第6話 焼け落ちそうな空・中編
森全体を炎が包み込み、住民の避難を誘導していた時。
「こっちは索敵ほぼほぼジット先生に頼り切ってるから避難誘導以外ちょっとだけ暇だね~。」
空が赤紫色になっている状況で何言ってんだこの人は。
「どうしようかな。人手が足りない。」
とジット先生。
「私とセスは一応手空いてるよ。」
「僕は一人で問題ないんだけど、たった二人で大丈夫かが心配だ。」
実際私はそこそこの継戦能力はあると思ってる。でもセスは魔法を使うたび絶対に怪我を負う。そこは気がかりだ。
「僕が魔法使うタイミング考えればいーんでしょ?」
この人この状況でもふわっふわしてるのね。
「わかったけど、極力戦闘は避けること。あくまで目標は残った住民の捜索と避難誘導だ。もしも戦いになっても・・・」
「逃げること。でしょ?も~聞き飽きたよ~。」
今朝、耳にタコができるほど聞いた。
「僕も戦いたくないなぁ。」
私とセスの二人は、行動を開始した。
赤紫色の空とは打って変わって、全く燃焼していない家屋もあった。
「なんか不自然じゃない?」
と走りながらセス。
「確かにちょっと変ね。でもこういう事もなくはないんじゃない?」
こういった実地における経験が少ないから何とも言えない。
「右前に今何かいたかも。」
セスがそういうので、足を止め、身体強化を強化する。
しかし、敵の姿は愚か、人影の一つ見当たらなかった。
「あっれ?おかしいなぁ。見間違えだったのかな・・・。」
とセスが少しずつ声を小さくしながらブツブツ言っている。
でも何か違和感は感じる。
見えるとか見えないじゃなく、何か気配のようなものを感じる。
「ライ!前!」
セスがとっさに大声で叫ぶので反射で頭を下げた。
水色の髪が短くなり、宙を舞っている。
すぐさまそこへセスが牽制をするために腕を振るが、そこには誰もいない。
「どういう事?セスは見えてるの?」
「いや、なんとなく感じるだけ。しいて言うなら急にライの目の前に壊せるものが出てきたように感じた。」
なるほど、セスの魔法はそういう感じで見えるのね。
「じゃあ見えたら場所を報告して、私が斬る。」
「破壊出来たらそれでもいいんだよね?」
確かにそうだが、消耗は避けたい。
「どうしてもって時だけ。それ以外は剣でどうにかして!」
セスが頷いた。
「ライの右前5歩くらい。」
私も私である程度相手の気配で位置把握はできるが、はっきりとした輪郭はわからない。
手前くらいまでは通常の構えで行き、その直後に構えを上にし、体制を大幅に下げる。意表は突けただろう。
剣先が見えなくなっていく。だが手ごたえはある。押し込んでいく。
直後、手ごたえが一瞬にして消えた。
「後ろだ!」
体制を崩したが故に上手く剣を振ることができなかったが、左の手を地面に付き、その手を軸に体を回転させ、剣を振り回す。
適当だが今は効果的だ。
手首は痛いが。
「ライ、僕の動きに合わせることってできる?」
「たぶん。」
いつも一緒にいるメレクや、割と常識的な動きをするジット先生なら完全に合わせられるが、この人は違う。何考えてるかわかんない。動きを合わせられるかどうかは正直相性な気がする。
「左すこし上方向から来てる。行くよ。」
セスは大きく飛び上がった。
それに応じて私も飛び上がる。
セスは私の肩を掴み、少しだけ軌道を変え、何かに手を触れた。
「破壊魔法、壊。」
セスの手から紫の雷が走り、その手は皮が剥け、痛々しいものとなっていた。
「えっと、やっちゃった?」
「どうだろ。わかったことはたぶん生き物じゃないこと。ヒト型の人形か何かだと思う。」
