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花の下にて  作者: 薬剤師のやくちゃん
12/16

図書館

※この作品は、再投稿したものがあります。

再投稿したものは、イラストをつけて情報整理しやすくなっています。

「おはよう、アニータ」

朝の買い出しを終えたひめるは、噴水広場へ向かうアニータを見かけた。アニータは、その日レンと約束があった。

アニータと向かった広場には、和傘を開いたレンが二人を待っていた。そこへ、たまたま通りすがったコウカとピオも集まった。

「そうしたら、皆さんで行きませんか」

五人は、湖の向こう側の図書館へ行くことになった。


木漏れ日が射しこむ静かな森の少し奥、植物や池の手入れが隅々まで行き届いた図書館。大きなガラスからは、座るスペースや本棚が見えた。重そうなドアは開いていて、中へ入ると木や紙の匂いがした。古い本から新しい本、未開封なままの本が、埃ひとつない本棚に展示されていた。

それぞれで館内をゆっくり眺め、好きな本を選んだ。


ひめるは、絵本や図鑑を何冊か手に取った。

目にうつす知識は、まだまだ知らないことばかりだった。


移動した先に、入ってからずっと同じ本棚の前で本を開くアニータがいた。ひめるは、アニータがその本を読み終えたら何の本だったのか覗いてみようと考えていた。

しかし、アニータはそこでずっと同じ本を開いていた。本棚を挟んで反対側にいたひめるは、時間がたつにつれ、その本が気になった。


「ーー〜〜」

少し離れた本棚の前にいたひめるは、かすかに聞こえた歌声を探した。

「〜〜」

歌声は、本を持ったまま小声で歌うアニータだった。

歌は途切れ途切れで、歌詞もよく聞き取れなかった。それでも、不思議とひめるはその歌を知っているような気がしていた。


「いつになったら、声をかけてくれるのかしら」

アニータの声に、ひめるはハッとした。吸い込まれるような歌声で歌っていたのアニータは、本を片手にひめるを見ていた。

「アニータ気がついていたの?」

「当たり前じゃない」

くすっと笑うアニータに、ひめるはアニータが読んでいた本を見つめた。

「アニータは、本当にその本がお好きですね」

階段から降りてくるレンに、声をかけられた。

「えぇ」

アニータは笑っていたが、ひめるにはそれがどこか寂しそうに見えた。

「よろしければ、お持ちになっていてもいいですよ。その本は、アニータが展示を希望されたものですし。私から、お母さんに言っておけば、問題ないですよ」

「レンのお母さんって、ここの管理をしているの?」

「いえ。ここの特別管理人は、別の方がいらっしゃいます。少し変わった方で、気まぐれでしか起きてくれないんですけどね」

ここは森に囲まれた小さな街。なのに、ひめるはまだ知らないことばかりだった。

「ううん、大丈夫。なんでかは分からないけど、この本はここにあるべきだと思うの」

アニータは持っていた本を、本棚にそっと戻した。戻す時に、隣にも同じような表紙の本があるのがひめるには見えた。

「そうですか?わかりました。では、ピオさんが楽器で遊んでいるのでみなさんを呼んでいますよ。私は、何か飲み物を用意してから行きますね」

「手伝うわ」

レンとアニータは、奥の部屋へ入っていった。ひめるはそれを確認すると、アニータが読んでいた本を手に取った。隣にあったものと見比べ、2冊はそっくりだったが、アニータが読んでいた方の表紙には、”上巻”と書かれていた。

開いた本のページは、全て白紙だった。


図書館の奥、レンは人数分のコーヒーを入れていた。

「花祭りがあった日、あの混乱の中、何かを思い出すような感覚があったんです」

冷蔵庫から、フレンドソーセージを何本か取り出したアニータは、レンの言葉にその日のことを思い出した。

「無理しなくていいわ。大丈夫?」

アニータはレンに寄り添った。

「平気です。ありがとうアニータ」

弱々しい表情で笑ったレンは、心配そうに俯いたアニータの顔を覗き込んだ。

「平気ですよ。本当に」

アニータは少し言葉をつまらせ、カップにコーヒーを注ぐレンの隣でソーセージのビニールをむいた。レンは、棚から瓶を手に取り、粉末をカップに入れた。

「ーーこの得体の知れない恐怖と自己否定とは、この先ずっと私を離してはくれないのでしょう。ーー」

その言葉を口にし、コーヒーをかき混ぜるレンの手は徐々に止まった。

「辛かったわね。ごめんなさい」

涙がこぼれ落ちたレンの背中を、アニータはさすった。

「ーーアニータは何も悪くないです。ーーこんな感情なんて、いらないです。ーー消えてしまいたいなんて、考えたくないのに」

泣き崩れるレンに寄り添っていたアニータは、持っていたハンカチをレンに渡した。

「ーーそうね。自分なんていなくなればいいって思うのに、そうはいかないものよね。でも、大丈夫。もし、レンが本当にそうしたいって思ったら、そうするのよ。それができそうになかったら、私が貴方の心臓を貫いてあげるわ」

アニータの言葉に、レンは笑った。

「ーーアニータなら、本当にやってくれそうで嬉しいです。でも、その時は心臓じゃなくてここにして欲しいものですね」

涙を拭ったレンは、アニータとひめるたちのいる部屋へ向かった。


それから、ピオは、ひめるたちにギターを弾いた。紅葉が舞う景色と、レンがいれたコーヒーとフレンドソーセージをおやつに、五人は午後を過ごした。モノは、透き通った池にうつる自分の姿をのぞいていた。木陰のベンチでは、コウカがよだれを垂らして眠っていた。手に持っていた本のページが、風でめくれた。


ーーイブの店。

イブは車椅子のマコトにコーヒーを入れ、たわいのない話をしていた。

開いたままのドアから入った秋の風が、カラフルなキャンディーが入った瓶に当たった。

読んでくれてありがとう。

小学生の頃から本を読むのは好きです。でも、国語は苦手でした。

高校生の時、塾の国語の先生は「深読みするから文章問題は苦手」と言っていて、それ以来それを理由にしています。

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