは」

「ごめんごめん。夜中変な夢を見たせいで、朝起きれなかったんだ。さあ行こう」

「言い訳は聞かないぞ。そもそも約束がある前日はーー」

説教を垂れ始めているピオの横目に、ひめるはピオの目の前を走り去った。

「置いてくよ」

「っておい!それは卑怯だぞひめる!こら待て。おい!」

後ろから追いかけてくるピオは、あっという間にひめるより前を走っていた。

「ははっ。全く、ピオには叶わないな」

ひめるは息を切らしていた。

「早く来いよー。置いて行くんじゃなかったのかー」

ピオは少し先で立ち止まって振り返り、手招きしながらひめるを煽っていた。

「はいはい、すいませんでしたー」

息を切らしたひめるは、小走りでピオに追いついた。

「よーし、じゃあフレンドソーセージ一個で許してやろう」

腕を頭の後ろで組んだピオは、余裕げな表情で言った。

フレンドソーセージは、この街ではよく食べられる栄養食である。それを主食とする人もいる。

「またそれかよー」

「俺に逆らった罰だな。前の分もまだだしー、合計3本?あ、4本か」

「おい。どさくさに1本盛るな」

2人は笑いながら、街の中央の噴水広場に向かった。


広場に近づくと、明日の花祭りの準備をしているのが見えてきた。


街の中央に位置する、噴水広場。

黄白色の壁は、色とりどりの模様やイラスト。屋根の上には、花や子供たちが作った造形物、ぬいぐるみの大事そうに飾る女の子の姿。広場の中央、大きな時計を大事そうに抱える女性の石像を中心に、透き通った水が静かに流れる噴水。それを囲うように咲く花壇の花には、丁寧に手入れを。それぞれの店の看板、公共物、広場全体は飾り付けがされ始めていた。


石像の足元には、1匹の黒い猫が座っていた。

「おはよう、ペンタ」

黒猫のペンタは、噴水の水飛沫で顔が濡れ、手で顔を洗った。

「おーい」

遠くから、コウカの声がした。

低い脚立に座り、その橙色の髪も、顔も服もペンキだらけでひめるたちに手を振っていた、ーーコウカ。縦も横も大きいコウカの隣には、華やかな着物で、黄色の髪を簪でまとめた小柄な女の子、ーーレンがいた。ペンキを持ったレンもひめるたちに手を振った。

ひめるとピオが2人に駆け寄ろうとすると、ピオは近くにいた街の人に声をかけられた。

「ピオ。ちょっと手を貸してもらえないか」

「ーーわり。先行ってて。ーーはーい」

ピオは、街の人みんなから頼られる人気者で、誰に対しても親切だ。

ひめるはピオに頷き、コウカたちの方へ向かった。

「おはよう、コウカ、レン。ーーあ、あれ?アニータは?」

ひめるの言葉に、コウカは深いため息をついた。

「お前ってやつは、友達がもうこんなに集まったのに、まーた、アニータは?僕のアニータは?だよ。全く」

コウカはそう言いながら、ペンキを建物の壁に塗っていた。

「そそ、そんなんじゃないよ!しかも僕、ーー僕の、その僕のアニータとか、ーー言ってないし!」

ひめるは顔が熱くなり、必死に言った。レンは、小さく手で口を隠しながら笑っていた。

「あーれー?ひめる顔赤いなー??」

コウカは意地悪に、ひめるの顔を覗き込んだ。

「うるさいな、勝手にしろ!――わっ」

花の香りがした。背中にぶつかったのが誰なのか、すぐに分かった。

耳につけた白いピアスが揺れ、光に反射して輝いた。振り返ると、真後ろにはアニータがいた。

「なんの話してるの?」

「――アニータ。いつからそこに」

頬を赤く染めたひめるに、アニータは少し笑った。

「ふふん、内緒」

アニータは、スキップをしながらレンの隣へ行き、ペンキを持つのを代わって上げた。

「もう、アニータ。どっから聞いてたのさ」

ひめるがアニータを問い詰めていると、手伝いを終えたピオが合流した。

「おはよ」

「おう」

「お前ら、早くからやっているんだろ?休憩してきなよ。あっちに、休憩できる場所があるみたいだぜ」

「それもそうだな。汚れちまったしな」

「えぇ。そうですね」

コウカは隙を見て、必死にアニータと話すひめるの手に、自分が持っていたペンキをさっと持たせた。レンは、近くのベンチに置いておいた和傘を開いた。

コウカは、ひめるとアニータが二人で話すのを見つめた。

「ーーピオ、お前はどうする?」

ピオも、コウカが見つめる先を見た。

「俺は、こいつらの作業を手伝うよ。ひめるあんなだし、早く終わったらみんなで遊ぼうぜ」

ピオはそう言って、三人の会話に気づかずに言いあうひめるとアニータの会話に混ざった。それを見てコウカは、くすっと笑った。

「”こいつらを手伝うよ”、だって。素直じゃねえな」

「彼なりの関わり方があるのでしょう」

コウカとレンは、近くの休憩スペースへ向かった。


その夜、花祭りの準備が終え湖のほとりで集まっていた五人は、明日の花祭りの話をしていた。

遠くの方で、秋の虫が鳴いていた。冷たい風が、心地よかった。

読んでくれてありがとう。

ペンキの匂いは好きです。小さい時に祖父母の家の外装を塗り直す期間があって、その期間は家中ペンキの匂いでした。それから、ペンキの匂いがふわっとくると懐かしい気持ちになります。

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