感触から推察しているのだろう。
「くっそぉおぉぉぉぉぉおぉぉおおぉおぉおぉおぉぉ!!!」
怒号が聞こえたその方向へと剣を投擲した。
「あ、武器投げちゃった。」
相手に刺さっていれば御の字だが、たぶん外した。
「こんのクソ共が俺のペットを壊しやがって。」
髪の毛ぼーぼーのお爺さんが出てきた。その手には人の腕が何本も生えた狼が握られていた。そして、剣が刺さっていた。
「2匹も!!!」
さっきのは刺さっていたらしいが、大元っぽいのには刺さっていなくて少し残念だ。
「誰よあんた。」
「一匹殺せてたなら。悪くない。」
セスが身構える。
というか相手が見えてるなら全く問題ないのではないだろうか。
「創造重式、片刃剣。」
掌から重みのある鉄の塊が出現する。
先日の初発動の時から学び、まず作る武器の量を減らすことにした。
そこで片刃剣と呼ばれる、ある国の優秀な武器を採用することにした。ゼイル曰く、
「壊れやすくて使いにくいけど、攻撃力十分、そしてコストが低い。君にはピッタリの武器だね。」
とのこと。
そしてその壊れやすさを付与術式で補う。
「アンタ、死ぬ準備はできた?」
「ワシのペットを殺したことを償ってもらおう。」
見た目がちょっとというか、大分気持ち悪い。そしてシンプルにかわいそう。
「でっかいのをくれてやる。」
そういうと爺は両手を青紫色の空に向けた。
「圧縮。」
そういった直後、空中に肉の塊が出てきた。
脚が数本、腕が数十本、口が・・一つ?の生き物だ。
「じゃあワシは行かせてもらう。」
「待ちなさい!」
そういって追いかけようとすると、肉の塊から伸びた腕が邪魔する。
斬り落とすが、その切り口から何本も生えてくる。
こういう時は。
「撤退だ。」
さっきは成り行きで戦ってしまったが、こいつは足が遅そうなので、逃げることにした。
「にょがいなさ?」
それは、すぐそこまで距離を詰めていた。
私はとっさに引いたが、セスは術式を組み立てていた。
「破壊魔法、壊。」
セスが触れるとそれは砕け散った。
一部分だけ。
「なにっ!?」
セスは破壊した手以外の手に殴り飛ばされ、私がそれをカバーし、何とか体制を取り戻した。
「ありがと。」
「大丈夫?それ。」
セスの手は血まみれになっている。
「まだ戦えるよ。」
大丈夫とは言ってくれないよね。
「片手で持てば問題ない。たぶん。」
「温存で行こう。」
相手の体は見える限り腕と脚のみで構成されている。どうしてこういう姿をしているのか、どのようにしてこうなったかは考えたくない。
「私が前を行く。」
セスは了解したかのように頷き、少し遅れてついてきている。
腕が伸び、こちらへと数本向けられている。
私は身体強化を脚に集中させ、それを躱し、むしろ伝って剣を入れてゆく。
腕の周りを回転するようにして纏わりつき、斬り刻んだ。
威力十分。使い方問題なし。
肉の塊は至るところから血を噴射し、悲鳴のような、楽器のような音を響かせた。
「どこまでも合致しないわね。」
セスが脚を3本斬り、私が腕を8本斬る。しかしまだまだ相手には余力が残っている。
「全然倒せる気がしない。」
「おっしゃる通り。」
そこへ突然がなり声が聞こえ、上裸で紋章のようなものが浮かびがっている赤髪の男と黒衣で身長の高いヒトが乱入してきた。
「タナトス!あんまり遠くに行かないで。」と言いながらメレクが遅れてやってきた。
「お前の仲間が苦戦しているようだからわざわざ移動したというのに。」
「死神も随分と仲間思いのようだなぁ!」
そういって赤髪は攻撃する手を休めない。しかしそれを難しくなさそうにいなし、時たま反撃をする。
