はじまりはじまり
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各国の歴史や文献がまとめられている古代歴史図書館で大量の本を抱え、なにやら調べ物をしている男がいる。指紋がベトベトについた眼鏡に、薄汚れたローブ、帽子から飛び出た寝癖。風呂にもろくに入れていない様子から誰も近寄ろうとはせず、遠巻きに見ているだけだ。時折ブツブツと独り言も言っているものだから、尚更誰も彼に声をかけようとはしない。
彼の住む国は原因不明の病に多数の市民が苦しめられており、どんな医者でもその病を治すことはおろか、原因すらも見つけることが出来ないため、あらゆる方面から調査をとのことで学者たちが総出で過去の文献やら歴史書の調査をしているというわけだ。彼もその学者の端の端のそのまた端の端くれではある。最近ボロボロの姿で図書館を出入りしているため、図書館利用者からは影でマウスと呼ばれている。
歴史上表舞台に出てくることは少ないが、優れた女王と平和な猫たちの国。
マウスはこの国に糸口があると考え、文献を読み漁っているのである。学者仲間の中には、そんな国は存在しないと断言する者もいるくらい歴史上にはほとんど名前が出てこない。それでも300年前に似たような症状の疫病を女王と1匹の猫が世界中を病を治しながら回ったという記載があったのだから、彼はこの国を調べると決めた。現在では国の場所はおろか、まだ存続しているかすらも分からない猫の国。図書館にある文献だけでは情報が足りず、彼はさらに調査をするべく何ヶ月もこもっていた図書館から外に出た。向かう場所は女王と猫が最初に病を治したとされる小さな国へ。
マウスが旅立った日は奇しくも猫の国と呼ばれているネルミェット王国に300年前歴史上初めて人間の女王が誕生日した日と同じ日であったことは何かの運命かもしれない。なぜ世界の人々が彼の国の名前すら知らないのか、そして誰もそれを疑問に思わないのか。ある日突然、世界から消えた平和な国のお話。