第2話 入学、そして初授業。
「ということで、本日から新しく君らのクラスメイトになった、ゼン君で~す。仲良くしてね~。」
「どうも。」
こういうときって他に何言えばいいんだ?
「じゃあ一人ずつ名前と年齢、魔法とか言って行こうか。」
「え~ゼイル先生新しい奴連れてくると毎回これやるじゃん。」
「じゃあ好きなごはんでも言っていいよ。」
適当だ。
「適当じゃん。」
「オレはジレン。爆発魔法の使い手だ!いずれお前のことも爆破してやるぜ!」
「年齢と好きな食べ物は?」
誰もツッコミを入れないのか。
「10歳!好きなものはカツ丼!」
「よ、よろしく。」
「ばくh・・・」
「僕はルキウス。重力魔法を使うよ。年齢は11、好きな食べ物は・・・魚とかかな?」
「お、いいね~魚。今度釣りでも行く?」
重力魔法か。かなり強力な魔法に聞こえるけど、こんな辺境にいるっていう事は・・・
「そうだね。みんなここにいるなりの理由はある。表に出さないだけで気にしてる子もいるから、そこは推し量って。」
ゼイルにそう耳打ちされた。子供に頼む内容じゃない。
「よろしく。」
「じゃあ私?でいいかな。ライです。創造魔法が使えます。サイズは手のひらまで、しかできないけどね・・・あでそうだ、年齢は12、好きな食べ物は・・・肉?」
「ライは獣肉食べれる?」
「食べれますよ~」
「よろしく。ライさん」
創造魔法か・・・魔道具とかもそのまま複製できるのだろうか。
「わたしレニー。近寄らないで。」
あれ?歓迎されてない?
ゼイルの方を見ると耳打ちしてきた
「あの子人間不信だから・・・あでも仲良くしてね。」
少しハードルが高いかと思われます・・・
「僕はセス。手に触れたものを代償を以て破壊するよ。厨二病風に説明した方がわかりやすいんだけど、あきたから普通によろしく。年齢は11、好きなものは特になし。あいや、全部かな?」
変わった人だ。
「よろしく。セス君。」
「いいね~嫌いなものがなくて。僕はキノコ嫌い。」
子供みたいな人だ・・・・
「私はアルマ、13歳。植物魔法を使います。好きなものはキノコです。」
「僕はキノコ嫌い。」
そんなにキノコが嫌いか
「よろしくアルマ。僕はキノコ好きだよ、食べたことないけど。」
「僕はメレク。危ないからあんまり近づかないでね・・・魔法は一応召喚だよ。好きなものは味噌汁かな。年齢はたぶん10だよ。」
なんだか訳ありそうだな・・・よく考えたら全員訳ありか
「ゼンも一応10歳だよ。」
「らしいです。よろしくメレク。」
勝手に年齢決められてたのか。
「今日はジットがいないから、近接戦闘の練習をしていくよ~。」
「「え~」」
そういえばゼイルは割と肉体派とか言ってたな
「具体的には何をするの?」
「とりあえずは剣術の基礎からね。」
「ゼンは大丈夫なのかよ、今までの訓練とかしてないけど。」
確かに
「大丈夫じゃない?多少の怪我は僕が治せるし、子供は成長早いし、ね?」
「先生の方が成長しやすい癖に~。」
どういう事だ?この人、子供みたいな大人だと思ってたが。ほんとは子供・・?
