第5話 それぞれの思い
今日は村への移動開始日だ。
「忘れ物はないか?」
「皆の持ち物は僕が確認したので問題ないです。」
さすができる男ジット。抜かりがない。
実力が足りているかどうか不安で仕方がない。
結局のところ、俺はまだ物体の時間を停止させる術式を完成させていない。まだまだ不安定なままだ。ジットは何かあれば自分が制御すると言っていたが、前にゼイルが言っていたように時間魔法は例外中の例外で、ゼイルが模倣できないほどだ。ジットに制御してもらったところでそもそもできないか相当な負荷を与えてしまう。
せいぜい俺は身体強化で戦うしかできないんだろうな。
「心配のし過ぎは良くないぞ。」そう言ってゼイルは頭を撫でてくれた。
「あまりうれしくないなこれ。」
「ないよりマシでしょ?」
未来への不安を募らすぇるよりも、今目の前に来ているやらねばならないことを考えよう。
「何かあったら僕が守ってあげるから。」
ジットまで駆けつけてくれた。
「僕は指揮をまわしている奴のところに単身で特攻するから、守ってもらうならジットだね。」
こういう言い方をするってことは、大方目途がついているのだろう。
「皆!出発だ!」
全員で拳を空にあげた。
山に入ってかなり時間がたった時、セスが足をくじいたので小休憩を行うことになった。
「回復は僕とジットがしよう。」
ゼイルは魔法を模倣できるが、すべて初級魔法のみだそうだ。
しかしこれには抜け穴があり、ジットの術式補助があれば、ほぼすべての術式を再現することができるということらしい。
「ゼイル先生は消費魔力すっごい少ないの知ってるけど、ジット先生は温存しなくていいの?」
ゼイルがはっとしたようにジレンの方を振り向いた。
「言ってなかったね。」
「そういえば言ってなかったですね。」
「ジットの術式操作は正確には魔法じゃなくて特殊能力。魔法は使えないよ。」
魔法が使えないのに他人の魔法を操作できるというのは苦痛なのではないだろうか。
「故に魔力消費はない。だってジット魔力ゼロだもん。」
そうだったのか。
「と言ってもノーリスクじゃないですよ。頭脳労働はすごいですし、術式操作は複雑な術式になればなるほど僕の体力を持ってきます。」
やっぱりジットに術式操作はできるだけさせたくないな。
時間魔法は例外中の例外か・・・
セスの治療が終わり、ついでに間食も取り、再び脚を進めた。
村に着くころには、日が暮れかかっていた。
「んーまぁ想像通りってとこかな。じゃあ僕は村長と相談してくるから、皆はジットに付いて宿に入ってゆっくり休んでね。」
身体強化を日頃から長く発動しているライやアルマ、ルキウスは疲れていなさそうだったが、そうでない俺たちは身体強化の長期使用での疲れ半分、体力たらずでの疲れ半分だ。
部屋は3部屋とり、ゼイルとジット、男子、女子と分かれた。
「うっへぇ~疲れた~」
「俺も、全然体力がないのを感じたし、身体強化の練習も足りてなかった。」
「僕は普段重力制御の練習しかしてないから楽だったな~」
「足痛いよぉ」
セスの足はもう腫れが収まっているようだが、ダメージは残っているので痛いそうだ。
「あれだよな?その襲撃ってのは3日後なんだよな?」
「俺の足が治ったらな。」
「相手方の予定が早まってなければね。」
それも不安要素の一つである。
「作戦とか立てなくていいのかな。」
「明日の朝とかじゃない?」
「いや俺の足の痛みが治まったらだな。」
「ちょくちょく遺体の主張しなくていいから。」
セスは少しシュンとした様子で拗ねた。
「何はともあれ、皆戦えそうにはなってる、相手は先生の対策ばかりをしてくるだろうから、その隙を吐けば勝機はある!よな?」
よな?は不安が増すからやめてほしい。
「ところでメレクは?いつまで先生のとこにいるんだ?」
セスとジレンが寝た頃、メレクは帰ってきた。
少し俯いている。
「長かったね。何かあったの?」
メレクは小さく頷いた。
「召喚自体は安定してきたんだけど、その先のことが不安になっちゃって。外で風に当たってた。」
「いっつもすごいメレク君も一応人間なんだね。なんだかちょっと安心しちゃった。」
ルキウスが感慨深そうに言う。
「なんだそれ、ちょっとショックだよ?」
そういいつつもメレクは笑っている。
「僕だってみんなと同じで悩んだり、悔しかったり、強くなりたかったりするんだよ。」
「それでも俺はいつもメレクをすごいと思ってるよ。」
少し頬を赤くして
「なんか幸せだな。僕。」
といった。
「メレク、気に病んでないといいけどな。」
10中8、9気に病んでるだろうな。
「それは無理な話じゃない?彼はまだ10歳の子供だよ?」
「わかってはいます。この期待が重荷になっているのもわかってます。僕の悪いところです。直そうとは思ってるんですけど、情動が先走ってしまってしくじってばかりなんです。」
顔を手で覆いながら黒髪の長髪を揺らし、猛省している。端正な顔も相まって女性の様にも見える。
声は重低音だが。
「ま、若い子に期待を背負わせたいのは分かる。でも、今回はその期待通りのシナリオにならないように、俺たちで頑張るぞ。」
そうはいったが相手には纏いを使えるやつが少なくとも2人いる。
そしてあいつが敵にいるということは意図的に誘い出されていてもおかしくはない。
敵の狙いがわからない限り、手のひらで転がされるしかできないのが苦しいところだ。
「ジット。もしも俺が死んだら逃げてもいいからな。」
「ありえない話をするのはやめてください。」
ジットにとってこれは呪いのようなものだろう。でも伝えておかなければいけないと思った。
「そういって死んでいった人が何人いたかあなたは知っているでしょうに、やめてください。受理しません。」
姉さんみたいなことを言うんだな。
「相手は間違いなく僕の対策をしてくる。だから僕はあえて囮をしようと思う。たぶん一番強いのが僕のところに来る。あとは例の異界の獣の対策だけだ。」
「ゼイルさんが負けたらどうするんです?」
「さっき言ったとおりだよ。」
「その時が絶対に来ないようにしてください。」
今回内容薄いですね。
でも絶対に入れたかったので書かさせてもらいました。
次回はいつも通りに投稿しますのでしばしお待ちを~