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ピエロ  作者: いっき
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プロローグ~ピエロ恐怖症~

 どういうわけか、物心ついた時からピエロが恐ろしくて堪らなかった。

 母親と共にサーカスを観賞した時、常に笑顔でいるピエロと目が合っただけで背筋が凍るような恐怖が走った。

 虐められても、罵倒されても屈託なく笑う道化の仮面の裏に隠れた素顔が分からないことに、言い様のない恐怖を感じた。


 幼い頃、こんな夢を見たことがある。

 ピエロが色とりどりの風船を小さい子供達に配っている。

 子供達はみんな仲良しのグループだが、僕は一人だけ仲間外れで、ぼんやりとその光景を眺めている。

「ねぇ、何で僕だけ貰えないの?」

 そう言いたい僕を他所に、ピエロは笑顔で子供達皆に風船を配り終える。

 そしてピエロは表情を変えず近付いてきて、僕の手を引く。

 何気なく付いて行った僕は鉄格子の檻の中に入れられ、ピエロは子供達のもとへ戻って行く。

「嫌だ、出して……! 出してよぉ!」

 僕は鉄格子を掴み、必死に泣き叫ぶ……。


 そこで目が覚める。

 幼い頃、その夢を何度も見て、汗ぐっしょりで目覚めた。

 小学校に入る前のことだろうか。


 小学生になり、僕は優等生になった。弱虫だった僕は、いつも母親から言われていた。


「要かなめは、みんなのように強くはないけど、頭のいい子。勉強をもっともっと、誰よりも頑張れば、誰よりも偉い人になる。どんなに虐められてもそんな奴らのことは馬鹿だと笑ってやりなさい。そして、将来みんなのことを見返してやりなさい」


 その言葉に従って、勉強に勉強を重ね、同じ学年では僕に勝る成績の者はいなくなった。そして、地区で一位の大学進学率を誇る男子高校の付属中学に入学した。


 しかし、中学で僕はいじめの標的となった。

 中学でも僕は相変わらず勉強を重ねたが、弱い者が目立つ成績をとることで、状況は悪くなる一方だった。怒ったり泣いたりすると、さらにいじめはエスカレートした。


 そんなある時、ふとピエロのことが頭をよぎった。

 ピエロを恐れる気持ちは変わらなかったが、その頃には羨望の対象にもなっていた。どんなに笑いものにされても自分の感情を一切表に出さない、その強さが欲しくて堪らなかった。


 高校に進んでから、僕は「ピエロを演じる」行為をするようになった。

 クラスの中でわざと無表情で皆が笑う言動をし、みんなの嘲笑の的になる。その上で勉強に勉強を重ね、誰にも負けない成績をとる。

 そして、心の中で周囲を見下す……。


 この上ない快感だった。

 サーカスでおどけてみんなから笑われながらも華麗に綱渡りを披露するピエロも、この快感に溺れていたのではないかと思った。

 周囲からの嘲笑の的となる一方で、誰よりも優れている……そんな存在に僕はなりたかった。


 僕の机の上では、ピエロの人形が不穏に屈託なく笑っている……。

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