第4話 輪郭
「まず、今回の件を踏まえて君たちに言わなきゃいけないことがある。」
少しだけ周りがざわついている。襲撃の件だろうか。
「俺は定期的にアルマを連れて森の方に行っていたと思うが、あれは君たちを狙った団体を倒しに行ってんだ。」
「そんなん知ってるよ。」とジレン。
メレクやライは知らなかったらしく、若干ソワソワしている。
「意外と勘のいい子供たちだな。それで、ここからが本題だ。こいつらは、近年この周辺の集落を襲撃し、資材を集めていることが判明した。」
「この近くって村あったのか。」
「セスさん、全然近くないですよ。」
近くないのか。
「ここが田舎すぎるだけで、近くの集落だといえば近くの集落なんだよ。」
よくわからないことを言い始めたな。
「んで、その資材って言うのは人間の子供だ。」
は?
「それは・・・胸糞悪いですね。」
「それを私たちに言って、どうするつもりよ。」
ゼイルが手をたたいた。
「そこで、次の襲撃先を僕が入手したから、撃退しようっていう算段。」
「子供を攫ってどうするつもりなのかは知ってるのか?」
やはりここは気になるところだ。
「とある魔獣を召喚するっぽい。」
召喚か、メレクみたいな感じなんだろうか。
「メレクの召喚とは根本的にモノが違う。相手は理性というものが存在しない。故に厄介な敵だ。」
「能力とかはわかるのか?」
「それが全く見たことのない生き物だったんだ。」
ゼイルはいつも本を携帯しているので、彼が知らないと言ったら相当な気がするが。
「わかりました。できるだけ被害を出さずに、敵団体の全員無力化が目標ですね。」
「そういう事~」
割と簡潔とした内容だが、今の状態で戦えるとは到底思えない。
メレクには何か切り札があり、ライには圧倒的な戦闘センスがあるが、俺やルキウス、セス、ジレンは魔法の制御から進んでいない。
「で、実行日がちょうど2週間後っぽいから、それに向けて今日から特訓だね!」
まだ時間があって助かる。俺はさっさと魔法を覚えよう。
あれ?
俺の魔法って使用禁止じゃなかったか?
「ゼイル、俺はどうやって戦えばいいんだ?」
ゼイルは少し黙った後、思い出したかのように、
「あ」
あ
「もしかして考えてなかったのか?」
図星というかおをしている。心は読めるがポーカーフェイスはないんだな。
「ちょっと今から考えてくる・・・」
この男、俺をどうやって英雄に仕立て上げようとするのか計画なしだったのか。
不安は残るばかりだ。
その時、アルマが叫んだ
「先生!連れてきた人の一人がいなくなっています!」
もしかしてさっきの会議(?)聞かれたんじゃなかろうか。
「まずいね。」
「僕は諜報活動をしてくれる友達を呼んでくる。日にちの変更があるかもしれない。」
今の一瞬で不利になってしまったな。
「ま、相手は君たちのことを戦力外だと思ってる、強くなってびっくりさせてやろう!」
びっくり。
特訓が始まり、一週間が経過した。
俺は時間魔法を物体に付与し、状態を変化させないことを練習するようにジットに言われた。
「これをマスターすれば、君はただの子供から唯一の魔術師へと変化する。もっと言えば、時間の操作と範囲をちゃんと制御できるようになったらあのゼイルさんにもかなうかもね。」
とのことだ。
お世辞だろうが、嬉しいものがあった。
ライは相変わらず剣の腕を磨いている、今まで意地でも努力をしないというスタンスを貫いてきた彼女だが、他人が自分たちのせいで傷ついているのが許せないので、一刻も早く強くなりたいと息巻いている。
メレクは自分の魔法をモノにする為に、保険のジットを連れて山の中で修業をしている。
ルキウスはゼイルに言われた身体強化の代替案をもうほとんど制御しているらしい。
セスは破壊の力が自分に反動として戻ってくることを研究する段階が終わり、どうやら魔力を送り過ぎて、術式で渋滞が起きているようだった。曰く、魔力量を減らすと効果が激減してしまい、魔力で動くドリルくらいにしかならないとのことなので、術式の無駄を減らすことに専念するらしい。
アルマとレニーは、既存の術式に加え、新しい術式の開発に励んでいる。
意外とレニーはアルマとジットにだけ愛想がいい。
ジレンはなんとついに魔法の方向を制御する術式を構築できるようになり、戦力としてカウントできるほどになった。
また、身体強化とは別に身体強化の魔法を覚えたらしく、一気に魔術師として上達していた。
「僕も身体強化魔法とか使えたらな~」
ルキウスが気怠げに芝の大地に寝そべった。
「俺もそれは思う。身体強化が使えても、二重に使えるほうができることが違うだろうな。」
と言っても、想像はつかないが。
「ルキウスのそれはほぼ身体強化魔法じゃないか。」
「味方によってはそうなのかな~」
それから少し間をおいてからルキウスは
「そうだとしたら、皆も大変だなぁ」
よく言ってることがわからなかった。少し先のことを見据えての発言だろうか。
最近メレクと戦う代わりに、一日数回ゼイルと戦うのだが、強くなろうと身体強化のギアを上げようとすると、違和感が体を走り回って、うまく調子が出ないのだ。
もちろんゼイルにこのことは伝えたが、初めて聞いたという返事だった。今度お父様に連絡してみようかとも思ったが、なかなか思い立つことができなかった。
「それで?最近もその違和感は消えないんだね?」
「つっ!勝手に心読むのやめてって。」
剣先が交わる。
「なんでアンタそんなに強いのよ!」
「ん~経験かな?」
「嘘つけ!身体強化使えない人がこんなに力が強いわけないでしょ!」
防戦一方である。
どうやったら勝てるんだろうか。
身体強化をさらに強化すれば多少は形成を崩すことが多少はできるだろうか。
「実際の敵はそんな考えてる暇はくれないよ?」
剣を弾き飛ばされた。負けか・・・
・・
・
いや、まだ負けじゃない!剣を作れ!術式を根本的に組み替えて、今までのサイズの限界なんてものは忘れて、剣を!今!
