雨空
※この作品は、再投稿したものがあります。
再投稿したものは、イラストをつけて情報整理しやすくなっています。
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しとしとと、雨が降っていた。
玄関を出るトールに「いってらっしゃい」と声をかける。昨晩から遊びにきているモノの隣に座り、ぼんやりと窓の外の雨を眺めた。雨が降る日は、ピオとの勉強会もなく、家にいるようトールから言われている。部屋のストーブと暖房で、窓は次第に白くなった。
内緒の約束をしたーーあの日以来、アニータとは前より仲良くなれた気がしている。研究所のことについては、アニータが所属していること以外で新たに分かったことはない。ーー内緒の約束。
モノがまるくなって温まっているストーブの前で、ひめるは飲み終えた空のカップをキッチンに持っていこうとした。
「ーーアニータ?」
キッチンの窓から見えたのは、傘をさしどこかへ向かうアニータの姿だった。ひめるは上着を羽織り玄関を出ると、傘を開きアニータを追った。
葉に当たる雨の音。土や木の湿った匂いがした。湖のほとりへ降りる階段、そこでアニータを見失った。
諦めたひめるが仕方なく引きかえそうとした時、木々の隙間に人ひとりが行き来できるほどの細い道ーー誰かが通ったような道を見つけた。
“――ササッ”
耳を澄ますと、雨の音に紛れて葉が擦れる音が道の奥の方から聞こえた。
ひめるは傘をたたみ、足場の悪い細い道に足を踏み入れた。
葉についた水滴で、顔も洋服も濡れた。冷たい蜘蛛の巣が顔に引っかかり、足を進める度に靴は泥を連れてきた。
草木をかき分け進むが、一向に開けた場所へ辿り着かなかった。
「ストーカーさん」
声に振り向くと、真後ろには白い髪を濡らしたアニータがいた。
驚いた表情のひめるに、アニータはため息をついた。二人は木のテーブルへ向かった。
「こんなところで何をしているの?雨が降る日は、出歩いては行けないってトールさんから言われていないの?」
アニータは、持っていたハンカチでひめるの服や髪についた水をはらった。
「だって。アニータも出てたから」
ひめるの言葉に、アニータは二度目のため息をついた。
「あのね、ひめる。ルールは守るためにあるの。私とのお話は、晴れた日にすればいいじゃない」
「――ごめんなさい」
泥だらけの靴に濡れた服、反省した表情のひめるに、アニータは少し言いすぎたように感じた。
「アニータは、どこへ向かっていたの?」
「ある人に会いに行っていたの」
それだけ言って、アニータは遠くを見つめていた。
雨が湖に落ちる音が、微かに聞こえていた。
「そうだ!」
急に表情を変えたアニータは、首にかかる青いペンダントを握りしめ、ひめるの赤いペンダントを洋服の上から触れた。
「そんなに気になるなら、連れていってあげる!」
「え?!――まさか」
いつも真面目なアニータのその言葉に、耳を疑った。
「研究所に、ひめるを連れてってあげる」
読んでくれてありがとう。
雨が好きをいうと、そういうやついるよね、みたいな目で見られます。