あれがメレクの召喚魔法。
「死神か。」
セスが感傷に浸っていると、忘れられては困るといった雰囲気で肉の塊が攻撃を仕掛けてきた。
「あぶな。」
セスはそれを破壊して躱し、
「うまくいったぁぁぁぁぁ!いけぇぇぇぇ!」
と叫んだ。
確かにセスのダメージは増えているように見えない。
メレクと私で連携を取り、腕を斬り脚を斬り、どんどんと剣戟を重ねていく。
赤髪もこれは頂けないとしてこちらへと攻撃しようとしてくるが、死神の攻撃にひるんでしまい、うまくできないといった様子だ。
「お前ら、今のうちに戻っておけ。」と死神
今ダメージを与えるチャンスだと思うのだが、メレクが退いたので私も退いた。
「どうして?」
メレクに尋ねる。
「あいつが暴れるからだ。」
赤髪は雄たけびをあげ、
「重式反転、爆套!」
すると死神を巻き込んで大規模な爆発をした。
幸い肉塊が爆発の大部分を吸収し、直撃はしなかった。
死神以外は。
「カカカ。」
その死神は、纏っていた布が吹っ飛び、全容があらわになった。
顔には黒い仮面が付いており、中央に向かって白い線が無数に入っていた。
また体は骨でできており、あばら骨の奥に赤い核と思われるものが付いている。腕は4本あり、くねらせている為かなかなか気持ち悪い。
その正面にいた赤髪は死神のあらわになった弱点を殴るべく、攻撃に出た。
赤髪は爆発魔法を使い、地形を破壊していく。
今度は死神が防戦一方になり、息をのむ状況が続いた。
死神は小さめの鎌を2本呼び出し、全身を使って赤髪の体制を崩そうとしている。
前で爆発を受け流し、その隙で相手の後ろへ回り、鎌で切り刻んでいく。
すると赤髪は距離を取った。至近距離の戦いは不利だと悟ったのだろうか。
死神はドス黒いオーラを纏った刃を何本も飛ばし、赤髪を翻弄していく。
「すごい、纏い相手に優勢を保っている。」
「この魔法のせいでいろいろ後悔してきた。でも今日は、今日だけは後悔したくない!」
メレクは死神に加勢し、見事な連携を披露していく。
それを見て私も参加したくなる。連携を取りたくなる。
相手を、倒す。
メレクは爆発をいなしておらず、死神がほぼカバーしている。
赤髪は体制を整え、手を前に向けて叫ぶ
「爆破!!!!」
魔法が発動するまでに一瞬の隙があり、懐に入ることができた。
「もらったわ!」
「ハ!?」
赤髪の脇を貫いた。だがしかしそのわきから噴き出た血は爆発し、またしても死神を盾にしてしまった。
「死神も万能じゃないからな。」
そういって仮面アタマは少し息を吸い、
「闇魔術、死線」
死神の核の正面から青い光線が放たれ、赤髪はそれをまともに喰らい、右半身を喪い、死んだ。
「いつこの肉は死んだんだ?」
恐らく赤髪の纏い発動直後の爆発だろう。
メレクがいきなり立ち上がり、
「何か感じるね、タナトス。」
「そうだな。」
決意したような顔をし、こちらを見る。
「ライはセスを連れていったん戻って。最初ジット先生といたところ、アルマさん達が危ないかもしれない。」
「え?アルマさん達は別行動じゃなかったっけ?」
メレクは頷き、
「そうだったんだけど、いまそこにはジット先生がいなくってえぇぇっと、と、とにかく!危ないから守ってあげて。僕たちは広間に行くからね!」
そう早口で言って、この場を後にした。
「はやいなぁ。」
いつも同じくらいだと思ってた。
「越されちゃったかな・・・」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
体調崩しちゃったので今後も投稿が若干遅れるかもしれません。ゴメンネ
ではまた来週。