「まぁまぁそれは運が良かっただけだから、ね?めげずに頑張って?」
なんだろう。ゼイルの魔力によるものだろうか。
「よーしじゃあ早速準備運動して、鬼ごっこでもやって、そのあとから始めよう!」
・・
・・・
鬼ごっこは、ゼイルが全員すぐに捕まえたので。面白くなかった。
「ではでは!今回はなんの捻りもない普通~の両刃剣を使ってもらいま~す。」
ゼイルのことだ、どうせ
『ここをこう持ってぇ~これをこうして~こう!』
とかやるんじゃなかろうか
「ゼンは持ち方からみぃ~っちりと教えてあげるね。」
「ごめんなさい。」
ゼイルは割とわかりやすく持ち方を教えたのち、皆にアドバイスをして回った。
模擬戦をしていたメレクとライは、正直言って人間離れしたレベルで激しい攻防をしており、ライが大体勝利している。
他のみんなも大概素早く、力強い剣使いをしており、到底真似できる領域にあるようにはどうしても見えなかった。
途方に暮れている俺をゼイルに見つけてもらい、どうしてあんなに動けるのかを聞いてみた。
「あ、そういえばゼンにはまだ身体強化を教えてなかったね。」
「先生そりゃあ酷だぜ~?」とジレン。
「身体強化ってどうやってやるんだ?」
すごく体を強化できそうな術式なのは火を見るより明らかなのだが、肝心の術式を俺は知らない。
「これ術式じゃないよ。」
ゼイルに一蹴されてしまった。
術式じゃないなら何なのだろう。
「あまりピンとこないのだが・・・」
「術式とは違って、自分の魔力を体全体に巡らせる。これが早ければ早いほど、また適正が高ければ高いほど、強力な身体強化になる。」
なるほど、使い方次第ではあの二人の様に動けるのか。
「あいや、あれはかなり上等な身体強化だよ。」
「なれないのか?」
「うーんどうだろ。循環速度が速く、適性のそう高くないメレクが、適性の高さがほとんどのライに少しだけ後れを取っている。これがどういう事かは、説明しなくてもいいね?」
つまり・・・
「努力だけではたどり着けない領域もあると。」
「そうだよ。でもメレクよりもう少し上までなら誰でも努力でのし上がれる。」
「あの・・・・・僕のこと・・・・・バカにし・・・してます?」
息の荒い、呼吸の激しいメレクが近づいてきた。
「今からフォローするところだったんだよ?」
「なんです?」
「君は優秀な召喚術師または魔導士になれる才能を持っている。にもかかわらず、非常に優秀な戦士になるであろうライと対等に渡り合っている。これはそういない魔術師だよ?」
自らも戦える召喚術師・・・かっこいいな。
「ありがとうございます。目の前にいる人がそのそういない魔術師なのが残念ですけど。」
「ただ励ましてるだけだからね?考えすぎないでね?」
ゼイルも苦労してるんだなと。
「おっと、忘れていた。使い方を教えないまま戦わせるところだった。」
思い出してくれて何よりだ。
「まず自分の中に流れている魔力は認知できるかな?」
目を閉じて体全体に意識をやると、胸の少し下あたりに"何か"を感じた。
「たぶんこれかな~っていうのは。」
「たぶんそれだね。じゃあそれを体全体に広げられるかな?こう、薄べったくしていくような感じで。」
再び目を閉じる。薄べったく・・・薄べったく・・・・・
なったかもしれない。
「これできてる?」
「できてるね。よし、次は回す段階だ。たぶんゼンはすぐできるよ。身体の魔力に熱を持たせて、好きなように循環させてみよう。」
熱を持たせて?循環させる?おそらくできてない。
「ほら、あの僕が君を迎えに来た時とかできてたよ。」
なかなか嫌な思い出なのだが・・・しかしながらあの時感じていた熱が魔力に影響していたのかと思うと、力み過ぎなのではないだろうか。
「あれ、もしかしてダメそう?」
「かもしれない。」
なんだか想定外の事態が起きたみたいだ。
暫くゼイルが考え込んだあと、
「いまからジットの術式を模倣して、君の魔力を無理やり身体強化の状態にもってくから、感覚を覚えて。痛かったら言ってね。」
「強引だな。」
術式を素早く構築し、手のひらをこちらに向けてきた。するといきなり全身の間隔が鋭敏になり、熱を持ち始めた。
「おーこれはこれは、かなりトリガーが重たいね。」
「どういう事?」
「うちの生徒で一番魔力量が多いのってさ、メレクなんだけどさ、彼はいろいろあって魔力の扱うセンスが良くて、すぐに身体強化を今の段階くらいまでもっていったんだよね。それで、ゼンの魔力はその次くらいに多い、なのに魔力の扱いはからっきしだから、魔力の動きがおっそいのおっそいの。そんで、循環しにくかったってわけ。」
なんとなくわかったが、一つ気がかりなことがある。
「それは良いの?悪いの?」
「もちろんいい方だよ。ただ最初に起爆剤として少しの魔力を消費すればいいだけ。魔力量が多いと、循環を維持しやすい。つまり、多少集中を欠いてもしばらくは身体強化が切れないってことだ。」
戦闘中に集中を削がれにくいのはかなり大きい。
「じゃ、自分でやってみて。起爆剤だよ起爆剤。」
少しの爆発を魔力で行い、波を作る。すると一気に体の重さが減り、力の漲る感覚をしっかりと捉えた。
「おーいいね~それを、常々行って初めて魔術師としてのスタートラインに立てている。忘れないようにね。」
「剣の練習はどうするの?」
「じゃあアルマと組んでくれ、彼女は教えるのがうまいと思う。僕はレニーとルキウスにアドバイスしてくる。」
レニーに教えるのは骨が折れるな・・・だが彼女は人間恐怖さえなければ既に魔術師として成果を残せているはずだ。根気よく行こう根気よく!
