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ピエロ  作者: いっき
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第二章 少女殺傷事件

 帰宅後、勉強をした。もうすぐ期末試験だ。


 高校の勉強なんて、所詮は大人が少々頭を捻って作り出したパズルだ。そこらの大人の知識の範囲で作った問題なぞ、その意図を紐解くと、答えを出すなぞこの上なく容易だ。


 だが恐らくこの作業は、大人になってから、宇宙が作り出した神秘溢れるパズルを解く訓練であろうと思われる。


 例えば、ワトソンとクリックの解明した生命の神秘、DNA二重螺旋構造も、プリン、ピリミジンという塩基を結合する立体パズルに他ならない。将来宇宙のパズルに挑戦し、輝ける栄光を得るには、不可欠の訓練なのだ。


 数学の問題に没頭し、気がつけば夕飯時になっていた。リビングに降りるとクリームシチューが用意され、テレビがついている。


「勉強、ちゃんとやってるの?」


 母親がいつものように、まるでそのことしか関心がないかのように問う。


「今日は数学と理科を中心に、英語も少し復習した」


 いつものように答える。

 勉強ができるだけで生活していけるかどうかは甚だ疑問なところであるが、少なくともクラスでしょうもない階級争いに躍起になっている奴等よりは僕の方が将来ノーベル賞を受賞できる可能性は高いだろう。



 リビングのテレビでは七時のニュースが流れていた。時事問題も入試では重要だ。

 そのニュースに目をやった。


 ニュースでは大きく『◯◯県内での少女を狙った連続殺傷事件の犯人逮捕! 犯人は何と、高校二年生』との見出しが掲げられ、キャスターが神妙な面持ちで話していた。


 この事件は、今月初旬から中旬にかけて起こった。◯◯県で小学五年生から中学二年生の、各々何の関連もない少女四人に対して起こった残虐な強姦殺傷事件だった。


 共通した手口は、帰宅途中の少女の後ろから背中にナイフが突き立てられた。そして、瀕死の状態の彼女達は強姦された。


 四人の少女のうち一人は死亡、三人は今も意識不明の重体という、実に凶々しく恐ろしい事件だったのだ。


 ニュースキャスターも神妙な面持ちで話している。


「逮捕された高校二年生の男子生徒は、容疑について全面的に認めている、とのことです。連行される間は取り乱す様子もなく冷静沈着で、薄ら笑いさえも浮かべている、とのことでした」


 テレビ画面が切り替わり、殺傷事件の現場が映った。

 少年法に保護された彼は、間違ってもその顔を晒されることはない。

 その代わり、事件現場の寂れた路地裏の風景が、言い様のない不気味さを醸していた。


 さらに画面が切り替わり、被害者の少女達の顔写真が映る。

 少年法で保護された少年とは対照的に、少女達の純真な笑顔はどのパーツも隠されることなく曝け出された。極めて世の不条理さを感じる報道だ。


 しかしその中で、死亡に至った小学六年生の少女は、透き通るような白い肌で長い睫毛をした瞳を細め、白い歯を見せて写真の中からこちらに微笑みかけていた。

 それはまるで、アイドルかと思えるほどに美しく……この少女に対してであれば、犯人が異常な性癖を露わにしたことも頷ける。そんな考えを禁じ得なかった。


 そして、すぐにそんな邪な考えを持ってしまった自分自身を嫌悪する。


 自分はこの犯人とは違う。

 少なくとも、人を殺すなんてことはしないし、そんなことをすると人生の全てを棒に振ることは分かっている。たとえ、この被害者ほどの絶世の美少女が自らの前に現れても……理性で歯止めをかけることができる。


 しかし……実行することはないにしても。自分の内に、この犯人と同様の『魔物』が潜んでいないと言えるのか。


 残念なことに、自信はなかった。

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