掌から鋼鉄の塊が出現し、その煌めきを轟かせていく。
出来た!これで!あれ・・・
「力が・・・」
脚から力が抜け、視界が回っている。
「上出来だ!」
ゼイルが手を差し伸べてきた。
ほぼ再起不能なのに上出来なのだろうか。
「やっぱり両親の因子をしっかり受け継いでるね。」
両親も倒れながら魔法を使う間抜けだったの?
「いやいや、立派な魔術師夫婦だったさ。父は優秀な創造魔法使い。母は優秀な術式付与の行える支援魔法使いだった。」
ゼイルは途中まで不完全な剣を持ち上げ
「これはエンチャントと言って、武器自体にある種の特異性を付与するものだ。君の母はそれを得意としていた。」
懐かし気に見つめるゼイルに少し感心した。
「今日はもうむり・・・戦えない。」
「うんおやすみー。」
ゼイルが水色の髪の女児を背負ってやってきた。
「ゼンはどう?なんか聞きたいことある。」
「どう見ても誘拐現場なところくらいかな。」
「それには同意する。」
「ライは大丈夫なのか?」
「固有魔法の制限が解禁されて、今反動でダウンしてるだけ。」
そういうこともあるのか。
そういえばジットに時間魔法の操作と範囲について学べと言われていたんだった。
「難しいこと言うね。実は僕、時間魔法を模倣できた試しがないんだよね。」
「制限とか?」
一見なさそうだが。
「いや、たぶんそっち側が特殊過ぎるんだと思う。」
「じゃあこっち、物体に時間魔法を適用?するのって何かコツないか?」
大分抽象的な質問をしてしまった。
「時間魔法も同じかはわからないけど、術式の付与は基本的に練習と感覚あるのみだ、伝えるのは難しい。それに、回数をこなして感覚をモノにしていくのが一番効果的だと僕は思ってる。じゃ、頑張って!」
空を飛んで行った。
練習あるのみか・・・収穫はあった。
今自分のやってることには、意味があるのだと。
その3日後にメレクが帰ってきた。
10日ぶりに見る彼の姿は、少しだけ大人びていた。
心なしかジットも少しだけ強くなっているようながする。
ライはしっかり元通りである。
「どうだったの?山籠もり。」
そして彼女も気になったのか、とっさに質問をしている。
「まだ怖くてみんなの近くでは使いたくないけど、大分安定したと思うよ。」
彼は優しいのだな。
「ジット先生!ジット先生!聞きたいこといくつもあるんだけどい~い?」
「僕も少しだけ・・・」
「私、も。」
「私も先生にお伺いしたいことがあります。」
ジットも人気で苦労する人間だな。
「ちょっと妬いちゃうな。」
「なんだかんだゼイルのおかげで俺たちはここにいて、ここまで強くなれている。いつもありがとう。」
たまには感謝してやらないとな。
「どういたしまして。」
少し満足気にゼイルは笑った。
「よーし皆!その日は近い。今日から移動を開始する。」
「えー」「もう?」「まだ怖いんだけど」「私あなた嫌い」など、様々なフィードバックをもらっている。
「大まかな流れを説明すると、移動して、対策を練って、当日倒す。それだけ。」
本当に大まかである。
「僕が折々で説明するので今はこれでいいです。」
流石ジット、頼りになる。
「移動には大体半日かかります。」
「それならもう少し時間に余裕があるように思えます。」
「そういっても君たちは子供だ、体力には限界がある。適度に休みを挟む都合上、最大1日と半分かかる可能性も考慮している。質問があったら言ってくれ。」
ないらしい。
「よーしじゃあ準部ができたら中央に集合。持ち物は最低限にね!」
こうして、我々の初陣の幕は切られた。
全然早く投稿できてないですね!なんなら内容が少し少ないです!でも次から明らかに話が進むので切っておきたかったんです。次回こそは早めに投稿しますので、しばしお待ちを。