「レニー?剣の練習はいいのかい?」
「・・・」
「身体強化はできるかい?」
「・・・」
静かながら身体強化を行っているようなので安心した。
「なんだ、できてたのか。杞憂だった。」
「馬鹿にしないで。」
「ごめんね・・・」
レニーから返事をくれたのはいつ振りだろうか。
「何か聞きたいことはあるか?」
「何かあったとき、あなたは私を助ける?」
「もちろんだとも。」
「いらない。私以外を助けて。私は私を守れる。」
トラウマが大きいか・・・
「一応皆を守れるくらいには強いはずなんだけど、役者不足か?」
「私はいなくなった方がいいでしょ?」
「どうしてそう思う?」
「私を殺そうとしてる人が、たまに来てるんじゃないの?」
どうして知っているのだろう。
「安心してくれ。皆を絶対に守る。レニーもだ。約束する。」
「そういって皆死んでいったのよ。」
辛いな・・・
「ルキウスのことを見てくる。練習、しなよ。」
ふぅ・・・切り替え切り替え。とはいえ、"団体"の存在がバレてたか。今後はもっと隠密にやらねばな。
「ルキウ・・・ス?」
紫色の髪地面に埋まっている。体が上にあり、頭が下にある状態だ。
「返事できる?」
手を振られた。
「呼吸できる?」
手をクロスしてバツをつくっていた。
僕は、ルキウスを、引っこ抜いた。
「泥だらけだね。」
「あと少しで死んでました。」
彼は重力魔法自体は使えるのだが、よくそれで自爆している。規模自体は小さいのだが、重力魔法はほぼほぼ災害なので、扱いが難しいことこの上ない。
「最近は魔力制御上手くいってる?」
「これでも多少は上手になったんですよ。ジット先生のおかげです。」
「それは良かった。身体強化はできそう?」
「たぶん適正がゼロに近いです。なので・・・」
「やっぱりそうか。そこで、身体強化に代わる代替案を持ってきた。」
「おお!心強い。ちなみに鍛えるしかないとか言いませんよね。」
そんなひどい人に見えるだろうか。
「君の魔法ならではの戦法だ。自分に重力魔法と付与するんだ。」
「それって、いつもと同じになりません?」
「たとえば君が前に移動をするとき、自分に重力魔法をかけて、その向きを、後ろから前にするんだ。」
ジットに昔、術式は方向を指定できると教えてもらった。
「もしかしたらジット先生に聞かないと・・・」
「詳細はわからな~い。」
露骨にため息を吐かれてしまった。
「それと、身体強化の適正の低さが影響して、他の能力が著しく伸びてるかもしれない。落ち込むなよ!」
「はい!ありがとうございます!」
今でも縁のある治療術師から聞いた話だが、敵国の負傷兵の一人に、身体強化が一切使えない奴がいたそうだ。
彼曰く、その負傷兵は代わりに著しい再生能力を持っていたとのこと。改造手術などは受けておらず、シンプルな体質だったとのこと。
まぁ自分も特別な体質をしているので他人事ではないのだが。
「そういえばジレンとセス一緒にやらせてたけど、大丈夫なのかな。今になって心配になってきた。」
そう思っていた時、少し離れた森に何か違和感のあるものを感じ取った。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
ここで小ネタをば。
ライはゼイルの元同僚の娘です。だ~から戦闘センスがいいんだね~。
次回の更新は1週間後くらいになります。それではまた。