第3話 印・前編
ゼイルに言われたように、アルマと模擬戦をしていたのだが、
「あっ!ゼンさん大丈夫ですか?結構しっかり入ってしまったのですが・・・よければ回復しますよ?」
アルマさん無茶苦茶強い。身体強化は俺の方が上とアルマが言っていたが、彼女は独自に身体を強化する手段を持っているらしい。
「回復・・・お願いしてもいいですか。」
「はいいますぐ。」
「あの、アルマさんなんでそんなに、強いんですか。その、なんていうか一撃が重すぎる気がするんです。」
敬語使われると敬語使ってしまうな・・・
「私、植物魔法を使うといいましたよね。アレちょっと違くって、その・・・一般的にあまり好かれないというかなんというか・・・恥ずかしながら有害植物を操れる魔法なんです。」
なんかコンプレックスに思ってそうだな・・・フォローしておくべきだろうか。
「アルマちょっといいか?」
ゼイルが近寄ってきた。
「はい。ゼンさん少し待っててくださいね。」
「あいや、ゼンにもついてきてもらおうかな。」
ほんとはついていってはいけないのだろうか。
「そうだね、ほんとは生徒は連れて行かない。」
「私も生徒なのですけれど。」
もしかして忘れてたのか?
「アルマはなんかこう・・・ちょっと違うじゃん?」
強いっていう事か?
「本当だったら普通に魔術師として就職できるくらいには慣れてるってことだ。」
「どうしてそんなに強いの?」
「これ言っていいの?」
「構いませんよ?」
ちょっと気になるやり取りだ。
「彼女ね、メレクと同じ感じで"ツキモノ"なんだよね。」
メレクもそうなのか。
「ツキモノって?」
「あまりに強力な力を持つがゆえに、後世の人々にもその影響を齎すかつて存在したといわれる人々が憑りついている人のことです。」
メレクは制御ができていないからあんな風なこと言ってたのか。
「説明はあとでいいかな?僕の予想だと、そんなに余裕はない。」
「そうですね。相手側の位置を調べますね。」
「あそうだ。ゼンについてきてもらおうと思ったのは、近接戦闘のやり方を学んでほしかったからだよ。今からこの僕が素手で戦うから、その様子をしっかり目に焼き付けてね。」
随分と余裕なんだな。
「僕は魔力の性質が特殊なんだ。強さは保証するよ。」
「相手の出方によってはこちらに危険が回ると思うので、私はここで待機します。」
で、結局何が起きてるんだ?
「暗殺者?かな。」
誰が狙われてるんだ?
「僕と、君たち全員だろうね。」
割と立ち話をしてる場合じゃないわけか。
「方向は?」
「前方、距離は200フェルです。」
「相手の射程が長ければ既に先手を打たれてたな。」
「では先生。」
「頼むぞアルマ。」
「デ・フュージ!」
アルマが魔法を唱えた途端、ゼイルがぐったりし始めた。
「あ~からだおも~い」
「そりゃ弱体化魔法ですからねぇ。」
「なぜわざわざ弱体化してからいくんだ?」
「そりゃあだって・・・」
ゼイルが一気に草むらから飛び出し、誰もいないところへと蹴りを入れた。鈍い音がする。目に見えない何かが確実にそこにいたのだ。
「殺しちゃだめだからだよ!」
何者かが嘔吐する音が聞こえる。
いつの間にこんな近くまで来ていたのか。
「結構立ち話したもんね。」
「さすがにこの距離を詰められるほど話していませんよ?」
「どこにいるのかわかるのか?」
ゼイルは確実に敵の存在を認知してから蹴りを入れた。何かタネがあるはず。
「今言ったら対応しづらくなるかもしれないからあとでいい?」
確かに、手の内を明かしてもらおうとするのは愚かだった。
「ゼンさん、しっかり見ていてくださいね。あれが私たちの先生、ゼイルさんです。」
ゼイルはその見えない敵に対して距離を詰め、少し跳躍してから右脚で蹴りを2度入れ、3発目で蹴り飛ばし、奥に生えている木に体を叩きつけた。
「その魔道具。珍しいね。どこの誰に貰ったんだい?」
恐らく魔法で透明化していたのであろう敵が輪郭を少しずつ取り戻していく。
「ぐ、ぶはっ!!!」
その眼は明らかな恐怖を抱えていた。
「アルマ、こいつから情報を聞き出したいんだけど、適当な毒草ない?」
一瞬で鎮圧してしまった。しかも魔法を一切使わず、相手を殺さないように配慮したうえでの鎮圧だ。ただ空を飛べるだけの男ではなかった。
「匂いを嗅ぐと体が痺れて痛みの走る、シクビレサの花とかどうでしょう。」
アルマさん、怖い。
ゼイルはその花をアルマの手から受け取り、敵の鼻元に持って行った。
「どこの誰から依頼された?あと見方は何人いる?この魔道具貰って行っていいかい?」
最後欲が出ている。
「だ、ダレガお前、に、ぐっ、教える、か。」
「あそう、じゃあこの花嗅いで?」
「ぐ、やめ、やめろ、いやだ、ぐ、わかった、いう、だから、殺さないでくれ、たのむ。」
なんというか・・惨い現場だ。
「はぁ、最初からそう言・・・」
ゼイルが一瞬止まった。
「首元に通信機が付いていますわ。」
「あと何人いる。お前の身柄は保証してやるから素直に言え。」
「あ、あ、あと4人だ。」
ゼイルが若干困った様子でこちらに振り向き、
「二人とも皆の元に戻っててくれ。練習再開していてな。」
大丈夫なのだろうか。
「わかりました。」
「俺たちは足手まといか?」
「・・・いやなに、ここからは大人の戦いって奴だ。僕は君たちを失うわけにはいかない。」
ワケアリか。
「わかった。」
「あ、アルマ!」
「なんですか?」
「魔法解いて!!」
すっかり忘れていた。
読んでくださりありがとうございます!
今ちょっと忙しいので、前後編に分けて投稿させていただく形となってしまいました・・・
次回は一週間後です!お楽しみに